魔法の穴
グラノールさんの家は童話に出てきそうな、丸太で組まれた可愛らしいお家でした。
部屋の中は綺麗に整頓されています。僕たちは丸いテーブルを囲み、切り株の様な椅子に腰掛けました。
「それじゃあ早速始めましょうか。ピートちゃんは、お茶でも淹れてきてちょうだい。」
グラノールさんに言われるがまま、僕はお茶の準備に取りかかりました。
「ねえ師匠。ピートとはどんな知り合いなの?」
「まあ、図々しいわねサーシャ。もう私のことを師匠なんて呼んで。まあいいわ、許可してあげるわね。」
サーシャ様に師匠と呼ばれて、悪い気はしていない様子のグラノールさんです。
「ピートちゃんとの関係は……秘密よ。」
「まさか、付き合ってたとか!?」
グラノールさんとサーシャ様は、せっせとお茶を淹れている僕の方を同時に見ました。
「ないない。ピートちゃんは、ないわ。」
何か、ちょっと腹が立ちますね。
「そんなことよりサーシャ。貴女、ちょっとばかし魔法について勉強した方がいいわよ。無知のままじゃあ、この先大変よ。」
僕はサーシャ様とグラノールさんにお茶を、お出しして席につきました。
「そもそも、現在使っている類いの魔法は、まだ歴史が非常に浅いのよ。だいたい、百年くらいかしら。」
グラノールさんは、熱々のお茶を苦にもせず一啜り。
「それ以前の魔法といえば、地面に魔方陣を描いて三日三晩踊りながら祈り続けるような、いわゆる儀式みたいなものが主流だったの。現代みたいに、ちょっとモゴモゴ唱えれば火を出せたり、物を凍らせたりすることなんて出来なかったのよ。」
「えーっ!そうなの?」
確かに、そんな話しは聞いたことがあります。
「では、何故こうも魔法の在り方が変わってしまったのでしょうか?はい、ピートちゃん。」
「確か百年程前にレト大陸全土を巻き込んだ大きな戦がありましたね。ソマール大戦でしたか。」
「ソマール?」
サーシャ様は歴史に無頓着すぎます。教科書に載っていたでしょうに。
「かつて、このレト大陸はソマールという大国が大陸全土を掌握していました。しかし一見平和な国の様に見えたソマール内部には、反乱分子があちらこちらに散乱していたのです。まあ、早く言えば内戦ですね。」
グラノールさんは僕に拍手を送りました。
「さすがピートちゃん。手短にまとめたわね。でもねサーシャ、内戦とはいっても普通の内戦じゃないわよ。ソマールは大陸全土を領土にしていたの。内戦と呼ぶにはあまりにも大きな戦になったわ。何せこの広大なレト大陸が端から端まで戦火に飲み込まれたのだから。」
サーシャ様は想像している様子で宙を見つめています。
「確かに。内戦というより大戦ね。でも、その大戦と魔法が、どう繋がるの?」
サーシャ様の問いかけは、ごもっとも。僕にも皆目検討がつきません。
「その戦いの最中に何者かが、ある魔法を使ったの。」
グラノールさんは、本棚から古びた一冊の本を取りだして開きました。
「究極魔法。」
「そう、この究極魔法によってソマールは滅びたとも云われているわ。」
究極の魔法アルティメット。確かに耳にしたことはあります。ただの伝説ではなかったということでしょうか?
「しかし、この時には本格的な魔法は存在しないはずでは?」
「そうよ。でもね、この究極魔法に関しては別物。これは古代から存在していたのよ。存在はしていたのだけど使える者がいなかった、と言った方がいいかもしれないわね。何せ莫大な魔力と大掛かりな魔方陣を要するものだからね。」
サーシャ様はグラノールさんの話を食い入るように黙って聞いていました。普段、僕の言うことも、これくらい真剣に聞いてくれたら助かるんですけどね。
「そして、その究極魔法で起きた事はソマールの滅亡だけじゃなかった。いえ、もしかすると本当の目的は、もう一つの方だったのかもしれないわね。」
「もう一つ?」
「そう魔界とこの世を繋げる為の穴を作るということ。このレト大陸のどこかには、魔界という異世界に繋がる巨大な穴があると云われているの。」
「どこどこ?」
サーシャ様は、今にもその穴を探しに飛び出しそうな雰囲気です。
「それは分からないわ。私も、ずっとその場所を探し求めてるのよ。」
思わせ振りな。僕も少し興奮してしまったではないですか。もし本当に、その穴が実在するのなら、生きている間に是非ともお目にかかりたいものですね。
「場所は分からないけど、その穴について解ったこともあるわ。それは、その魔界と繋がる穴から大量の魔力が、この世界に流れ込んできているということ。つまり、その魔の力が今日の魔法を簡単に使える源ではないかという説が私は有力だと踏んでいるの。」
なるほど。ということは、やはり究極魔法を使った者の目的は、現世と魔界を繋ぐ為の穴を開けるということになるのかもしれませんね。その先の目的は不明ですが、恐らく人間でも簡単に魔法が使えるようにしたかったのでしょう。
「結論を言えば、もし、その穴が閉じてしまったら魔法が使えなくなる、可能性がある、ということね。」
「行ってみたい。その穴に。」
出た出た。サーシャ様の悪い癖です。物珍しい事があれば、すぐに食いついてしまう。
もう少し後先を考えて欲しいものです。
「それは、私だって行きたいわ。いつか、その場所が判明したら一緒に行きましょう、サーシャ。さてさて、お勉強はこれくらいにしときましょうか。次はサーシャが得意な実戦よ。」




