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第八話 飲んだくれ無職

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 精霊兵器――、人が好きな精霊たちが鍛冶師を真似て作った剣や盾の総称だ。


 仰々しい呼び方とは裏腹に造りは簡素で、造形は無骨だ。

 性能も見た目通りで、冒険者や衛兵を目指す少年たちがなけなしの小遣いで購入するような、安価な武器と大差は無い。

 精霊とは精神的な異世界に存在する生命で、物質とは余り相性が良くない事が、そのまま性能に反映されているらしい。


 だから、ある意味で精霊が物質的な物を産み出すこと自体が凄まじいことなのだと言われている。

 精霊が人に対する好意がそのまま行動や成果に現れているということなのだろう。

 尤も、精霊兵器の用途は召喚魔法の登竜門止まりで、製作者たちの意図した使われ方をする事は皆無と言っても良い。


 召喚魔法は異なる世界に魔術的な経路で接続し、物や力を術者側の世界に具現化させる魔術だ。

 此方側の世界に具現化させる物質の存在規模の大きさが、そのまま召喚術師の力量となって評価される。


 数多く存在する異世界の中でも精霊世界は召喚術を学ぶ人々にとって、最も安全な世界だ。

 訓練用の物打ちの刀剣類の存在規模は極めて小さく、召喚魔法の基礎を学ぶには打って付けと言える。

 大抵の召喚術師は精霊兵器の召喚に成功したら、次のステップに進む傾向にあり、精霊兵器を活用する事は殆ど無いと聞く。


――自分にしてみれば非常に使い勝手の良いお気に入りの武器だが。


 気に入っている理由の一つが消費魔力。

 精霊兵器一個を召喚するのに必要な魔力は原初(フォルメス)の火を召喚する魔力の一万分の一。


 破格も破格である。人好きが高じて作った物を人から必要とされる事が嬉しいらしい。

 精霊側も召喚の手助けをしてくれる事がコストパフォーマンスの高さを実現しているそうだ。


 今の自分が自前の魔力で原初(フォルメス)の火を召喚出来る回数は二回。

 ゲーム的な言い方をするなら自分の最大MPが二万三千といったところだろうか。

 既に原初(フォルメス)の火を二回召喚しているので、残りMPは三千くらい。

 つまり、精霊兵器を三千個くらいは召喚出来るというわけだ。


「なんだか凄いことになっちゃいましたね……」


 ネフェルトさんが呆気に取られた様子で呟く。

 巨人の縄張り跡を探索していると焚火を中心としたサークル内に巨人の居住スペースらしき物を発見した。

 大型の動物の皮を剥いで作ったであろう寝室のすぐ側に金属製の箱が置いてあった。


 その箱を一言で表現するなら――宝箱だ。


「巨人が宝箱に罠を仕掛けるだけの頭があるとは思えませんが、用心に越したことはありませんからね」


 獣の骨と皮、木の蔓で作った収納庫等、巨人の粗雑な印象とは裏腹に意外と手先の器用さを思わせた。

 財宝を溜め込む性質と合わせて考えれば罠の一つや二つ仕掛けてあっても不思議なことでは無い。

 その罠が子供騙しな物であったとしても、巨人が作ったものだと考えたら、恐ろしくとんでも無いものになりかねない。


 其処で出番となるのが先に述べた精霊兵器だ。

 宝箱の前で精霊盾を五十個を束にして、地面に突き刺すように召喚。

 これを自分達の全周囲を覆うように十セット召喚して即席の防護壁をでっち上げた。


 そして、抜き身のレーベインベルグに組み込まれた術式の一つ、爆撃を起動。

 刀身から紅蓮の炎が迸る。原初(フォルメス)の火とは違い、魔力由来の普通の――普通ではないが――炎だ。


「では、宝箱を吹き飛ばします」


「スリルありそうですね。ちょっと……ううん、大分ドキドキです」


「同感です。自分も宝箱なんて見たのは初めてですから、正直何処まで警戒したら良いか分かりません。ですが此処までやれば流石に大丈夫でしょう。行きますよ。三――――二――――一!!」


