3 変化の予兆
「今から?」
「あぁ」
はっきりとうなづく秋比古に、空夜はためらった。
この街の郊外、繁華街とは反対側のところに空夜の住みかはある。小さな街なのでそれほど遠いわけではない。でも、
その素振りを一瞬で解したらしい秋比古は、驚いた目で空夜を見た。
「あ、まさか女を囲ってるとか?」
「……」
はっきり違うとも言えず、しかし肯定もできないまま、空夜は曖昧に眉をしかめた。
「あぁ、そりゃ悪い。だったら、どっか近くの酒場でいいんだけど」
「……いいよ。でも僕の仕事が終わってから一緒に行こう」
「いや、無理は言わないんだけど」
「構わないよ」
秋比古はしきりに遠慮しているが、本当に構わなかった。ただ、ひとりで見知らぬ人間が部屋に入ると危ない、それだけのことだった。
「何かあるんだろう?」
「実は、軍がらみだ」
彼はそれだけ言った。それだけで十分だと思っているように。そして確かにそれだけで十分だった。
空夜にはその言葉が意味する深刻さの度合いを認識していた。
「分かった。少し待っててくれ」
「何?」
「次の奴に連絡を入れる。早く来るようにってさ」
「いいのか?」
空夜はこっくりと確実にうなづいて見せて、娼館の階段を降りていった。通信端末を探すつもりだった。