第十八話 殺すぞ豚
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仮腹の儀――。
神格と実体を失いかけた神を女性の子宮に封じ、消滅を防ぐと同時に、神を人間に忠実な存在に作り替える秘奥だ。
子宮に封じられた神が信仰を取り戻した時、胎児と融合、或いは母体を食い破ることで再度の受肉を可能とするが、その本質は信仰に狂った者ならではの奇跡では無く、神の隷属を目的とする極めて人間的な我欲を象徴する呪いである。
何処ぞの盆暗が身の程も弁えず、如何わしい秘術でカトリエルの身体に邪神では無く、魔人ハーティアを封じ、その身体を蝕んだ。
カトリエルが受精すれば、新たに生まれてくる子供はその心身をハーティアに奪われる。
受精せずともカトリエルが絶望すれば、負のエネルギーを餌にしてハーティアはその力を肥大化させ、カトリエルの心身を内側から食い破って復活する。
呪いをかけた者が何者で、何を思ってカトリエルの躰に邪神では無く、魔人を封じ込めたかは定かではない。興味もない。
そいつが生きているのか、死んでいるのかも謎だが、生きていれば縊り殺せば良い。
何はともあれ手立ては整った。
今やるべきことは下手人を抹殺することでは無く、仮腹の儀からカトリエルを開放することだ。
開放しないことには将来の話もクソもヘッタクレも無いわけで――。
「ま、まずは君を呪いから解放することが先決だと思わないかい? この状況じゃ、ほら安心して子作りも出来やしない。だろ? な? 自分が腹を括るのはそれからでも遅くなって言うかさ……、み、みんなも分かってくれますよ、ね?」
気付けば自分は女性陣に壁際まで追い詰められていた。退路が無い。在ったとして撤退しても後が怖い。
早口で飛び出した苦肉の言葉にカトリエルが沈黙し、エーヴィア、ネフェルト、リディリアさん、リリネットさんの視線が彼女に集中する。
「その言葉、結論の先送りにしかなっていないと思うのだけれど? それにこの娘達を放っておいて良いという理由にもならないでしょう?」
「君を仮腹の儀から解放する手立ては確かに整った。けれど、まだ開放されたわけじゃないんだ。万全の体勢で万難を排する。将来の、これからの話はそれからでも遅くは無い。違うかい?」
カトリエルの視線が真正面から突き刺さる。怒っていると言うよりは何かを推し量っているように見える。
例え身内贔屓と謗られようとも、彼女は類を見ない美女だ。
美女だが、無感情で無表情にみられると何とも言えない迫力がある。
結論の先送りという彼女の指摘がご尤もなことで後ろめたいものがあるから、尚更そう感じてしまっているのも事実だ。
とは言え、目を逸らせば自分の言葉の内、半分は言い逃れみたいなものだと悟られそうで背筋に冷や汗が浮かぶのを感じながら、カトリエルの言葉を待つ。
すると彼女はあからさまな溜息を吐いて、「貴女達の意見も聞かせて頂戴」とエーヴィア達に問いかける。
周囲の空気に流されていたと思われるネフェルトがおずおずと手を挙げた。
「旦那様が仰っていることは当然のことだと思います。そのご意向にも従いたいです。私はその、隅にでも置いて頂ければそれで満足ですので」
「わ、私は蒼一郎様のことが大好きです! だから困らせるようなことはしたくないです! その代わりと言うわけではありませんが……、その、心の片隅にでも良いから私の存在を置いてもらえたら、って……」
ネフェルトに追従するエーヴィアが顔を赤くして目線を床に落とした。
何と言うか、今更かもしれないが『ハーレムなんて不道徳なもの認められるかーいっ!!』なんて言えない雰囲気だ。
気持ちは嬉しい。ただ、晩婚化の著しい日本の成人男性としては結婚と言うのは、どうにも底知れぬ恐ろしい重圧を感じて仕方が無い。
