開幕
招かれたのは、デュカン帝国に七つ存在する公爵家の一つ、ジュリアーラ公爵のお屋敷だ。あの広場でのデモンストレーションを見に来ていたのは、他でもない当主であるジュリアーラ公爵。彼が自ら、本日の興行を申し出てくれたのだ。
しかも急な依頼であるからと、相場の二倍の値段を提示してくれた。言うまでもなくドナは大喜び。夕方に公爵邸に到着し、控え室として案内された部屋は……。
燭台やシャンデリア、調度品にふんだんに黄金が使われている。ふかふかの絨毯も敷かれ、既に暖炉で部屋は暖められていた。専用のバスルームもついている。踊り子たちはこの部屋で、マイクや従者たちは応接室へ案内された。
最初は四人でダンスを踊る。ゆえに衣装もお揃い。裾が大きく広がった、ランタンスリーブのドレスに着替えた。ドナは赤、サチは青、テェーナは黄、私はピンクのドレスだ。髪とメイクはペアになり、交代で整える。私はサチの髪を左右で編み込みにして、まとめることにした。メイクはサチの可愛らしい雰囲気が出るよう、ピンク色のチークをふわりとのせ、眉毛を整える。
「この四人での興行は、今日が初。だから多少の失敗はあるかもしれない。でもね、それは失敗と思わず、ちょっとしたアドリブぐらいで流せばいい。何より目の前にいる客が楽しい気持ちになること。これを最優先で考えるんだよ」
リーダーであるドナの言葉に、円陣を組んだ全員で、力強く頷く。
「じゃあ、今宵の興行も成功させるよ!」「「「「おーっ!」」」」
なんだか出陣する兵士のように気合をいれ、部屋を出た。
廊下には、マイクと傭兵が護衛として待機しており、従者は楽器を手に、私達踊り子の後に続く。マイクは公爵家を訪問するからと、気を使ったのだろうか。初めて会った時に着ていた紺色の隊服を着ている。マントはいつも通りのものだ。
ついついマイクに目が行ってしまうが。
何気に二人の男性従者も、優秀だった。御者も兼ね、楽器の演奏も担当するし、マルチにこなせる人達だ。ドナは人材集めがうまいと思った。
こうして廊下を進み、既に宴が始まっている大広間へと向かう。
扉の左右にいる公爵家の使用人が、こちらを見て頷く。そして一斉に扉を開けた。豪華なシャンデリア、多くの招待客でにぎわう中、私達は軽やかな足取りで進んで行く。
公爵家が用意している楽団が、事前の打ち合わせ通りの前奏をスタートさせ、私達踊り子は配置につく。広間の中央がダンスと余興のスペースになっており、その周囲を着飾った招待客達が囲んでいる。
楽器を手にした従者も楽団の近くに移動。マイクともう一人の傭兵は、扉の近くで待機しつつ、こちらを見ていた。
「皆様、本日は余興として、旅の踊り子を招きました。珍しい民族舞踊も披露します。ですがまずは定番のポルカを、踊っていただきましょう」
ジュリアーラ公爵は、鼻の下と顎の下に、グレーの髭を伸ばし、ひょろりとしている。だがお腹だけはぽっこりでていた。年齢はおそらく四十代後半ぐらい。黒のテールコート姿で、招待客に私達を紹介すると、音楽開始の合図を送る。
いよいよショータイムのスタートだ。
私が母親から最初に習ったのは、当然サハリア国の伝統的なダンスだった。でも踊り子たるもの、それだけではダメで、いろいろなダンスを身につける必要があると言われた。その結果、ワルツもポルカも踊れるようになった。
ということで陽気なポルカを踊り、宴の場を盛り上げる。
三曲連続でポルカを披露し、その後、サチとテェーナがソロダンスの披露のため、一旦抜ける。二人の準備が整うまで、この場を持たせるのは、ドナと私の役目だ。二人でマズルを踊り、観客を巻き込みギャロップを踊る。盛り上がったところで、サチとテェーナが登場だ。
サチは赤に黒の水玉、白のフリルのドレス。髪には白い花を飾っている。テェーナは黒に白の水玉、赤いフリルのドレス。髪には赤い花飾りだ。
インパクトのある衣装に、一斉に拍手喝采が沸き起こる。
従者がギターを手に演奏を始め、サチとテェーナがカスタネットでリズムを刻み、ダンスをスタートさせた。自然と手拍子が起こり、従者の合いの手にあわせ、口笛を吹く令息まで現れる。広間で踊り子と観客が一体となって盛り上がる中、ドナと私は控室へ戻り、着替えだ。