第3章 『私的な捜査』 1.彼氏有無確認テクニカル誘導尋問
第3章 『私的な捜査』
1 彼氏有無確認テクニカル誘導尋問
先日の張り込みが空振りとなり、プラン変更で事件の聞き込みに行くこととなった。前回に引き続き、また佳祐とペアとなる愛美。部下ということで、進んで運転席へ乗り込む。運転中に佳祐が前回の張り込み時のアクシデントを使って愛美に“彼氏がいるのか?”を遠回しに追及した。聞き込みの対象者の実家や友人宅を回るが、なかなか現れないため、付近に駐車して待機となったところで愛美が答えた。
「ストレートに聞いてくれて構いませんよ。でも、他の子であればセクハラになる可能性もあると思うので気を付けられたほうが良いかと思います。(フゥーと鼻息荒めで呼吸を整え)…………二階堂愛美29歳・父子家庭育ち・独身……。現在、彼氏はおりません。が……モテないわけでもありません! え~、父は警察庁・監察官、その一人娘で典型的な箱入り。独り暮らしの許可も下りず泣く泣く実家暮らし……異性交遊含めてセキュリティは万全! 父の干渉のせいで派手に出歩いてハメはずして遊ぶことも出来ないので、趣味は“お菓子作り”、余暇は“洋裁”と“料理”で完全インドア派です。職場では父の圧力なのか、警部補昇任試験に毎年挑むのですが、一次と実科は好成績トップ通過なのに最終面接で必ず面接官に『お父様によろしく』って“不合格宣告”のように締めの挨拶をされ『はぁー、やっぱ今年も落ちるんだろうな~』って合格発表前に言動やリアクションで結果を知らされるという巡査部長止まりの絶滅危惧種です。昇任も許されず大概が書類作成業務等の雑務で1日を終え……人員不足を除いて真っ先に戦場に駆り出されるなんて滅多になく、現場の経験値は低めで公私共に温室育ち。望んでもいないエリート2世ですが……何か?」
「あっ…………あぁ~、簡潔かつ具体的で……凝縮されつつも何か31年が鮮明に見えてきそうな完璧な自己紹介をありがとうございますw いやっ、その……この間……現場で……アクシデントとは言え…………悪いことしたなぁと思って。彼氏がいるとなれば……な……なんかその……」
「…………彼氏がいなければ問題ない、みたいに聞こえますけど」
「あ……いやっ、そういうわけじゃ…………すみません」
「……フッ」
愛美は完全に上司を手玉に取った気持ちだった。が、上司であることに変わりはなく、また配属されたばかりで仲間との信頼関係の構築のために距離を縮めようと頑張っている佳祐を理解して話を続けた。
「資料等で……私の父についてはご存知ですよね?」
「おっ、おう、警視正だろ!? 面識はないが……」
「……父は仕事柄、散々事件を見てきたからなのか、……“娘”の私が言うのも何なんですけど……凄く過保護で」
「ん、まぁ……、でも娘を持つ男親なんて、だいたい過保護なんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね……。でも……恐らく世間と比べたら……うちは度を越していて…………」
「なんだ、あれか、その歳でまだ門限あるとか?」
「門限ぐらいならかわいいほうですよ……。父は自分が気に入った人間しか付き合いを許してくれないんですよ」
「んーん、まぁ、でも、それもよくある話じゃないのか?」
「……それがちょっと……尋常じゃなくて。干渉の域を超えてるというか……」
「……干渉の……域を超えてる?」
「はい、良く言えば隠れSPですが、私にとってはただの監視部隊ですね……公安並みですw」
と言って、愛美は自ら『S・A・T』と名付けた父親の起用する自分への特殊な監視員について話し始めた。
「高校生の時に初めて付き合った彼がいたんですよね。……でも、数週間しか続かなくて。大学に入った時の彼も、1ヶ月も持たなくて。で、この仕事に就いてからのこの数年間も、自分が好きになって交際に発展した方と付き合ったんですけど、直ぐダメになって……。全然長く続かなくて、……で、ある時ふと思ったんです。振り返ってみたら“共通点”があったんです。『付き合い当初は好感触なのに、ある日突然ピタッと連絡来なくなるよなぁ』って。で、数年前、たまたま高校の同級生と再会して話したんです。そうしたら、その同級生が結婚が決まったって言って……。で、その結婚相手……っていうのが……同じ同級生だって……バツが悪そうに彼女に言われて……」
「もしかして、その……数週間の……元カレか?」
「……でしたw」
「マジか?」
「はい。あっ、でも、それは既に消化してたことだったので良かったんです。祝福も出来たし。でも、その後……その彼が合流することになって久しぶりに話したんです。そうしたら『実は、愛美の父さんがさぁ……』って言われて……」
「……お父さんに何かやられてたのか?」
「……はい。その彼から……父の使いの者が来て……って色々聞かされて……『あぁ、やっぱりそういうことだったのか』って。で、帰って父と大喧嘩して。あっ、でも、あの……、家に幼少期からずっと家のことを色々してくれている住み込みのお手伝いさんみたいな方がいるんですけど……彼女から父のその過剰な監視の裏には“事故で亡くなった母”への想いが強くあるとか、母の人生が短かった分……私には……とか。で、私のことをちゃんと守れる人でなければ結婚どころか付き合いすら認めない! って言ってたそうで。そんなことを聞かされて……。で、結局……その後、父に何も言えなくなってしまって……。あっ、なんか長話でした。すみません」
「あぁ、大丈夫。……うーん、大変だなっ」
「…………はい。まぁ、そんな訳でして……そういう背景がある“29歳独身・彼氏無し”なんで……私の人間性とかの問題とは違うので……」
「なるほどね………………。で……その『S・A・T』ってどういう意味?」
「あぁ…………『すかさず……間に……立ちはだかる、サッと……出てくる……“S・A・T”』……」
「……上手いっ! www」
「…………嬉しくないですw」
「……だな。んーん…………、まぁ~、その~(特殊)部隊が~いつかぁ~解体されることをぉ~心からぁ~祈念してぇ~おり……」
「そういう空虚なエールとか要らないんで…………」
「……すみませんっw」
その話を聞いて、エリートの娘である愛美に少し同情した佳祐だった。また、愛美の父親の厳しさの理由に母の死が関係していることも知り、人ひとり亡くなることで、こんなにも周りの人生や価値観に影響してしまうということを痛感していた。愛美の母親が事故死だと本人の口から直接聞いて、改めて身近な家族を同じ理由で幸せの絶頂期に亡くしていることを共感していた。…………だけでなく、中下からの情報通り『本当に彼氏がいないんだなぁ』と確かめて久々に浮かれた自分を見つけてしまってもいた。
進展のない聞き込みを繰り返し、次の聞き込み先に向かう途中で佳祐のスマホが振動した。取り出して確認すると……
――【至急】一課会議室へ招集――
本庁からの招集連絡のメール受信であった。




