critical phase
人里離れたグラノールさんの家から近くの町までは、道なき道を突き進むしかありません。
グラノールさん曰く、ここを突っ切っていくと、あっという間に町につくそうです。
本当かどうか疑わしいものです。なんにせよ、もっと交通の便がよいところに住んで欲しいものですね。
しばらく二人とも無言で歩き続けました。
するとどうでしょう、目前に町が見えてきたではありませんか。
僕の予想より遥かに早く着きました。さすがグラノールさんです。年の功というやつですかね。
僕とサーシャ様は町に入り、マルシェへと向かいました。
「ここのマルシェは、なかなか活気がありますね、サーシャ様。」
この町の規模にしては本当に大きな市場が広がっています。
この町の名物なのでしょうか。
「肉だ。肉屋を探すわよピート。」
まあ、そうなりますか。僕は仕方なく肉屋捜索にあたります。
すると、人混みに紛れて何やらただならぬ殺気を感じました。
「サーシャ様。」
「ああ。肉屋は、この先だ。」
き、気付いていないのでしょうか?もし、そうだとすれば鈍感なのにも程がありますよ、サーシャ様。
「ちょっと誘ってみようか、ピート。」
よかった。どうやら気付いている、ご様子です。
僕らは人気の少ない路地裏へと気配を伺いながら歩いていきました。たんなる杞憂に終われば良かったのですが、どうやら違うようです。
「ほら、あんたが無駄に殺気を放つから見つかっちゃったじゃないの、ロイド。」
「うるせえ!偉そうに説教するな、ケイト。」
「お前ら、いい加減にしておくのだ。」
僕たちの後をつけて来たのは、黒いフードを被った三人の者でした。声や背丈から察するに男二人と女一人、といったところでしょう。
「あの、僕たちに何か御用でも?」
「そうだ。厳密に言えば君には用はないのだ。そっちの女性に、ちょっとな。」
三人の中で一番長身の男が、そう答えました。恐らくは、彼がリーダー的存在なのでしょう。
僕とサーシャ様は顔を見合わせました。
「私に何の用?」
サーシャ様の問いかけに、今度は唯一の女性が横から口を出してきました。
「面倒だから単刀直入に言うわ。貴女の、その両目を頂きに来たのよ。もちろん拒否は出来ないわよ。力ずくでも貰って帰るつもりだから。」
何とも乱暴な方たちのようです。サーシャ様の特異体質に興味があるのでしょうけど、はいそうですか、と大事な眼球を差し出す訳がありません。ということは腕に自信があるということでしょう。
しかし、何者なのでしょうか?
「素直に差し出せば命だけは助けてやるぜ。」
そう言って、もう一人の男はフード付きのマントを脱ぎ捨てた。
今まで隠れていた身体には白銅の胸当て。もちろん帯刀しています。その剣の柄には太陽と星の刻印がありました。
「それはキリエスの紋章。それに、その星形は確かキリエスの裏の部隊と言われている、ザラスの旗印――でしたよね。」
「勝手にマントを脱ぐな、ロイド。素性が、ばれたじゃないの。」
「だから、上から目線で偉そうに言うなって、ケイト。」
どうやらビンゴのようです。しかし、大胆な人たちです。ここは、キリエスと敵対しているソルディウスですよ。
ソルディウス兵に見つかりでもしたら生きてキリエスには戻れないでしょう。それだけの危険を承知で来ているのですから、相当な価値がサーシャ様の目玉にはあるのでしょう。
「我らのことを知っているとは、随分見識が広いな。君は彼女の何なのだ?」
「僕はサーシャ様の従者のピートです。なぜ、サーシャ様の目を欲するのです?」
「残念だが答えるつもりはない。今のうちに、ここから去れば君には危害を加えない。ここに残るのなら命は無いと心得よ。」
どうしましょう?ここはサーシャ様を見捨てて……冗談ですよ。僕が、そんな薄情な男に見えますか?
まあ、結論から言えばサーシャ様が、この三人を倒しちゃえば問題なしです。
「下がってろ、ピート。私が片付ける。」
サーシャ様も、やる気満々で剣を抜きます。
ただ、相手は相当な手練れであることは間違いない。しかも、それを三人も相手にするとなれば、サーシャ様でも難しいかもしれません。
どうしたものか――。
その時でした。
「おや!?もしかしてサーシャじゃないか。」
この場に相応しくない間の抜けた声がしました。
その男に見覚えありです。確か、ローラスと言いましたか、森で遭遇した駆け出しの魔法剣士です。
これはラッキーかもしれません。あんなんでも一応魔法剣士。戦力になるでしょう。
「ローラスさん。サーシャ様の助太刀をお願いできません?」
「おい、ピート!」
サーシャ様は、僕が余計な事を言ったと怒っている様ですが、そうじゃありません。
僕の推測が正しければ、サーシャ様は負けます。恐らく、三人共サーシャ様より格上の剣士です。一対一で戦っても勝てないかもしれません。
しかし、ローラスが現れた事で運がこちらに傾きました。
いざとなれば、彼を盾にして逃げることも可能かもしれません。使わない手はないでしょう。
「何か、お困りの様子だな。仕方ない、その申し出受けよう。サーシャ、加勢するぞ!」
ローラスは剣を抜き、ザラスの三人と対峙しました。
「――足を引っ張らないでね、ローラス。」
「任せとけ。」
サーシャ様とローラスは一斉にザラスへと斬り込んだ。
人気のない、この路地裏とは裏腹に大通りの方では人々が楽しそうに笑い声を上げていました。
陽が傾き始め黄金色に染まった夕焼けの中で、鋼のぶつかる音が鈍く響き渡ったのでした。




