19 街を出る生き残り
食事をとりながら、空夜は彼に聞いた。
「これからどうするつもりなんだ?」
「今日のうちは、なんとか中央エリアの外に出られる手を捜してみるよ。早いうちに出ていくつもりだ。お前もそうしたほうがいい」
「出たって同じさ。行く当てもない」
「でも、この街も重点繁栄都市地区のひとつだ。軍が手を出しやすい。気をつけたほうがいいのは違いない」
「そうだな」
空夜は桐珂を見た。
いざという時に、彼女を連れて逃げるのは辛い。彼女だけでも先にどこか安全な土地に逃がしておくべきだろうか。しかし、その場合、自分だけがこの街に残る必然性はない。何のしがらみもこだわる理由もなければ、自分も彼女とともに行けばいいのだ。
ただ、問題は住民票も通行許可もない自分と一緒にいることで、彼女までもがここから出られなくなるのではないかという不安だった。自分と一緒に行動すれば、彼女まで危険な目にあわせてしまうかも知れない。
彼女はクレッフェの正規部隊、戸籍も住民票もあるのだから、生活保護だって受けられるだろう。
しかし、彼女はなんと言うだろう。空夜が行くと知れば、彼女は一緒に行くと言ってその考えを変えないことは分かっている。
「軍は何をしようとしているんだろう」
空夜は尋ねた。
パンをかじろうとした秋比古が顔を上げた。
「なんとか誰かから情報を仕入れようとはしてみたんだが、クレッフェの試験部隊のことを知っている人間すらいない状態ではどうしようもないな。軍関係者には触りたくはないし、政府の情報はほとんど降りてこない状態だ。散花の部隊の生き残りが一体何人いるかさえ分からない。もしかしたら、俺達で最後かも知れないな」
「まさか」
冗談めかして秋比古の言葉をはぐらかしたが、あるいは最後の人間かも知れないと空夜は思いはじめていた。
ザゼルの悲劇と呼ばれる、歴史から締めだされた事件によって、クレッフェの試験部隊の人間はほとんど死に絶えてしまったのだから。そしてまた、桐珂の妹、宝子も。