4 盲目の彼女
寒さが身にしみる時期になってきた。それだけに、明け方前のこの時間は一番辛い。
繁華街を出れば、そこは一般市民たちの眠りの場所。静けさが刺すようだ。
秋比古と二人で連れだって石畳の細道の奥に入り込んだ空夜は、そのうちのひとつのドアを開けた。
狭くて真っ暗な階段があって、それを登っていく。
秋比古は声をひそめていった。他の住人は、今頃眠っている。
「これは……こぢんまりとして趣のある……」
「狭くて古いって言えば?」
空夜は関せずに言って、自分の部屋の戸を開けた。
部屋の中にいる人間は起きていると分かっていた。彼女はいつだって、空夜が帰ってくる時間には起きている。
部屋にある小さな電燈がひとつだけ灯っていた。彼女には電燈は必要ない。空夜のためにいつも灯しておく光だ。
「ただいま」
空夜は彼女に声をかけた。
「お帰りなさい」
彼女が答えた。
空夜は彼女の座っている椅子に近付くと、そっと持ち上げた手に軽く触れた。
後ろで、秋比古が驚いたような顔をしている。彼はさすがに口笛を吹いてからかうような真似はしなかったが、それでもふり返った空也の顔を見るとおかしそうに静かに笑んだ。
空也が解説するまでもなく、彼女は十分に美人だ。暗いこの部屋ではなおさらそれが引き立つ。
「今日は誰か一緒なのね?」
桐珂が静かに尋ねた。足音、彼女にはそれだけで分かる。
「そう。紹介するよ。……秋比古、こっちへ」
秋比古はドアを閉めると、ゆっくりと明かりのほうへ入ってきた。
木の床が軋む。彼のような大柄の人間には、この木の床はなじまない。慎重に足を進める。
「こっちへ」
空夜は、秋比古を桐珂の前に立たせると、彼の手を取って桐珂に握らせた。
彼は幾らかためらって、それから、空夜の誘いに任せて彼女の手をとった。




