25.獣人国ガウルへ向けて
帝都の外門前。
早朝だというのに、やけに騒がしい。
「だから反対だと言っているんだ!」
カイルが額を押さえる。
「何がだよ?」
シルフィアはあっけらかんとしている。
「その……その皇女殿下を連れて行くことだ!」
「リリスとお呼びなさい」
横からリリスが静かに訂正する。
「皇女殿下を呼び捨てにしろと!」
カイルが叫ぶ。
「いいじゃねえか。人数は多い方が楽しいぞ」
「遊びに行くんじゃないんだ!」
「旅だろ?」
「逃亡だ!」
即答だった。
シルフィアは腕を組む。
「細けえなあ」
「細くない!」
カイルの胃が痛む音が聞こえそうだった。
シルフィアの背中で、魔剣がぼそりと呟く。
『……我は反対だぞ』
「エッくんもか?」
『当たり前だ! 皇女など連れていてみろ、目立つに決まっておる!』
「でも便利そうだぞ?」
「便利とかいうな!」
カイルが叫ぶ。昨日までは帝国騎士団員、
それも聖騎士だったのだ。不敬にも程がある。
『便利でありんす』
別の声が混ざる。
カイルの聖剣、セラフィクスだ。
『お主は黙っておれ元カノ!』
『誰が元カノでありんすか。元でありんすが』
「認めるな!」
カイルがさらに頭を抱えた。
リリスが居なくなり、宮殿は今頃、大騒ぎのはずだった。
リリスは一歩前に出る。
「問題ありません」
静かに、しかし有無を言わせない声だった。
「私がいれば、門は通れますわ」
「いや、それが問題なんです!」
「通れないより、通れた方がよくないか?」
シルフィアが首をかしげる。
「理屈としてはそうだが……!」
カイルは言葉に詰まる。
その間に、門が見えてきた。
門番が三人、槍を持って立っている。
昨日の騒ぎでもっと厳重かと思っていたが、いつも通りの警戒体勢だった。
もっとも昨日の騒ぎは、一般には知らされていない。
大帝の命を狙う賊など存在してはならないからだ。
「止まれ!」
当然の制止。
カイルの心臓が跳ねた。
「来たぞ……」
リリスが小声でシルフィアに囁く。
「任せてください。お姉さま」
リリスが一歩前へ。
すっと懐から何かを取り出す。
きらり、と金貨が光った。
門番たちの目の色が一瞬で変わる。
「……っ、こ、これは」
「通して」
短い命令。多くは語らない。
門番たちは顔を見合わせる。
「し、しかし……規則が」
もう一つ、宝石がきらりと光る。
「……どうぞお通りください!」
即落ちだった。この門番たちは、昨日の騒ぎなど詳しくは知らない。
知っていたなら、自分たちの首が飛びかねない大問題だ。
「早いな!?」
カイルが思わずツッコむ。
「規則とは何だったんだ……」
『柔軟性でありんす』
セラフィクスがしれっと言う。
『ただの賄賂だろうが!』
エクリプスが吐き捨てた。
「いいじゃねえか、通れたんだから」
シルフィアはすでに門をくぐっている。
「待て! 隊列くらい整えろ!」
カイルが慌てて追う。
門の外。
帝都の喧騒が背後に遠ざかる。
広がるのは、だだっ広い道。
そして――何もない。
シルフィアが足を止めた。
「で?」
「で、とは?」
カイルが嫌な予感を覚える。
「どっちだ?」
沈黙。
一同の間をひゅるりと風が吹く。
「……決めてないのか?」
「うん」
即答だった。
カイルは天を仰ぐ。
「ノープランか!!」
「勢いでなんとかなる!」
『ならない!』
エクリプスが即否定。
『ならないぞ!方向くらい決めろ愚か者!』
「獣人国ガウルってどっちだ?」
『知らん!』
「知らんのかよ!」
『我は剣だぞ!』
セラフィクスがくすくす笑う。
『南でありんすよ』
「最初から言え!」
カイルが吠える。
リリスは静かに頷いた。
「では、南へ」
「よし、決まりだ! まずは獣人国ガウルの“腕部”が目的だ」
シルフィアが歩き出す。
「軽い!」
カイルは最後に振り返った。
帝都の門が遠ざかる。
(……本当に、出てしまった)
ため息を一つ。
そして、小さく呟く。
「……面倒を見るしかない、か」
「何か言ったか?」
「何でもない!」
シルフィアが笑う。
その背中で、魔剣がぼやく。
『我の災難はまだ続くのか……』
「当たり前だろ、相棒!」
『相棒ではない!』
「はいはい元カノも一緒にな」
『誰が元カノでありんすか』
「だから認めるな!」
騒がしいまま。
一行は、南へ歩き出した。
獣人国ガウルへ。魔王の鎧の腕部の回収に。
――完全に、ノープランで。
読んでいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」
「続きが気になる!」という方は、
ぜひ評価をお願い致します。星ひとつでも構いません。お気持ちだけで結構です。
ついでにブックマークをして頂ければ、とても嬉しいです。
では、次回も、お会いしましょう!




