純粋
どうして踊り子をしているのか?――そう問うマイクに、私は素直に答えることにした。
「私は……実はある国で、踊り子ではない仕事をしていました。その仕事ぶりを認めていただけたのですが……なぜかプロポーズされそうになったのです」
突然「ごほっ」とマイクがむせたので、驚いてしまう。ホットチョコレートにあうと添えられていたシナモンパウダーをかけたところ、どうやらその粉を、思いっきり吸ってしまったらしい。
私は水を取りに行き、マイクは何度も謝りながら、受け取ったグラスを口に運ぶ。
「失礼した。……話の腰を折ったな。ぜひ、ごほっ。ごほっ。そ、その」
「分かりました。話は続けます」
マイクはこくこくと頷く。
そこで話を再開する。
「どこまで話しましたっけ……あ、そうです。その別の仕事をしており、そこでプロポーズをされそうになりました。元々私は、その仕事をとある方から専属で請け負って欲しいと頼まれていたのです。でも私は……自分の仕事で、多くの人を幸せにしたいと願っていました。特定の人達のためにだけに、使うつもりはないのです」
チラリとマイクを見ると、むせたせいだろうか。その碧眼は涙目になっている。何か言いたいようだが、再びむせており、水を飲むしかない。マイクに話しかけても、答えにくいだろうから、話を続けることにした。
「私にプロポーズしようとした方は、婚姻により私を縛り付け、その仕事を彼のためだけに使うよう、仕向けるつもりでは!?……と思ったのです。それが嫌でしたので、逃げ出しました。私の亡くなった母親は踊り子だったので、踊りは子供の頃から教わっていたのです。ですから踊り子として、逃亡を始めました」
「……いくつか、質問をしてもいいだろうか?」
私が頷くと、マイクは咳ばらいをして、もう一度グラスの水を飲む。そしてようやく口を開いた。
「どうしてプロポーズされそうだと、分かったのだ?」
「それは……勘、でしょうか」
「勘……なるほど。……それは君の仕事に関わることなのだろうな。その仕事をしていると、その勘が鋭くなるのか?」
水晶玉で見通した結果なので、そうだろうと思い「そうですね」と頷いた。
「……プロポーズをして、婚姻した上で利用しようとしている、それも勘か?」
「それは……勘というか、私の想像です」
「なるほど」と何度も頷いたマイクは、私にこんなことを語りかけた。
「プロポーズしようとしていた。それを見破ることになったのは、ミーシャ嬢の勘なのだろう。だがプロポーズ、それはそのまま額面通りに、受け止めればいいのでは?」
「えっ……」
「ミーシャ嬢のことを好きだから、純粋な気持ちでプロポーズしようとしたとは、考えなかったのか?」
それは……考えていなかった。なぜなら証人や当事者の署名が既に入った婚約契約書や婚約指輪まで持参していたのだ。どう考えても、外堀を埋められているように感じてしまう。それに……。
「その方とは、まともな会話すらしていないのです。それなのにいきなりプロポーズするなんて、おかしいと思いませんか? ただ貴族の方は、姿絵の交換で婚約や結婚を決めることもあるようですが……。平民の私には、ついていけないです」
「本当にそうだろうか? 会話としては……成立していなかったかもしれない。だがあなたの言葉に感銘を受けたり、感動したりすることが、あったのではないか?」
「それは……」
呪いにより、ハロルド王太子は眠りについていた。
その王太子に私は、確かに語りかけている。
呪いによる無意識下であれば、私の言葉は届くと分かっていたので。
え、その言葉で私を好きになったの?
本当に? それだけで? そんな、まさか……。
「仮に純粋な気持ちによるプロポーズだとしても、私ではダメなのです」
「なぜ、だ……?」
「マイク、ミーシャ、こっちに来なさいよ! そんな隅っこで、何をしているのさ!」
完全に酔っ払いのドナに呼ばれ、わずかに残っていたホットチョコレートを慌てて飲み干す。
マイクは何か言いたげな顔で私を見たが、きゅっと唇を噛みしめ、席から立ち上がった。



























































