帝都
翌朝、爽やかな晴天となった。
汚れるからと、普段あまり着ないオフホワイトのワンピースを着たくなったのも、この天気のおかげだろう。ということですこぶる私は元気だった。昨晩食べた肉料理の数々。初めて飲んだホットチョコレートも美味しかったし、幸せ満点だった。
一方のドナ、サチ、テェーナは、しっかり二日酔いになっている。ドナは酔っぱらって、マイクに抱きついていたが、勿論、覚えていない。サチは泣き上戸となり、マイクになぐさめてもらっていたが、こちらも覚えていなかった。さらにテェーナ。彼女はマイクに部屋へ運ばれていたことも覚えていないし、彼の服を掴んだことも、覚えていなかった。
とにかく完全にお酒にやられた三人は、幌馬車の中でも伸びていた。
一方のマイクは、結構付き合いでワインを飲んでいたはずだが、ケロッとしている。変わらぬ見事な体幹で美しい騎乗姿を披露し、二日酔いの三人の介抱を、休憩の度に手伝ってくれた。
昨晩、思いがけず私が旅の踊り子に加わることになった経緯を話し、マイクからは意外な考えを示されることになった。
純粋な気持ちゆえのプロポーズだったのではないか。まともに会話していなくても、何か気持ちが動かされる理由が、相手に……ハロルド王太子にあったのではないか――そんな風に指摘したのだ。これは私が一人で考えても、思い至ることではない。
そんな発想ができるマイクに驚いた。それにハロルド王太子……つまりは相手の気持ちについても、考えることになったのだ。損得抜きの、感情の部分はどうだったのかと。
ハロルド王太子は……私の占いの力と関係なく、好意を持っていてくれたのかしら……?
こうなるとあの件についても、マイクの考えを聞きたい……そんな気持ちになっていた。
あの件。
それは、ハロルド王太子の伴侶になる女性は、彼と同じぐらい聡明でありつつも、彼を支え、彼に安らぎを与えられなければならないという件だ。しかも彼が賢王になるために、伴侶には強運が必要。そうしないと彼は、大成しないのだから――そう私は考えている。だがマイクだったら私のこの考えに、どんな意見を提示してくれるのか。それを聞きたいと思ったのだ。
だがしかし。
三人の踊り子が二日酔いでダウンしているので、マイクと話す時間がもてるかと思いきや、そんなことはない。休憩の度に三人は吐き気に苦しむし、その介抱をしつつ、馬の世話など他にやることもある。つまり、とても忙しい。私も手伝っているが、ゆっくり話す時間はない。
こうして移動を続け、日没前に宿場町へ到着。
この頃には二日酔いから復活したが、明日はいよいよ帝都に入る。そうなるとそこに貴族の邸宅も多いし、数日は滞在し、興行となるわけだ。ならばとこの日は踊りの練習になった。
さらにアデレンが抜け、私が新しく入ったのだ。よって踊りの構成の見直し、全体パートとソロパートでの調整なども、話し合うことになった。
早めに夕食を終え、みっちり活動したので、あとはベッドでバタンキューとなる。とてもマイクと話しているところではない。一方のマイクも、もう一人の傭兵と共に、剣術の訓練をしている。それはそれで忙しそうだ。
こうしてこの日は終り、翌日。
ついにデュカン帝国の最大都市である、帝都へと入ることになった。
早朝から動き出し、この時ばかりは皆、オシャレなワンピースを着ている。帝都に着いたら営業活動もすることになるのだから、お化粧もして、髪型も整えた。
私はジゴ袖のラズベリー色のワンピースで、袖や裾にフリルがあしらわれている。羽根のついた帽子も、帝都に着いたら被るつもりだった。他のみんなもカラフルなツーピスやワンピースを着て、それぞれお洒落にしている。
マイクは紺色の上衣に同色のズボン、タイにあの宝石、そしてマントはいつも通りと、大きな変化はない。だが普通にしていても、見栄えがする。そもそもオーラがあるので、帝都に着くからといって、何もする必要はないのだろう。
こうしてお昼過ぎには、帝都に到着した。