違う
秘密諜報部に私を捕えさせればよかったのに――!
そう指摘すると、ハロルド王太子が「信じられない」という表情で私を見た。なぜそうなるのか、私は理解できない。だが……。
「それを問われるとは思わなかったな。まずわたしの最愛の相手なのだ、ミーシャは。他人任せにできるわけがなかろう。それに強引に捕えても、君はわたしの手をすり抜け、また逃げ出す。そんなことをするつもりはない」
「殿下はご自身の立場を分かっていますか!? お、王太子なのですよ! 王太子がそんなに簡単に国をあけるなんて」「問題はない。父君に許可はもらっている。領地視察を兼ねた遊学中だ」
私の言葉に被せるようにして、ハロルド王太子はあっさり私の言葉を否定する。さらに。
「いくつかの公務もこなしている。伝書鳩を飛ばしてな」
マイクとしてあれだけいろいろなことをしながら、公務までやっていたの!?
彼の時計は二十四時間で動いていないのかしら!?
いや、そんなことよりも!
ハロルド王太子だとは思わず、マイクだと思い、いろいろ話してしまった。
それを思い出すと、猛烈に恥ずかしい気持ちになる。
だがそこで、控え室に到着した。
一旦、全員で中に入り、ドナ、テェーナ、サチはソファに座るが、私はハロルド王太子に肩を抱かれたままだった。つまり、立ったままだ。なぜ座らないのかと思ったら、その理由をじわじと理解することになる。
「驚かせて済まなかった。わたしの婚約者はお転婆でな。こうやって時々私を驚かせる」
! そういえばさっきから完全に私を婚約者扱いしているが、承諾をしていない。婚約契約書にサインだってしていな……! そこで私は驚愕する。いつの間に! 私の左手には見たことのないカラットの、しかもピ、ピンクダイヤモンドの指輪がはめられていた。
「世話になった君たちには、相応の礼をするつもりだ。まずはこの皇都で一番の宿に、部屋を押さえているから、そこに泊まるといい。そして踊り子と護衛の騎士がそれぞれ一名抜けるが、その穴は埋める。すでに出発させたから、明後日には合流できるだろう」
これには皆、驚き、「え」となる。
そこで衝撃の事実が明かされる。
ハミルとはそういう関係だったが、アデレンは妊娠していない。
ハロルド王太子が護衛として私達に合流するため、二人に離脱するように頼んだのだ。
ハロルド王太子は、最初は離れて私を見守るつもりだった。だが私が酔っ払いに襲われるのを見て、もっと近くにいないと、危険に巻き込まれるかもしれない――どうやら不安に感じたようだ。
ということでハミルとアデレンが戻って来ることで、ドナが率いる旅の踊り子は、元に戻ることになる。
これにはドナ達三人は喜び、でも残念がってくれた。だって私が抜けるのだから。既に私達は仲間だった。
ただ……。
「マイクの姿がずっとない。彼もダメなのかい? マイクは有能だった。できればハミルよりマイクが……」
ドナ達はまだ何も知らない。
この発言の数秒後に、真実を知り、三人は驚愕することになった。
マイクがまさか、ハロルド王太子だったの……!と。
「ではそろそろわたし達は失礼させていただく。本当に、わたしのミーシャによくしてくれてありがとう。心から感謝する」
王太子が頭を下げたのだから、驚いた三人は立ち上がり、自分達も深々と頭を下げる。そして私に対し「お幸せに!」と言ってくれた。
違う、そうではない!
私は婚約者だなんて認めていない。
だがハロルド王太子はこの控え室から出る気満々だった。だからソファに腰をおろすこともなかったのだ!
でも私は違う。
着替えだってしたい。
そう。
いまだローブの下は、あの露出高めの服のままなのだから!
「殿下、私はあなたの婚やく」
再びのいきなりの口づけ
しかもこれは……!
失神寸前の私を、ハロルド王太子は抱きかかえ、「では失礼する」と歩き出す。
その後ろを彼の懐刀であるハーツ近衛騎士隊長と数名の近衛騎士達が続いた。






















