しかも、一度に五人も娶れと言う。その代わり、全員が美女、美少女だ。
あまりにも自分一人に都合が良過ぎて後ろめたい。
「ま、旦那は押せば何とかなりそうだし、アタイは大奥様の考えに従うよ」
「蒼一郎さんに放っておかれるのはいつものことですしー」
無邪気そうな笑みを浮かべるリリネットさんと、何とも言い難い笑みを浮かべるリディリアさん。
二人の口から微妙に反論し辛い言葉が飛んでくる。
被害妄想や自虐では無いと思うが、彼女達から『もうお前にゃ期待してねーよ』という雰囲気すら漂っているような気さえする。
嫌われたり失望されたりするのは当然嫌なわけで、いっそのこと役得だと思って開き直るのが一番の解決方法だろうか。
だが、取り敢えずは――。
「ガラベル……」
「ヴィヴィアナ……」
人の家で二人だけの世界に入り込んでいる桃色脳味噌の古代人の正気を取り戻し、やるべきことを済ませるのが先決だ。
コイツ等がいなくては仮腹の儀をどうにかすることさえ出来やしないのだから。
それにしても、片やと追い詰められ、片や思春期の恋愛みたいな雰囲気を漂わせる。
自分とコイツ等の差は一体、何なのだ。非常に問い詰めてやりたい。
「…………………………」
しかし、流石は超越種だ。無遠慮な視線を投げかけること僅か三秒で状況に気付いてくれた。
ガラベルが咳払いと共にヴィヴィアナから距離を取ろうとするが今更だ。
彼女に腕を抱かれて胸の谷間にイン。照れと気まずさと忌々しさが入り交じった目で睨まれるが知ったことか。羨ましいんだよ、クソが。
「それでヴィヴィアナ。貴女達が此処を訪ねた目的はハーティアの件で間違いありませんね?」
「あー……、うんうん。そうそう! それだよ、それ!」
何か後ろめたい物を振り払うような大声。ぜってー、忘れていやがっただろ、この女。
「それじゃあ、ちゃちゃっと片付けてもらって良いですか? 其方の色恋沙汰は決着が着いて今が一番楽しい時期かも知れませんが、此方は仮腹の儀を何とかしなければ話も進められやしないので」
「貴様の口は猥談か、茶化すのにしか使えんのか?」
「止めなよ、ガラベル。ヴィヴィアナ先生達がらぶらぶで羨ましくて嫉妬してるんだよ。それじゃあ、ちゃっちゃと手術を済ませちゃいますか」
「大仰にすれば良いというものでは無いけれど、私の人生を縛った呪いが軽く扱われるのも複雑な気分ね」
ベッドに寝かせられたカトリエルが不平をこぼす。
一見するといつも通りの無表情、無感情で他の人間には分からないかも知れないが、漸く重荷から解放されることに安堵し、少しテンションが上がっているように見えた。
「しかし、外科手術をするような環境では無いのですが、衛生面に問題は無いのですか?」
寝室にいるのは自分とカトリエル、ヴィヴィアナの他、ガラベル、ヴァリーの五人。他のみんなには悪いが退席してもらうことにした。
超文明の生き残りに、魔法だの、神の奇跡だのが当たり前のように存在する世界でする心配ではないのかも知れないが、寝室で大がかりな手術をするというのは些か不安が残る。
「んー? 子宮の中にあの娘が封じられてるって言っても物理的に封じられてるわけじゃないから、切開しても何も出てこないよ?」
「神を使役するだの何だの口実付けちゃいるが、仮腹の儀ってのは弱った神の存在を維持する霊子空間を人間の胎内に創造することが本質だ」
「神様を洗脳するために生み出された霊的な異世界を、ヴィヴィアナ先生の子宮に移植するのが今回の手術の目的ってわけだね」
彼等はさも当然であるかのような態度で言って退けたが、出鱈目だ。
異世界を胎内に移植するなんて最早、神話の領域だ。
話のスケールが大き過ぎて意味が分からない。
「で、ヴィヴィアナ先生一人だけでも問題無いんだけど、ここで超優秀な助手の力を借りまーす。ヴァリーお願いね」
