究極魔法
シエルさんの説明によると、キリエス軍の陣形は、究極魔法を発動するための魔方陣を型どっているということでした。
しかし、そんな方法でアルティメットが本当に発動させることが出来るのでしょうか?
「あれは間違いなくアルティメットの魔方陣。だけど、あれを使うとなれば莫大な魔力が必要になるわ。」
究極魔法というくらいですから、それ相応の魔力が必要なのは、理解できますが、果たしてそれだけで上手くいくのでしょうか?
「しかも、あれは正統な手順ではない。人柱を使って究極魔法を発動などできるはずがない。」
僕もレジェスと同意見です。
しかし、もしも成功してしまったら、いったいどうなってしまうのでしょう。
「アルティメットだと。馬鹿な、百年前のソマールの悲劇の再来だぞ!いいや、あれだけの規模ならば、下手すればレト大陸が吹き飛んでしまうかもしれん。」
オベリンさん、怖いこと言わないでください。
「この魔力の流れ、少し変だわ。」
「サーシャ、魔力の流れが分かるの?」
シエルさんは、驚くように言いました。
しかし、それは僕も同意見です。
サーシャ様がそんなことを出来るなんて初めて知りました。
「見えるのよ。川の流れみたいに、魔力が流れているのが。」
ふと見ると、サーシャ様のパープルアイズは、覚醒した状態でした。
なるほど、その瞳にはそんな力があったのですね。
「それで、どう変なの?」
「あの魔方陣に流れ込んでくる大量の魔力は、あっちの山の方からきているわ。」
サーシャ様は、キリエス軍が陣を敷く、さらに後方の小さな山の方を指差しました。
これは、つまり魔方陣の中には陣を型どる兵士のみが配置されていて、それを作動させる魔法使いは別の場所にいるということです。
その魔力を送り込んでいるのがアイスなのでしょうか?
「その魔力の源は、アイスではありませんね。アルティメットと呼ばれる魔法は人間が造り出し、人間の魔力でしか発動できないはずです。」
フォックスの言葉で思い出しました、そういえばそうでしたね。
しかし、その場にアイスがいる可能性は充分にあります。
「行ってみましょう。」
サーシャ様の決断に僕らは頷いて応えました。
「敵襲!」
その時でした、ソルディウスの兵が声を上げたのは。
敵襲?
僕らは一斉にキリエスの陣営を見ましたが、全く動きはありません。
いったいどこから?
すると、ソルディウスの背後から突然、キリエス軍が現れたではありませんか。
これは奇襲です。
しかし、どこから?
「こいつらは、フェイトフル・リアルムにいた軍だ。」
それでようやく分かりました。
フェイトフル・リアルムを撤退したキリエス軍の残党がフード平原へ向かったのは知っています。
これは、うかつでしたね。
しかも、残党と呼ぶには数が多すぎます。
「慌てるな、陣形を立て直せ!前方のキリエスには目をくれず、目の前の敵に集中するのだ!」
ピーター・ドレイクは的確に指示を出していきます。
確かに、あっちのキリエス軍は動くことはないでしょう。
つまり挟み撃ちに合う心配はないということ。
背後から迫る敵にだけ落ち着いて戦えばソルディウス、連合軍の方が断然有利です。
「レジェス。お前たちは行くのだ。ここは我らに任せておけ。」
レジェスは、力強く頷きました。
「サーシャ、行こう。」
「ええ。」
サーシャ様の案内で僕たちは、魔力の源流を探しに行きました。
その間、ソルディウスと連合軍はキリエスとの激しい戦いを行っていました。
「ダマン。お前はレジェスたちと共に行け。」
「承知致しました。」
「よし。さあ、我らはキリエスを滅するぞ。一歩も退くな、完膚なきまでに叩きのめせ!」
ピーター・ドレイクの号令でソルディウス軍は、キリエス軍に突撃をかけます。
「我々も遅れをとるな!」
勇ましい掛け声で続いたのはフェイトフル・リアルム。
「状況がよく分からないけど、とりあえず目の前の敵を倒す。ゆくぞ、ブレイズ!」
ネリ王子は、兵たちの先頭に立ち剣を抜きました。
「我々は、我々の仕事をこなそう。敵の側面を叩き、敵を殲滅する。続け!」
数の少ないグリフォンブルー軍は、キリエス軍を横から襲いました。
ソルディウスと連合軍の攻撃には、さすがのキリエス軍もなす術がありません。
じわじわと押され始めていきました。
その頃、僕らはキリエスが陣を敷くすぐ脇を見つからないようにすり抜けようとしていました。
「ダマン、その鎧はあまりにも目立ち過ぎるのではないか?」
レジェスの意見に、僕も同じ気持ちです。
歩く度にガシャガシャと音は立つし、なにより眩しいです。
「こ、これは脱げん。きっと大丈夫だ。あやつらは、こっちを全く気にしている様子はない。」
ふとキリエス兵を見ると、確かに彼らは前を向いたまま棒立ちしていました。
これは、ちょっと変ですね。
僕は、そーっとキリエス兵の一人に忍び寄ってみました。
「こら、ピート。そんなに近づいたら見つかっちゃうわよ。」
サーシャ様の注意も無視して僕はキリエス兵の目の前に立ってみました。
しかし、彼は僕に何の反応も示しません。
「――やっぱり。」
それを見た皆も僕の方へと駆け寄りました。
「ど、どうなっているんだ?」
ローラスが驚きの声を出すのも無理はありません。
ここに並び立つ大勢のキリエス兵たちは、まるで魂を抜かれた脱け殻のように、ただ立ち尽くしているだけなのです。
意識はありません。
「そうだ!いっそのこと、この兵士たちの配置を壊してしまえば、よいのではないか!?そうすれば魔方陣が崩れるだろ。」
なるほど。
ローラスが言った通り、このキリエス兵たちが魔方陣を司っているのなら可能かもしれません。
「それは多分無理ね。この兵たちは、あくまで魔力を流すための目印に過ぎないわ。既に魔力の流れは出来上がっていると思うの。だから、配置を変えたりしても無意味だわ。」
まあ、そんなに簡単にはいかないですよね。
まったく、ローラスも単純なんですから。
「それよりも、元凶を絶たないと。急ぎましょう、何か嫌な予感がするわ。」