 業火を纏ったレーベインベルグを宝箱目がけて投げ付け、ネフェルトさんを抱き込み、精霊盾の束を背にして何かが起こるのを待ち構える。

 巨人の縄張りに爆音が轟き、破砕音――宝箱が壊れる音がした。


 十、九、八、七、六――、何かが起こる様子は無いが、一先ず十秒程様子を見ることにした。

 二つの意味で胸が高鳴る。一つは自分一人だけなら兎も角、ネフェルトさんの命がかかっているから。

 もう一つは宝箱の中に入っている物が何かという期待だ。


 そして、今更になってトンネルの入り口からレーベインベルグをぶん投げれば良かったんじゃないかと思い至る。

 今更なので気にしないことにして警戒心を宝箱に仕込まれているかも知れない罠に集中させる。


「く、苦しいです!」


 集中力が途切れた。緊張の余り、ネフェルトさんを抱き締める両手に力が篭もり過ぎていた。


「す、すいません」


 慌てて、両手を離す――のは、まだ良くないので力を抜く。


「はふ……倉澤さんみたいな凄い冒険者でも緊張するんですね。胸、凄くドキドキいってましたよ?」


「如何せん小心者ですから。しかし、罠は無さそうですね。警戒し過ぎたかな……」


 彼女を抱き寄せたまま盾の隙間から宝箱の様子を覗き見る。

 横たわる宝箱の開け口は吹き飛び、幾つか中身がこぼれている。

 無味無臭、無色透明なら兎も角、物質的、魔術的共に罠らしい罠は無さそうだ。


「これなら、宝箱ごと持ち帰っても良さそうですね。今日は要塞の人たち全員を巻き込んで宴会かな」


 召喚した大量の精霊盾を送還して、ネフェルトさんに手を差し伸べて立たせ、手を繋いだまま宝箱に近付く。

 地面に突き刺さったレーベインベルグを引き抜き、横倒しになった宝箱を足を使って立たせ、中身を検めると良さげな物が見つかった。


「これはネフェルトさんに似合いそうですね」


 瑞々しい輝きを放つトパーズがあしらわれたブロンズのネックレスをネフェルトさんに付ける。

 案の定、良く似合う。美少女なら何でも似合うと言ってしまったらそれまでだが。

 

「い、良いんですか? こんな物を頂いてしまっても……!」


「良いんですよ。自分が必要な物以外は最初からエルベダ要塞に全て納めるつもりでしたし当然の権利です。気が咎めるようなら道案内をしてくれた報酬だと思ってください」


 更に言えば、宝探し自体が目的みたいな物で中身自体はどうでも良かったりする。

 冒険者といっても伝統的にそう呼ばれているだけで実質的には荒事専門の何でも屋というのが現代の冒険者だ。

 それではあまりにも浪漫が無い。偶には文字通りの意味で冒険者らしいことをしてみたかった。ただそれだけだ。


「金目の物があっても現金化する手段を持っていませんしね」


「倉澤の旦那様に必要な物ってどんな物なんですか?」


「そうですね……。魔術兵装の魔力充填が可能な霊薬や、大型術式が組み込める宝石付きの防具ですね。手が塞がらず身体に密着させるような物が理想的ですね」


 レーベインベルグの魔力を完全に充填し、封印指定級の魔術兵装を幾つも装備して漸くグァルプと互角程度というのが自分の実力だ。

 あれで下位の魔人に区分けされている以上、奴等との埋め難い差を少しでも埋めるには魔術兵装の数で補うしかない。


 残念ながら完全に当てが外れ――「探している物ってこういう物ですか?」――ていなかった。


 彼女が宝箱から取り出したのは真新しい金属質の籠手だった。

 掌の部分には籠手と同じ色のパイライトが埋め込まれていた。大きさは申し分無い。

 試しに装着してみると見た目よりも指が動かし易く、剣を握ると意外にも掌のパイライトは邪魔にならなかった。

 難を言うなら左腕の部分しか見つからなかった。

 前の持ち主の趣味でそうなっているのか、それとも巨人によって右腕を粉砕されたか。


「では、今回の冒険の報酬は自分がこの籠手を。ネフェルトさんはネックレスを。要塞の人たちはこの宝箱を。そんな感じでどうでしょうか?」


「良いのでしょうか……? 倉澤の旦那様に危険な所を救い出してもらいました。私だけではありません。貴族様達から見放された要塞を救ってもらった上に要塞のために巨人の財宝まで頂けるなんて……。この御恩を一体、どうやって返せば良いのか……。私から差し出せるのものなんて、この身体くらいしか……」


 酷く心苦しそうな顔をしている彼女の頭の上に手を乗せる。


「自分は聖人ではありません。ちゃんと自分の思惑で動いています。そして、割と思惑通りの結果になりました」


 左腕に装着した籠手を動かし、ガシャガシャと音を立てる。

 この籠手なら魔人に限らず、随分と戦い易くなる。十分な成果を得ることが出来たと言える。


「諸事情により、自分は魔人と戦っています。金よりもこういう魔術兵装を集めることの方が重要なんですよ。巨人の財宝なら一つくらいはあるんじゃないかと期待していましたが、中々の成果を得られました」