「それじゃあ、おにーちゃんの奥さんと先生の間に霊子空間を移す経路を作るね」
ヴァリーが言い終わるか終わらないかの内に、二人の下腹部が円筒状の黒い靄で繋がった。
トルトーネ街でキャスタードラゴンを飲み込んだ黒い影と、同じ性質を持つであろうことが気配で分かった。
自分が知っている手術とは根本からしてアプローチの仕方が違う。
――改めて出鱈目な奴等だ。
自分の心情を察したらしく、ヴィヴィアナとヴァリーが顔を見合わせて得意気な笑顔を向けてきた。
全く頼もしい連中である。
「分かり易く視覚化してるだけで物理的に繋がってるわけじゃないけど、特に違和感とか無いよね?」
「ええ、問題無いわ」
「それじゃあ、先生にバトンタッチ!」
「はい、タッチされたー。じゃ、仮腹の儀をちゃちゃーっと移植してしまうね」
手を叩きパァンと乾いた音を響かせヴィヴィアナは穴を開けた空間へと、おもむろに手を突っ込んだ。
次の瞬間、風船が破裂するような音と共に視界が一瞬だけホワイトアウトした。
寝室に肉が灼けるような異臭が漂い出す。
臭いの発生源はヴィヴィアナの異空間から弾き出され、黒く炭化し、手首から先が消失した右腕だった。
「え、ええぇぇぇぇ……?」
彼女は破壊された右腕を一顧だにせず、穴の空いた空間を見下ろし、如何にも戸惑っていますと言わんばかりの声を漏らす。
「何があった?」
ヴィヴィアナを気遣うガラベルの視線は此方を貫くような力が篭もっていた。
『ハーティアが封じられているという虚偽で引き寄せ、罠に嵌めた』
それくらいのとんでも理論が彼の頭の中で展開されているような疑念と敵意に晒され、頼むからお前ら状況説明と意思の疎通くらい済ませておいてくれと言いたくなる。
「胎内にハーティアはいるみたいだけど封じられているわけじゃないみたい」
「どういうことですか?」
再生途中の腕を組んで唸り、首を捻ったまま口を開く。
「と言うか、仮腹の儀で封じられているのってハーティアじゃなくて邪神だよ。霊体化したハーティアが霊子空間の中で邪神の復活を食い止めてるみたいなんだよねぇ」
「その邪神は魔人が肉体を捨ててでも復活を阻止しなくてはならないような、厄介な存在なのですか?」
自分にはハーティアというルカビアンがどういう人格をしているかを知らない。
だが、ルカビアンはオウラノをヒトモドキと呼び、蔑視している。
カトリエルの胎内に居座る邪神が厄介な存在でなければ、態々ルカビアンが我が身を犠牲にしてまでオウラノの胎内に入るとは到底思えなかった。
自分とヴィヴィアナの間にある程度の信頼関係が成り立っているのも、自分が純粋種だからだ。
そういう例外が無い限り、ルカビアンがオウラノを守るようなことをする筈が無い。
恐らく、彼女がハーティアの行動を疑問視しているのもそれが理由だ。
「弱ってるって言っても邪神は邪神だし、人間が言うところの下位の魔人じゃ厳しい相手かもなんだけど……、何で誰にも相談せずにこんなことしたんだろう?」
「ハーティアと、この女が知り合いだからってことじゃねぇのか?」
「え?」
ガラベルの指摘にヴィヴィアナは素っ頓狂な声をあげた。
恐らくだが、自分も彼女と同じような顔をしている。
カトリエルの顔を覗き見ると相変わらずの無表情ではあるものの、心当たりは無いらしく疑問と驚愕に瞳が揺れていた。
「通信機は生きている。死んでいたとしても自作出来る。誰かに連絡出来ねーってことはないってわけだ。ハーティアはガキだが、一人で出来ることと出来ないことの違いが分からねぇ程世間知らずってわけでもねぇ。ってことは周りに言えねぇ動機があるってことだ。魔人が人間を守るなんざイレギュラーな動機が。だから誰にも言わず、一人でどうにかしようと思ったってこったろうよ」
そう言って、ガラベルは完治寸前まで再生を終えたヴィヴィアナの右手を取り、傷口の観察を初め、「この残留魔力、ハーティアの無間迅雷牢獄か」と呟き、納得がいったように頷いた。
