12 カッセルの動向
「……どうして、こんな急に……」
「それが……」
サベンコはそれが自らの罪悪であるかのように顔を伏せて言った。
「記録を調べてみましたところ、かなり前から、この手の打電やメールはあったそうなんですが……下層部の人間が、ガセだと信じて取り合わなかったようです。彼らはクレッフェの試験部隊ことを知りませんから。幾らか上がってきた別の情報も、軍部に握りつぶされていたものかと……。このメールは私宛ての別のつてで来たもので、直接私が受け取ることができました」
「つまり、徴候は以前からあったんだな? ただ、報告されなかっただけだと……」
「はい」
サベンコはうなだれた。
客観的に見て、秘書官であるサベンコにはまったくの罪はない。しかし、彼はタナカへの通信に関する監視を怠っていたことで、独自の責任を感じていた。
「それと、そのことでもうひとつ、」
「なんだ?」
「この報告を、軍の東方司令部のカッセル次官は独自にもう何週間か前に受け取っていたようで、彼は情報を得るため、秘密裏のうちにクレッフェの試験部隊の人間を集めているようです」
「人間って……そんなに生き残っているのか?」
「いえ、数人程度であると予想されます」
幾らかためらいがちにサベンコはそう言ってタナカを見た。
同じ軍部の人間でありながら、地方にいるタナカには情報がおりてはこない。彼はそれをもどかしがっているように見えた。
しかし、なによりもそのことで苛立っているのはサベンコの方だ。タナカの人間性をサベンコは信用に足るものだと思っていた。中央に戻って指揮権を持てば、彼の力でこの国に平和が訪れるだろう。
しかし左遷されている身分でそんなことはありえない。