57 情報部の囮リスト
「もし、私がクレッフェ試験部隊の生き残りならば、間違いなく逃げます。中央からできる限り遠ざかりたいと考えます。しかし、ドニを出ることは現実にはかなり困難です。規格区域の外の人間は戦争を起こしたドニの人間を敵視していますから、兵士として使われた黒い髪の人間は特に目立つでしょう。それに野獣や不発弾の類も多い。加えて、私自身、数日という時間で国境まで調べることは不可能でした」
「つまり、偽の移動許可証で入街審査を通って街を出ると?」
「そうです」
サベンコは神妙にうなづいた。
「重点繁栄都市地区には、機能不全のところも合わせて、中心から五重に全部で二百十二カ所の入街審査所があります。そして、入街審査所の近くには必ずと言っていいほど、偽造移動許可証の商人がいます。その統計がこの資料です。この資料、情報部の方からかなり引っぱってきましたが、終戦直後の数字ははほとんどあてにならないとしても、クレア・エバとの国交回復を求めるために体勢引き締めに入った今年後半あたりからは、政府が取り締まりにかなり力を入れているので精度は高いと思います。実際、取り締まりのために、囮捜査も行われて成果を上げています」
「囮捜査……?」
「そうです。業者のふりをして移動許可証偽造の依頼を受け、引渡しの時に依頼主を捕まえたり、あるいは依頼主に化けて業者を摘発することもあります。この資料の五枚目は、情報部が囮として使っている人間のリストです。この線の引いてある……、」
サベンコはタナカの手の中の資料を指した。
「ラファティ、この男。この男は情報部が泳がせている人間のひとりなんですが、彼はここ三日で二通の新たな偽造移動許可証を手配しています。依頼主の名は、ゼファ・クロード・ミタニ」
名前を、彼はゆっくりと発音した。ミタニ、と彼は言いづらそうに言った。彼にしてみれば『タナカ』と同じく奇妙なこの発音は、自分とは違う、黒い髪の人間であることを示していた。
「もちろん、こういった依頼には偽名を使うのが当たり前です。しかし、偽名にしては合致し過ぎている」