「ヴィヴィアナの干渉を拒んだのは邪神の復活を抑え込むので精一杯どころか、霊子空間の僅かな変化だけでも拮抗が崩れるところまで来ているからか? しかし、ハーティアめ、この威力は本気みてぇだな。しかも余裕が無い」
「では、ハーティアにとって、カトリエルはそうまで必死になって護らなければならない存在だと?」
「状況証拠的にはな」
ガラベルは忌々しさを隠すこと無く吐き捨てる。
自分にとって彼は暫定的には味方だが、彼にとって自分はライゼファーを殺した仇だ。
だが、状況が揃えば揃う程、彼は自分に味方するしか無くなっていく。
それが彼を苛立たせていることは何と無く察することが出来た。
生憎、自分の口から言えることと言えば、不満があるなら美人の幼馴染と乳繰り合ってろとしか言いようがない。
今へそを曲げられても困るので、そんなことを口に出したりはしないが。
「カトリエル、身に覚えは……、その様子だと無さそうだね」
「ええ」
ガラベルが「その鉄面皮で何で考えてることが分かるんだよ」と無粋な突っ込みを入れてきたので「愛の力だ」と一蹴して、対応を考える。
移植は霊子空間に大きな影響を及ぼし、邪神の復活を阻止するハーティアの足を引っ張り、カトリエルを却って危険な目に合わせることになる。
結論にあぐねているとカトリエルと目が合った。愛の力、なんて言ったせいだろうか。
その顔は羞恥で赤くなっている。
そういう可愛い顔をされると男って単純で安い生き物は、もう一頑張りするかと奮起出来るもので――、
「ヴィヴィアナ、ヴァリー。自分を霊子空間の中に送り込むことは出来ませんか? 勿論、ハーティアを刺激しないように。直接行って邪神を焼き殺してきます」
少しばかりの無理くらいなら、ノリと勢いだけでやれてしまうものなのだ。
「無理無理無理!」
――そんなご無体な。
「仮腹の儀がオウラノの生み出した秘術って言っても、ハーティアが更に独自のアレンジを加えて内部に侵入しちゃってるから、いくらヴィヴィアナ先生でも解析には時間がかかっちゃうよ!」
「其処を何とか……」
大体、ルカビアン基準の時間がかかるって何年、何十年の話だ。
「何とかって無茶振りしてくれるなぁ! 結局のところ仮腹の儀って言うのは神様のための空間なんだから、いくら純粋種でも侵入するにはそれなりの手順が要るんだよ! 何か、もうハーティアも慌ててたか何かで滅茶苦茶にとっ散らかった術式構築しちゃってるし!」
ベテランのプログラマーでも他人の書いたソースコードを読むのは途轍もなく時間がかかると言うが、多分それに似た状況になっているのだろう。
無理矢理納期を縮めて強引にプログラムを走らせる代償は、カトリエルの命だ。それは論外だ。他だ。他の手立てが要る。
いや、一つだけだが糸口がある。彼女が口にした『神様のための空間』という言葉だ。
「神様のための空間……それは神ならば問題無く侵入出来るということですか? 例えば自分のような半人半神でも?」
口にした瞬間、空気が固まった。
カトリエルだけでは無く、ルカビアンの三人さえも驚愕を顔に浮かべて絶句している。
分かっていてもカトリエルの反応に怯みそうになるが、今は何もかもを度外視だ。
カトリエルは兎も角、ルカビアンにそんな信心深さがあるとは到底思えやしないが、深く突っ込むと面倒が増えそうなので、それ以上を口にせずヴィヴィアナの返答を持つ。
カトリエルの顔を見続けることは――、怖くて出来なかった。
「どうなのヴァリー?」
「わー……マジだよ。最初に会った時から神性を宿してるのに気付いてたけど、おにーちゃん自身が信仰を受けて無かったし、蒼のルスルプトの加護を受けてたから、てっきり神剣のレプリカ由来の神性だとばかり思ってたよ。おにーちゃん自身の神性が神剣のレプリカから神性を引き出させて相互に作用してるみたい」
