黒い刃
グラノールさんの指導の元、サーシャ様は日々鍛練に精をだしておられます。
その傍らには何故かローラスの姿も。
あの日、ザラスとの戦いに敗れたサーシャ様とローラスは共にグラノールさんの厳しい修行を受けることになりました。
グラノールさんが天才魔法剣士フォンダンの師匠と知ったローラスは修行を受けさせて欲しいと懇願しました。
最初は渋っていたグラノールさんでしたが、サーシャ様の口添えもあり、何とか了承してもらったのでした。
何の役にも立たなかったローラスですが、サーシャ様の助太刀をしたという事実は確かです。その気持ちをグラノールさんは買ったのでしょう。仕方ありませんね。
まあ、これで僕も当分の間は、ゆっくり落ち着いて過ごせるというものです。
さて、少し昼寝でもしましょうか。
僕は大きな木に、もたれかかって横になりました。
優しい風が木々を揺らし、僕はまどろんでいきます。
「ピートちゃん!そんなとこで寝てないで夕食の買い出しに行ってきてちょうだい。」
どうやら簡単には楽させてもらえない模様です。
僕は重い腰を上げて町まで買い物に向かうことになりました。
面倒くさいですけど、サーシャ様を育ててもらっている恩義もありますからね。
「サーシャ、ローラス。少し休憩にしましょうか。」
「あの、師匠。ピートとは昔からの仲なのでしょう?あいつの――黒い刃って呼ばれていたピートの事を教えてもらえないですか。」
「あら?サーシャは何にも聞いていないのね。いいわ、お茶でも飲みながらピートちゃんの昔話でもしてあげるわ。」
何か背中辺りに悪寒を感じます。誰かが僕の悪口を言っているのかもしれません。自慢ではありませんが昔から勘だけは良いのです。
おや?何やら見慣れぬ風景に……道を間違えてしまった様子です。
どうやらショートカットすべき道には入らず正規のルートに出てしまったみたいですね。かなりの遠回りになりそうです。
ふと空を見上げると一面には薄い雲が広がっています。そんな中、ぽっかりと空いた穴に光が射し込み、一つだけあった入道雲を真っ赤に照らしていました。
少し湿り気を帯びた空気。
――あの時と似ているな。
「そもそも、何で『黒い刃』と呼ばれているんですか?グラノール様。」
「ローラス、いい質問ね。それは、ピートちゃんが黒い刃の剣を持っていたからなのよ。」
「……捻りも何もない答えですね。」
「『黒鋼』って言ったかしらね、あの剣。細身の刃は緩やかに湾曲していて刃先はまるで獣の牙のように鋭かったわ。あまり見ない形状だったけど、とても美しい剣だった。まあ、今は帯刀していないようだから、もう持っていないのかもしれないけどね。」
「師匠。何故、ピートは剣を捨てたのでしょう?そして何故、自分より弱い私の従者なんか……。」
「まあ強さなんて関係ないんじゃない。ピートちゃんは貴女のことを気に入って、お供しているんだろうし。」
「は、はあ……。」
「ピートちゃんが剣を捨てた理由もなかなか興味深いわよ。私も詳しくは知らないけど、聞いた話だと自分の弟子に負けちゃったからだそうよ。しかも年端のいかない少年に。」




