デーモンズホール?
薄暗く冷たい階段には、謎の青白く光る壁がはめ込まれていました。
そのお陰で足元は、はっきり見えます。
「しかし、この光っている壁はなんでしょうね?」
「分からない。こんなもの初めて見たぞ。」
僕とローラスは、緊張感を保ちつつ、一歩一歩下りていきました。
すると、すぐに突き当りに大きな扉が見えてきました。
その古びた扉には金属製の太い錠がしてありました。
鍵は当然、持っていないので破壊するしかありません。
「俺の魔法剣で、たたき壊してやろう。」
「ちょっとローラスさん。魔法は厳禁ですよ。居場所がばれちゃいますからね。」
「そ、そうか。じゃあピート頼む。」
やれやれ、魔法剣士は後先考えないのでしょうかね。
仕方ありません、ここは僕が――。
キィーン!
美しい程の金属音の残響が長く残りました。
「おお!さすがだ。綺麗に切れているな。」
金属製の錠が外れ、いよいよ中へ入ります。
中には広い空間と巨大な井戸の様な物がありました。
その井戸の様なものの上には、木で蓋がされています。
更に、それをぐるりと囲むようにして鎖が巻かれていました。
そして、その鎖は井戸の中央の一点へと四方から伸びています。
鎖が集まる中央には一本の大きな蝋燭。
蝋燭には、火が灯っています。
「これは当たりのようだ。」
ローラスは声を殺す様にして言いました。
当然、僕もそう思っています。
「蓋を開けるには鎖を、ほどかなくてはいけませんね。おそらくは、あれ――。」
僕は迷わずに中央にある蝋燭の芯だけを斬りました。
すると、鎖はばらばらと散り、消滅していきました。
たぶん魔法の類いです。
僕は少しだけ後悔しました。
これもセンサーというものに引っ掛かってしまうのではないかと。
その時でした。
僕らがいる空間が真っ赤に染まりました。
激しい光に包まれ、そしてそこから人影が見えました。
「うわ、凄い!本当に瞬間移動したわ。」
「本当だ!まさか、こんなに上手くいくとは思わなかったわ。」
サーシャ様とシエルさんです。
どうでも良いですけど、もう少し警戒心をもってください。
ここは、もう敵の巣窟なのですから。
「……これが、デーモンズホールなの?」
「たぶん、そうだと思います。」
正直なところ、これの正体はまだはっきりとしていません。
何とも言えないところですね。
蓋を皆で外し、中を覗き込みました。
真っ暗というより深い闇に覆われて、何も見えません。
ちなみに、この穴は一般的な井戸の百倍くらいの大きさです。
ちょっと気を緩めると、吸い込まれていきそうです。
試しに小石を投げ込んでみましょう。
「――それ……ん?……あれ?……おかしいな?……底なしか!?」
これは、やはり井戸なんかではありません。
デーモンズホールを見つけたとしても、ここから先どうするのか、見当もつかないです。
まさか、これに飛び込むなんてことはありませんよね。
「サーシャ様、どうします?」
「行くしかないでしょ。覚悟を決めなさいよ、ピート。」
あり得ません!というか無理無理無理無理無理です。
こんな所に落ちたら絶対に上がって来れません。
「ま、待てサーシャ。少し落ち着いて考えよう。不用意に飛び込んだら命の危険性が、ある。」
ローラスさん、貴方はやはり常識人です。
素晴らしいとしか言えません。
「私が見てきてあげるよ。」
そう言ってシエルさんは、何やら魔法を使おうとしました。
それを僕は慌てて止めた、ということは言うまでもありませんね。
「でも、ここでこうしてても、埒があかないわ。」
確かにサーシャ様の言うことも一理あります。
しかし、まずこの不気味な穴が本当に、デーモンズホールなのかを確認する必要があります。
飛び込んでから間違いでしたでは、冗談では済みませんからね。
僕らはデーモンズホールについて議論を始めました。
しかし、それは水掛け論でしかありません。
そもそも、どうやってこの穴の正体を知ることができるのでしょう?
皆が行き詰まりを感じた、その時でした。
「それは間違いなくデーモンズホールですよ、皆さん。」
聞き覚えのない声に皆が一斉に身構えました。
「あなた、誰?」
現れたのは中年の男でした。
僕は、すぐに辺りを警戒しました。
しかし、他に気配はありません。この男一人のようです。
敵ではないのでしょうか。
「私は、ここの番をしている、ロディと申します。」
やはりキリエスの者でしたか。
しかし、たった一人で来るとは、よっぽど自信があるのでしょうか。
「そちらがサーシャ様ですか。お会いできて光栄です。ですが、他の皆様は、邪魔ですね。残念ですがここで、お別れして頂きます。」
ロディは突然、口笛を吹き鳴らしました。
すると、天井付近からバサバサと羽音らしき音が聞こえました。
「これは、魔物!」
僕らの上を、三匹の鳥人間らしき物が浮遊しています。
「行け、ガルーダよ。」
ロディの命にガルーダは一斉に僕らに向けて急降下して襲いかかってきました。
「サーシャは下がってなさい。」
シエルさんは、すぐに魔法を唱えました。
「エアカッター!」
その空気の刃がガルーダにヒットします。
ガルーダは三体ともバランスを崩して、勢いを弱めて降ってきました。
そこを僕とローラスは見逃しませんでした。
ほぼ同時にガルーダを一体ずつ、しとめました。
「シエルさん、あと一匹残ってます。」
その一体はシエルさんに向けて突進していきました。
「任せなさい。エア・アロー!」
シエルさんは空気で弓矢を形成しガルーダの眉間に矢を放ちました。
そしてガルーダは後方へ弾け飛ぶ様にして息絶えました。
まあ、僕には弓も矢も見えませんでしたけどね。
「やりますね。ですが、今度は私が!」
突然、ロディの身体に異変が起こりました。
背中から透けた昆虫の羽の様なものが生えてきました。
顔つきも人から昆虫の様に変化をしていきます。
「こいつ、魔物か。」
ローラスさんの言う通り、どこからどう見ても魔物です。
ですが、それよりも気になることがあります。
「フルガイアの者ね、あなた。」
以前に聞いた魔物たちの見分け方から言えば、サーシャ様の言う通り、こいつはフルガイアの魔物ですね。
「もちろん、そうです。おかしな事を言いますね、サーシャ様。貴女もフルガイアの者でしょう。」
さっきから気になるのは、このロディとかいう魔物、サーシャ様を様付けで呼んでいる。
単なる、おふざけなのかも知れませんが、この前のアイスのプリンセス発言と関係があるのではないかと、勘ぐってしまいますね。
「ご心配なさらずに、貴女は殺しませんから。」