キャスタードラゴンに備わる加護の研究をしていただけあって、神性の知覚はお手の物らしい。
ヴァリーの明るい表情を見るに、今の自分の神性でも問題は無さそうだ。
レーベインベルグと神性が相互作用しているというのは流石に自覚していなかったが。
自分が特別なのか、それともレーベインベルグを打った人が特別なのか――、気にならないわけではないが今は関係の無いことだ。
今は意識の片隅にでも置いておくことにする。そのまま置き忘れてしまいそうだが。
「あなた……」
「ごめん。帝国の人は神に対する敬意が強過ぎるから隠していた。君が跪いて自分を信仰するかも知れない。人と人として生きていくことが出来なくなるかも知れない。そう思ったら、挫けてしまいそうで言えなかったんだ」
神になど堕ちたくない。人でいたい。人として扱って欲しい。
彼女にだけはそれを分かって欲しい。読めない表情を浮かべる彼女に伝えようとする言葉が矢継ぎ早になっていく。
本当に何から何まで神という存在は、ただただ厄介でしかない。
「家族会議は後々! おめでとう、倉澤蒼一郎! 秘術の定義上、お前は神様だ! お前ならハーティアの足を引っ張ること無く、仮腹の儀の中に侵入することが出来る!」
空気を読んでか読まずかヴィヴィアナが自分の背中を叩いて、大声で囃し立てる。
そうだ。今は邪神を殺す。全てはその後だ。
「分かりました。邪神を縊り殺してカトリエルを開放する」
「ね、おにーちゃん」
「ええ、大丈夫ですよ。ハーティアにはカトリエルを守ってもらった恩がある。彼女も必ず無事に救出します」
ヴァリーが新たに生み出した空間の中に向かって踵を返すと礼服の袖を引かれた。
振り返ると真っ直ぐに自分を見上げるカトリエルが手を伸ばしていた。
「分かっていると思うけど早く片付けて戻って来なさい。少し驚いてしまったことは否定しない。それでも……、あなたが何者であったとしても、あなたは私の夫よ。あなたの居場所は私の隣なのだから、すぐに戻って来なさい」
神では無く、人として彼女が受け入れてくれた。
心からの安堵が衝動的に彼女を抱き寄せ、口付けを交わす。
「わー、大胆」
「ねーねー、ガラベル、あれヴィヴィアナ先生もやりたーい!」
「時と場所を考えろ、ド阿呆共!!」
十分に気合いは入った。
外野からの雑音を無視して「すぐに戻る」とだけ残し、今度こそ霊子空間に向かって飛び込んだ。
視界が反転する。
光に吸い込まれたかと思えば、自分の中に光が吸い込まれていく。
黒が左へ、白が右へと流れ、歪む空間が角ばったり、丸まったり姿形を変えていく。
その内に、自分は青と黒が入り混じる暗い竪穴の中に放り出されていた。
目まぐるしく変わっていく視界に不快感を覚え、胃の中から酸っぱい物が込み上げてくるのを感じた。
誰の目があるわけでも無い。吐瀉物を撒き散らしても良いが、この感覚を自分に与えているのが件の、カトリエルの身体を蝕んでいる邪神だとしたら、負けたみたいで腹が立つ。
「神風情が上等だ………………、貴様は灰すら残さん。殺すぞ豚ァァァァァッ!!」
霊子空間の果てまで届くように、鋭く研ぎ澄ませた殺意を乗せて叫ぶ。
俺は此処だ。貴様を殺す。殺してやる。何処までも、声を遠く響き渡らせる。
取るに足らない灰燼の如き無価値で、愚鈍な神が惑うこと無く、俺の存在を認識出来るように。
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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved.
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