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第二話 八雷神教会

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 朝食を終えた後、胡桃さんに食器洗いを仕込みつつ、並んで後片付けを済ませる。

 それが終わるとカトリエルは工房に、リディリアさんは店先に出る。

 自分は当初の予定通り、八雷神教会へ向かう。


「胡桃さーん! 行くよー!」


「わあああああああ!! 行くーーーーーーーーーーー!!」


『行く』は胡桃さんのテンションを跳ね上げる魔法の言葉。自分の周りをぐるぐる回って、浮かれた感情の赴くままに体当たりにも似た勢いで飛び付いて来た。

 抱き留めたその場で、左踵を軸にくるりと一回転。衝撃を受け流して胡桃さんを地面に立たせる。


「さ、手を繋いで行こうねー」


「はーいっ!」


 昨日は叙勲式の準備で朝から忙しく、昼過ぎから今朝方にかけて昏倒していたせいで散歩が出来ていなかった。

 今日は大事を取って丸々一日休む予定なので、家族サービスと洒落込むことにした。

 わざと遠回りをして鍛冶職人エリアの方に行くと、スケイルドラゴンに破壊された施設が綺麗に整いつつある。


「どんなのができるんだろうねー?」


「そうだねー。楽しみだねー」


 忙しなく動き回るドワーフ達の姿を興味深そうに胡桃さんが目で追いかける。

 自分もドワーフ達の鍛冶場はスケイルドラゴンに破壊された後しか知らないので、完成後の姿が楽しみだったりする。

 何せ、ドワーフの親方一人につき熔鉱炉が一つ与えられるらしいから、それはもう壮観だと思う。

 復旧完了までおよそ二週間。その変化を楽しみたいので鍛冶エリアを散歩コースに組み入れることにした。

 見知ったドワーフ達に手を振り、暫く先を道なりに進むと土や木の匂いが漂ってきた。家具職人エリアだ。

 ソウブルーでは陶芸家も家具職人の範疇に入るらしく、現実世界とは違って焼き物に芸術的価値は無いらしい。

 バーグリフあたりが、そういう価値観をソウブルーに発信したら面白いことになるかも知れない。


――何なら龍殺しの雷名を利用したら、陶器に芸術的価値を発信出来るか? いや、それよりも……


「たまには何か作ってみようかな」


 無造作に積まれた木材の切れ端を見て、ふと思った。


「あのね、ますたー。お昼寝用のベッドがほしー!」


「ベッドかー、そういえばこっちには胡桃さんのベッドが無かったねー」


 現実ではその時々で好き勝手に快適な場所を見つけ出して昼寝して、夜は自分の足か腕の上で寝ていたが、それ以外にも胡桃さんの定位置というものがある。

 それが自宅のリビングに置いてある胡桃さん専用ベッドだ。自分が中学の夏休みに自由工作で作った奴だ。

 何かが足りないと思っていたら、これだ。


「よーし、じゃあ作ってあげるねー」


「わーい♪」


 家具職人に金を持たせてカトリエルの錬金工房に木材や釘等、ベッドの材料を運び込むように頼む。

 ご満悦の胡桃さんを連れて次の場所――。製糸工房が軒を連ねる裁縫職人のエリアに行き、先程と同じように針子に金を握らせて綿、布、針、糸を錬金工房に届けさせる。

 折角だからベッドの中に詰めるクッションも手縫いすることにした。


――裁縫なんて中学の家庭科の授業以来だけど……、身体が覚えてるだろ。


 そうして遠回りに遠回りを重ねて漸くギルド地区へと辿り着く。

 誰が管理しているのか知らないが、相変わらず落ち葉一つ落ちておらず、整然とした雰囲気を漂わせている。

 舗装された街路樹を進むと数人の冒険者や戦士、司祭達とすれ違う。


「――――――――…………」


 この辺りに差し掛かると胡桃さんと手を繋いで歩いていても怪訝な目で見られる事も減る。

 商業地区や職人地区と比べると人口が少ない上に立ち入る事が出来る人間も限られているからだ。

 それにギルド地区の人々の大半が力を尊ぶヤクザな商売を生業としている。

 舐められたら終いだが、力量差も見極められない馬鹿は長生き出来ない。

 少なくとも依頼も出ていない内からスケイルドラゴンと、それも単騎でやり合うような命知らずの奇人変人に進んで関わろうとする奴はいない。

 すれ違う歩行者と互いに背景扱いしつつ、ゆっくりと先を進む。

 並木道を冒険者ギルドから外れた方へ進むとやがて街路樹が途絶え、八雷神教会が姿を見せる。


「まるでおとぎの世界の教会、だな」


 夢見がちな女の子が好きそうな佇まいをしているが、その実態はソウブルーの第四層。

 徹底された区画整理により限られた人間にしか立ち入りが許されていない選民思想に凝り固まった万魔殿だ。

 八雷神は帝国の主神として崇められているが、礼拝等の宗教的儀式が自由に行えるのは王族や貴族等の特権階級、教会関係者をはじめとする知識階級。

 後は冒険者、衛兵、戦士、四層以上を拠点に出来る者や、カトリエルのような一部の錬金術師や鍛冶職人組合を取り仕切るロイドさん等、帝国やソウブルーへの貢献していると認められている人だけだ。

 一般人に与えられる機会は年に一度の聖誕祭のみだ。


――その一度の機会も赤のウァカロルに焼き殺されることもあるらしいが……


 普通に考えれば顰蹙物だが、八雷神手ずからクラビス・ヴァスカイルに送られたと名誉に思う狂信者もいるらしく、問題になるどころか八雷神の信仰を大きく揺るがすことは無いらしい。宗教だから当然だが狂ってやがる。