 ネフェルトさんが何か言いたげに口を開こうとしたので、乱暴に頭を撫でて黙殺する。


「巨人に破壊された防壁や装備を整える事や他にも色々と金が入用でしょう? それにエルベダ要塞の料理と酒は気に入っているんです。これからも遊びに行くつもりですから、少しくらい協力させて下さい」


「また、来て頂けるんですか? 本当に?」


「ええ、本当ですよ。サマーダム大学に待たせている家族と仲間を回収したら同じルートを使ってソウブルーに帰ります。なので、エルベダ要塞には十日前後でまた来るつもりです。此処は食事も酒も美味いですから」


「あの……それじゃあエルベダ要塞にいる間、倉澤の旦那様のお世話は私がするというのはどうでしょう? お食事とお酒をタダで用意することしか出来ませんが……」


「十分ですよ。お言葉に甘えさせて頂きます」


 身体しか差し出す物が無いと言われた時は口から心臓が飛び出すかと思ったが。

 他人どころか自分自身まで軽く扱えてしまうのは人権という言葉が存在しない世界だからだろうか。

 ヴァレントさんのお気楽さを考えると彼女生来の気質かも知れないが。

 彼女とはもっと対等と言うか、気安く付き合っていきたい。


――もう少し借りを作って、気後れの原因を取り除くべきだろうか?


「その結果がこれか?」


 ヴァレントさんが気の毒な物を見るような目で笑った。

 視線の先には自分の礼服をせっせと繕うネフェルトさんの姿があった。

 何が楽しいのか嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべている。


「いえ、家政婦や小間使いを欲しているわけでは無いんですけどねぇ」


 食事以外で彼女に頼れそうな事は無いだろうかと無い頭を振り絞って、どうにか思い付いたのが礼服の補修と、巨人の縄張りで見つけた籠手の清掃だ。


 手持ち無沙汰なので防壁の補修を手伝おうかと思ったが――、


「もう十分過ぎる支援をもらっている。ただでさえ命の恩人だってのにこれ以上、甘えたら邪神に堕とされちまう」


 ――と笑いながら断られてしまった。


 更にネフェルトさんを世話係にと宛がわれた。

 仕事を与えないわけにもいかないので、色々任せたは良いものの自分は平服――白いカッターシャツに黒のデニム――に着替えて、真昼間から酒をかっ喰らう。


 見ようによってはリストラされた癖に女房に家事を押し付け、白昼堂々と酒に溺れる駄目亭主に見えなくも無い。


「何か仕事は……仕事は無いか。要塞の人たちがせっせと働いている中、酒飲んでふんぞり返るって気まずいなんてものじゃありませんよ」


「別に良いじゃないか。みんな飲んでて良いって言ってるんだからよ。あやかりたいくらいだぜ」


 そう言いつつ、酒瓶に伸びる手は止まらない辺り、自分も大概の駄目人間なのかも知れない。


「あやかりたい」などとお気楽なことをほざくヴァレントさんを、呑み相手に巻き込む事にした。


――この気まずさを一緒に味わうが良い。


 そして、この日の夜、サマーダム大学行きの馬車が到着した。

 幸いにもエルベダ要塞が巨人に襲撃された事はソウブルーに報告が届いていないらしい。

 馬車の御者はとんでもない時に来てしまったと顔を蒼褪めさせたが、御気の毒様である。

 彼等の心情はさて置き、このまま馬を休ませて翌朝、要塞を発つそうだ。


 席には空きがあるらしく、同道させてもらえる事になった。

 一日の遅れが出てしまったが、これでどうにかサマーダム大学には辿り着くことが出来そうだ。


――胡桃さんは大丈夫だろうか。我儘を言ってリディリアさんを困らせていないだろうか。夜泣きせずにちゃんと眠れているだろうか。好き嫌いを言わずにちゃんと食事しているだろうか。


 一応、グァルプを追撃する前に、リディリアさんと、ブリジット・ヴァラスの二人には金を多目に持たせて胡桃さんの面倒をお願いしている。

 大学の外では半獣人に対する風当たりが強いといけないので、業腹だがルトラールにも金を持たせて陰から護衛するように依頼をしている。


――滅多な事にはなっていないとは思うが……、矢張り、心配だ。


 次の街では何のトラブルも起きなければ良いが。

 起きても良いが、日を跨がずに解決出来るレベルで勘弁願いたい。

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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