5 桐珂
「散花第一小隊副隊長だった、秋比古だよ」
「あぁ、空夜がよく言っていた……」
そうして桐珂はにっこりと微笑んだ。
「始めまして。空夜からうわさは聞いています。戦争の時の散花の部隊で一緒だったと」
「そうです。俺はクレッフェの部隊でした。あなたのお話は……空夜から聞いたことがないな」
「出会ったのは戦争の後だったから」
言い訳がましく空夜は言った。
彼女は微笑んだまま静かに立ち上がった。
「お茶を、」
「あ、どうぞお構いなく」
そのまま桐珂が小さな台所に入ってしまうと、秋比古はそれを見送って小さく言った。「彼女、目が……?」
「うん。だけど大丈夫だよ。この近辺は歩き回れる。耳がいいんだ」
空夜は秋比古に向き合った。
「彼女もクレッフェの人間なんだ」
「何だって?」
驚いた顔で、背の小さな空夜の顔をのぞき込む。
空夜は彼に椅子を勧めると、自分はベッドの上に座り込んだ。
みしみしと、この部屋は片時も音を立てずに入られないのかと思うほど音が鳴る。多分それは目の見えない桐珂のためなのだろうと秋比古は想像した。
「もっとも、あっちはクレッフェの正規部隊だ。戦争の最後に、ちょっとだけ肩慣らしした訓練だけの部隊。試験部隊の僕たちとは違う」
「それにしたって、目が見えないのに……」
「視力を失ったのは終戦間際だ。ほとんど戦争が終わってた時さ」
「名前は?」
「桐珂」
「お前の彼女?」
空夜が彼を睨みつけると、いいタイミングで桐珂が戻ってきた。
琥珀に色づいたお茶が、ほんのりとかぐわしく匂う。この時期に手に入れにくい本当のお茶だった。入れてあったのは粗末な茶器だけれど、その香りから差し引かれるほどのものではなかった。