「さて……行くか!」


 気合いを入れて一歩を踏み出す。

 胡桃さんは半獣ということになっていて、ソウブルーの貴族達は半獣を奴隷扱いしている。

 余計な輩と顔を合わせることにならなければ良いが……。

 教会の扉を押し開けて中に入るとアーチ状の扉が八つあり、それぞれの扉の前に司祭と思わしき人間が直立不動で佇んでいた。

 その手前には聖堂騎士という奴だろうか? 全身を鋼鉄に身を包んだ騎士が切っ先の無い幅広の剣を携えて石像のように並んでいた。

 フルフェイスの兜を被っているせいで表情は分からない。ただ随分と無遠慮で敵意と警戒心に満ちた様子だった。

 それを証明するかのように胡桃さんが怯えたように自分の手を握る力を強くする。


「ようこそお越しくださいました。龍と魔人を降伏せしめた勇者、倉澤蒼一郎様」


「ご丁寧にどうも。青のルスルプトの召喚に応じて参りました」


 周囲の空気がざわめき、彼等の視線に込められた敵意が色濃くなったのを感じた。

 何が気に食わんのか知らんが一々癇に障る連中だ。

 レーベインベルグの焔でこいつら全員灰にしてやろうかと思ったが、青のルスルプトは言った。


 この世界は現実なのだと。


 一度、現実と認識してしまえば、今までのように安易に殺すというわけにもいかなくなる。

 業腹だが一先ず成り行きを見守ることにした。


「その予兆は此方でも把握しておりました。しかし」


「しかし? 自分の家族が何か?」


 一々喧しい気配を放つ奴等だ。一言も発することなく、身動き一つしないことが却ってコイツらの気配が癪に障る。


「此方に不作法があればどうぞ仰って下さい。如何せん帝国に来たばかりの無知な外国人なもので」


 爆ぜ飛びそうな堪忍袋の緒を必死に押さえつけ、あくまで友好的な態度を維持して言葉を選ぶ。


「左様で御座いましたか。しかし困りましたな。此処は高貴な方々のお越しになる神聖な場所でもあります故……」


「下賤な外国人には似つかわしくないということでしょうか? それでしたら仕方がありませんね」


「誤解はいけません。そうではないのです」


 踵を返すと司祭の一人が厳を含ませた口調で呼び止める。

 言葉こそ丁寧だが、まるで俺の察しの悪さを咎めるような物言いだった。

 未だ静観を保っている司祭や衛兵達も随分と苛立っているのを感じた。

 俺だって苛つかされているのだ。お互い様だ。


「非常に心苦しいのですが……」


「どうぞはっきりと仰って下さい。皆様の雰囲気を察するに此方に随分な無礼があったようですから」


――口に出来るものならやれば良い。


 俺はあくまで八雷神の一柱、青のルスルプトに呼ばれたから来ただけだ。

 此処で俺の立ち入りを禁ずる事は彼等の信奉する八雷神に背くことになる。

 しかし、胡桃さんを連れた俺を教会に入れることは奴の言った『高貴な方々の』不興を買うことになるのだろう。


――信仰心と忠誠心の二つが試されているぞ、精々悩め宗教屋。


 尤も、胡桃さんを蔑むような言動を一つでもしたならその時点で消し炭だ。

 レーベインベルグに組み込まれた六つの術式。その全てを把握しているわけではない。

