指輪
エントランスに着き、そこで我に返り、「婚約者ではない!」と抗議をしたかった。だがそこには沢山の舞踏会の招待客がいる。そしてハロルド王太子は、王家の紋章が背に刺繍されたマントを着用していた。
エルロンド王国の王族がいる。
舞踏会から屋敷へ帰ろうと馬車待ちをするデュカン帝国の貴族は驚き、チラチラとハロルド王太子を見ていた。この状況で私が大騒ぎをしたら、ハロルド王太子の恥になるだけではない。エルロンド王国の恥となる。
エルロンド王国は、別に私の母国でもなく、ただ長い時を過ごした国に過ぎない。気にせず、声をあげてもよかった。でもハロルド王太子には、大変お世話になっている。酔っ払いに絡まれた時やサチの救出の時もそうだが、日々の細かい気遣いにも助けられた。
ここで恩を仇で返すようなことは、人としてできない……。
それに……。
今は冬だ。
それなのに私は露出高めの踊り子の衣装にローブをまとっているだけ。とても寒い。抱き上げているハロルド王太子の体温がなければガチガチと歯を鳴らし、どうにもならない状況。つまり寒さゆえに、不本意ながらガッチリ彼に抱きついている状態だった。
「寒そうだな……。悪かった。だがすぐ温かくしてやる」
ハロルド王太子はそう言って自身のマントで私を包むようにしているが、既に寒さで声は出ない。
だが程なくして到着した馬車の中は……。
王族が乗るような馬車だ。気密性が高いのだろう。しかも座席にも床にも毛皮が敷かれている……! そして私を座席に座らせると、毛布代わりで全身を毛皮で包み込んだ上で、抱き寄せてくれたのだ。
変に厚着をしていなかったので、毛皮による温かさをじわじわと感じる。さらに馬車の中には、コーンポタージュが用意されていた。金属と木の器を重ね、さらに革で包まれた容器に入ったコーンポタージュは、まだ温かい。それを飲むことで、体の内部にも温かさを感じることができた。
馬車は揺れも少なく、適度な速度で動いている。
対面の席には、ちゃんと水晶玉と着ていたワンピースが置かれていた。近衛騎士が運んでくれたのだ。
「宿に残っている荷物も持ってくるように命じているが、ミーシャに相応しい衣類や宝飾品などは既に用意させている。思い入れがないものは処分でもいいだろうが、その検分は君がするといい」
「……どこに向かっているのですか?」
ようやくまともに声が出せるようになっていた。
「皇宮に用意してもらった部屋に向かっている」
「こ、皇宮!?」
マイクという騎士のフリをしていたが、その実態は王太子。さすがに身分を偽って入国はできない。ハーツ達を別動隊として動かし、正規の入国手続きを踏んだ。
つまりは婚約者が攫われたので、王太子自らが追っている。入国と滞在を許可いただきたいと。ちなみに本件は極秘で行動しているため、他言無用でお願いしたい……ということで話を通しているというのだ。
デュカン帝国とエルロンド王国は、昔から友好国だった。生活や文化水準も同程度であり、かつてはまだ国とすら成立していなかったルイジ公国の侵攻に、共同戦線をはることもあった。まさに姉妹国のような関係であったため、ハロルド王太子の申し出は快諾され、しかも皇都滞在中は、皇宮にまで部屋が用意されたわけだ。
「最終的に、攫われたのではなく、やんちゃな婚約者が旅の踊り子とバカンスに出ていたようだ……ということで決着させるから、安心するといい」
「そうですか……ではないですよ、殿下! 私は婚約に同意するなんて、一度も言っていません。それなのにいつの間にか婚約指輪まで……」
いつの間にか左手に収まっていた婚約指輪を見る。
どう考えても、貴族の屋敷が複数建ちそうだ。その値段が計り知れないピンクダイヤモンドがついた指輪を、外そうとするが、外せない! 恐ろしいほどにジャストフィットしていた。
私が指輪を外せない様子を見ると、ハロルド王太子はとても嬉しそうにしている。誰のせいで指輪が外れないと思っているのか。そもそも指輪をつけたハロルド王太子が悪い!と思い、その瞳を睨むようにすると……。



























