 宗教屋共の命で性能確認をしておくのも良いだろう。


「ぶぇっくしょおぉいっ!!」


 妙に緊迫していた空気が豪快なくしゃみによって切り裂かれた。

 刺々しい広間の空気が別の意味で刺々しくなり、誰かが忌々しげに舌打ちした。


「あ、すんません。なんか大切なお客様でもお見えでした?」


 少しも反省の色が見えない態度で現れたのは、修道服を扇情的に着崩したシスターだった。


「申し訳ありません、倉澤様。お前は下がりなさい」


「いや、すまないが此方を優先してもらおうか」


 そう言って厳かに現れたのはあの老紳士、青のルスルプトだった。


「倉澤蒼一郎君には既に伝えているが、彼と黒のレスタイトは非常に相性悪い。彼の思考や言動、思想。これまでに彼がなして来たことなど問題にはならない。魂のレベルで相性が最悪なのだ。私の神性で彼の気配を隠さなくてはならない。早急にだ。さあ来てくれたまえ。勿論、その子も一緒にだ」


 議論は終わりだと言わんばかりに青のルスルプトは自分達に背を向ける。


「畏れ多くも申し上げます、青のルスルプト! その者は……!」


「彼等は諸君らが思っている存在では無いよ。寧ろ彼等は、我々寄りの存在だ」


「何と……!?」


 青のルスルプトが放った言葉がこの場にいる多くの者に衝撃を与えた。

 彼の言葉の意味は何と無く理解出来る。自分は夢を介して、このハウレアルという世界に干渉している。

 つまりこの身体は、地球で眠っている倉澤蒼一郎本人の、自分の身体ではない。

 胡桃さんに至っては柴犬から人間の身体に心を宿している有様だ。

 多分、神や精霊といった曖昧な存在に近くなっているのだろう。


「倉澤様は兎も角……、その半獣が……?」


 司祭達が絶望的な表情を浮かべている。


「彼等のことを敢えて言うのであれば極めて神に近い人間、半神。そして、極めて神に近い獣、神獣だ」


 そして、青のルスルプトは自分に向き直って言葉を続けた。


「倉澤蒼一郎君。誤解を受ける前に明言しておくが、獣人や半獣が穢れ、劣ったた存在と定義しているのは我等の教義では無い。彼等自身の、彼等自身のための、彼等自身による教義だ。我々八雷神にとって、人間も、亜人も、獣人も、魔人も、動物も、草木も、全て価値は同じだ」


「でしょうね」


 これまでソウブルーで過ごしてきて胡桃さんが差別的な扱いを受けたことは一度も無い。

 精々、物珍しそうに見られたくらいで商業地区でも獣人や半獣の姿を何度か見かけたことがある。

 冒険者ギルドでは怪訝そうな顔をされたが、注目されていたのは胡桃さんじゃなくて自分だった。

 どうにも自分の言動や振る舞いは貴族に通じるものがあるらしい。

 あの態度から察するに、貴族の三男坊あたりの坊ちゃん冒険者が半獣の奴隷を連れ回して冒険者ゴッコをしていると思われたのだろう。

 何にせよ民間人にとっては半獣が貴族にそういう扱いを受けていることを知っていても、一般庶民には浸透している価値観ではないように感じた。

 恐らくだが、奴隷禁止法や奴隷解放宣言等が公布されたのが最近、ほんの数年ほど前だったのでは無いだろうか?

 そして、法の抜け道として――……、例えばだが、帝国の法が届かない地域、国外等から攫ってきた獣人を奴隷として扱い、更に人と交配することで半獣を生み出し『これは人じゃないから奴隷にはあたらない』などと血迷った理屈を押し通したのではないだろうか?


――貴族の反発を恐れた帝国は、その理屈に目を瞑った――大方、こんなところか。


 更にその血迷った理屈は伝染病となり、貴族達が深い関わりを持つ者に感染させた。

 結果的に獣人や半獣は、自分達よりも劣る存在だという腐った思想が教会の中でも一般化するようになった。

 自分の手前勝手な予測だが、そこまで的外れな考えでは無い筈だ。

 司祭達が狼狽えた様子で青のルスルプトと胡桃さんの間で視線を右往左往させている。


『半獣だと思って排斥しようと思っていた存在が神だった』


『遥かに劣った存在である筈の半獣が神だった』


『自分達が信仰する神にとって人間も半獣も扱いや感情は平等』


 劣っていた者が自分の地位まで登って来たことによる焦りか、それとも自分の地位が劣っている者の所まで貶められたことに対する嘆きか。何にせよ愚かなことだ。精々嘆き苦しめば良い。

 彼等の絶望する姿を尻目に、青のルスルプトと煽情的な恰好をしたシスターの後に続く。

 奴等の絶望など知ったことじゃない上に心底どうでも良い。多少は溜飲が下がったが。

 自分の前を歩くシスターのスカートの切れ込みが非常に際どく、時折見え隠れするガーターベルトに飾られた生の太ももが自分の機嫌を直す一要因となったことも否定はしない。

 そんな馬鹿な事を考えている内に奥の部屋に到着する。

 部屋と言うよりは小さな祠で、神の部屋というにはあまりにも狭く、納骨堂のような印象を受ける。


「ではコルネッタ。後の事は任せたよ」


「あいよ、任されたー。爺ちゃんはゆっくり休んでな」


 すると青のルスルプトの姿が消えた。


「自分は彼に無理をさせていたのでしょうか?」


「あー、気にしない気にしない」


 コルネッタと呼ばれた煽情的なシスターが何でも無さそうな態度で手を振った。


「何でも八雷神って昔は凄い神格持つ神様だったらしいけど、なんやかんやあって人間に殺されたんだってさ。そんなもんだから、神格がだだ下がりして、物質界に顕現するのが結構大変なんだってさ」


 神格がだだ下がりしても人間の目の前に存在感を見せ付け、眼に見える形で加護を与えたり奇跡を起こすることが出来ているあたり、現実の神よりかは神格が高い気がする。

 有と無では最初から比較にもならないだろうが。


「それにしても人の身で神を殺すとは凄いことを考える人もいるものですね」


「なんか赤のおっさんが言うには本物の英雄って奴らしいよ? 二度と戦いたくないってさ。ホントに人間かよって感じだよねぇ」


 笑いながらコルネッタさんは香を焚き、聖水らしき水を振り撒いていく。


「よし、おしまい! 何か変わった感じとかする?」


「いえ、特に何も……胡桃さんはどう? 何か変わった感じする?」


「んーん? 何も変わってないよー?」


「そりゃそうだ。変化が感じ取れる程の加護なんて、よっぽど変な運命抱えてるとかじゃないと」


 人になった愛犬と異世界に来て、ドラゴンやら魔人と殺し合ってる時点で十分、変な運命だと思うが。

 八雷神にとってはこの程度、まだまだ普通の範囲なのだろうか?


「だけど、そーちゃんさー」


「そーちゃん?」


「蒼一郎でしょ? んでガキじゃん? だから、そーちゃん」


「ガキですか」


「ガキですねー。だって、くーちゃんのこと神獣じゃなくて半獣って思ってたっしょ? なのに連れて来てさー、わざと意地の悪いことばっか言ったり、とぼけたフリして司祭のおっさん達困らせたり、怒らせようとしてたわけじゃんかー。わざと揉め事起こそうとしてたようにしか見えなかったんだけどー? これでガキじゃなかったらクソガキじゃん」


 反論のしようも無い。帝国の風土は何と無く理解していた。

 それにも関わらず、貴族階級が多く足を踏み入れるこの場所に胡桃さんを連れて来たら揉め事になるのは当然だ。

 それを理解して尚、胡桃さんを連れて来てしまった。

 これではまるで飲食店にペットを連れて行って、店の人を困らせる盆暗そのものだ。


――我ながら何でこんなことをしたのか……。


 多分、胡桃さんが人の姿になった事で愛犬を家族同然に扱うということから、人として扱うことを自分だけでは無く、世間に要求したくなった。

 しかも、今や自分は龍殺しに加えて魔人殺し。更にソウブルーの支配者バーグリフの命の恩人だ。

 一見すると半獣に見える胡桃さんを普通の人間として扱うことが強要出来る。そんな立場になったと思い上がっていた。

 何故、態々敵を作るような振る舞いをしてしまったのか。これでは却って胡桃さんを危険に晒してしまうだけではないか。


「仰る通り、クソガキですね」


「だけど、自分を省みることが出来たんで、そーちゃんから、そーくんに格上げしてあげよう。これからも励めよ、少年」


「ガキ呼ばわりされるよりも恥ずかしいですね」


「だったら早く大人になんなよ?」


 コルネッタさんは背伸びして自分の肩をバシバシと叩いて言葉を続けようとするが、自分が暴力を振るわれていると勘違いした胡桃さんが唸り声をあげて牙を剥く。


「大丈夫だからね。胡桃さん、喧嘩とかじゃないから心配しなくて良いんだよ」


「うー……」


 納得のいってなさそうな胡桃さんを抱きかかえて宥めているとコルネッタさんが再び言葉を続けた。


「青の爺さんが皆の前でそーくんのこと半神、くーちゃんのこと神獣って言っちゃったから、司祭のおっさん達、今頃、顔真っ青なんじゃね? 多分、そーくんが自害しろって言ったら普通にやりかねんわ」


 龍殺し、魔人殺し、半神、肩書や立場が増えた分だけ発言力や権力、そして責任も増える。

 何でそんな当たり前のことが分かっていなかったのか。


「そうですね。彼等には然るべき謝罪をしていくことにします」


 そして、胡桃さんも帝国の社会に馴染めるように今一度、自分と一緒に学び直すべきだ。

 この世界が夢では無く、現実であるのなら尚更だ。まずは適合し、向き合うことから始めていこう。


「まーでも、あんま気にし過ぎんな? 司祭のおっさん達も、お偉いさん達に影響受けたとは言え、八雷神の権威騙って獣人やら半獣の差別とかに加担してたわけだし? もしも、半獣差別とかやってなくって分け隔てなーく接してりゃ、くーちゃんが神獣って分かっても何とも無かったわけじゃん? 誰だって悪さしたら回り回って帰ってくるもんだねぇ」


「しかし、流石は教会のシスターですね。実に説教の仕方が上手だ」


「だっしょー? 堅ッ苦しい喋り方してっとさー、なんか壁感じるじゃん? だったら先にアタシから壁を取り払ってやろうって、そういう心遣い」


「成る程――」


「ま、本当は青爺ちゃんて心が読めるから敬語使うのがバカバカしくなって止めたってだけなんだけどね。そしたら何か説教が上手くいくようになったから、もうこれで良いんじゃね的な?」


 彼女の顔が少しだけ赤くして取り繕うようにして言った。

 どちらが本当かは分からないが話しやすく、受け入れやすかったのも事実だ。


「そうですね。貴女はそのままで良いかと思います。お蔭で自分は色々と気付かされましたから」


「太もももエロかったし?」


 流石は女性。そういう視線には敏感だ。


「大変エロくて実に結構でした」


 誤魔化しても仕方が無いので正直に開き直ってみせると彼女は実に良い顔をして口を開いた。


「エロガキ」


 その笑顔だけで教会に来た甲斐があるというものだ。

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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