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師匠が最強すぎる  作者: 不病真人


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1/9

第一話 走馬灯なのだろうか

人は死ぬ瞬間、人生が走馬灯のように蘇るという。


 少なくとも俺には、そんなものは見えなかった。


 見えたのは、浪漫も何もない蛍光灯だった。


なんでだろうか。

 午後の時間じゃないせいだろうか。眩しく見える。


あの時に見た時計はもう午後の時間じゃない。


 今日もおそらく終電を逃すし、そう思ってデスクの上には飲みかけの缶コーヒーが二本転がっているのを見て、気晴らしにでも外に行こうとする。


 「小呂、お前まだ帰らないのか?」


 先輩が苦笑しながら声を掛けてきた。


 「資料だけまとめて帰ります。」


 そう答えながら、パソコンの画面へ目を戻す。

 帰りか、帰ってどうする。

 営業。


 残業。


 会議。


 接待。


 毎日同じことの繰り返しだった。趣味らしい趣味もない。恋人もいない。休日はたまに鍛えて寝るだけ。

帰ったところで何も変わりはしない。

たまにいいことしてニュースに上がる程度だが。



(結局もう俺には何もない....)


 俺が唯一時間を忘れられたものがかつてあった。

 修仙と言う要素を持つゲーム “天玄仙道”

広大な十九州をまたがる世界観。

無数の宗門と呼ばれる存在に数え切れない秘境。

レベルはなく変わりに境界で霊根の優劣、そしてスキルの代わりに功法や神通と呼ばれる数々の技に装備はいろんな力を持つ法宝。


 それらをもっと目指すべきは仙人へ至る長き道。

究極のオンラインゲームで、10年以上もするが、未だに仙人に至ったプレイヤーなどはいない。


みんなそれを目指して競い合ってた


 けど自分はただゲームそのものも好きだった、世界観へ惹かれていた。


 攻略サイトだってただ世界観理解のために何度も読み返したり、ゲームの設定集とかデジタルブックもたくさんかっては読んだ。


 宗門ごとの特色も覚えている。その違い、例えば夢仙教と、玄天宗とか、いろんなあとがきが違っては門下生の違いなど精度の違いだって覚えたし。当然境界の名前も、覚えている。宗門で違うからだ。


 好きだった。

現実よりも、あの世界の方がずっと魅力的だった。


しかし魅力的と言えど、残酷さがあった

ゲームで死んだらそのアカウントは永久削除だ

 ……だからだろうか。俺が好きなのは。

だからか、アカウント消えてしまったよ。

だが現実でもいいとは言ってないはずだが。

会社を出て横断歩道を渡った瞬間。

眩しいライトが視界を埋めた。


 ブレーキ音。


 大きなガラス


 蛍光灯って呼ぶのかなこれって。


「きゃあああ!」


 誰かの悲鳴。


 身体が宙へ浮く感覚。


 それだけだった。


(なんで。)


 気付けば光は闇に変わった。

何もない暗闇はしばらく続いた。


(……暖かい。)


 思ったのは、柔らかい。感覚が出てきた。不思議だ。俺は死んだんじゃないのか?硬い地面を相手にするわけじゃないのか?


 これではまるで身体全体を布で包まれているような安心感。


 しかもいい匂いがする、鼻先をくすぐるミルキーな匂い。


 何かを話そうとして口を開く。


 「アウ……」


 しかし漏れたのは幼い声だけだった。


 視界はぼやけている。


 腕を動かそうとする。


 短い。


 丸い。


 ぷにぷにしている。


(……え?)


 嫌な予感がした。


 もう一度腕を見る。


 どう見ても大人の腕ではない。


 赤子の腕だった。


(いや、ちょっと待て。)


(待て待て待て。)


 混乱する頭で身体を起こそうとするが、首にまるで力が入らない。そんな時、誰かが、若い女だろうか、彼女が優しく俺を抱き上げた。


 「清雪、起きたの?」


 柔らかな笑顔。よくは見えないがどこか田舎娘らしい素朴な服装か。


 続いて日に焼けた男が部屋へ入ってくる。


 「今日はよく眠ってたな。」

(……親?)

 「ア」

(俺の?)


 信じられない考えが脳裏をよぎる。


 異世界転生。有名だからな。

しかし異世界か...古代の可能性だって、なんなら一見衣装でわからなくても、場合によってはもしかしては、宇宙戦艦にのったエルフが出てくる世界観かもしれない


 まさか、いったい自分は。


 しかし——。


 母親が水桶へ映った俺の顔を覗き込みながら笑った。


 「ほら、清雪。今日も可愛いね。きっと美人さんになるよ」

 水面に映るは小さな、雪のように白い肌で長い睫毛。赤子なのにすでに黒く柔らかなで厚みのある髪、それら全てが一つの違和感の答えを教えてくる。

俺は女の子だった。


(……女!?)


(俺、女になったのか!?)

正直もう何もわからない。この時は視力も赤子で結構色々と何も見えないし、ただ母親からの言葉を聞いて気がついた。

 

 当然思考が完全に停止した、その瞬間だった。


 視界の奥に、淡い青色の光が静かに浮かび上がった。


 「ア」


頭の中に、突然青いウィンドウが浮かび上がった。とでも言うべきだろうか。

【専属補助システム、起動。】


【所有者を確認。】


【李清雪】


【適合率:100%】


【初期データを構築中……】



(……は?)


 思わず目を見開く。


 だが、周囲の様子は変わらない。


 母親らしき女性は変わらこちらを優しくを抱きかかえたまま鼻歌を歌い、遠くで男はベットの下へ薪をくべているだろうか。体が小さいせいで距離がわからない


 二人とも、この青い幕が見えていないのだろうか。

 試しに小さな手を伸ばれてみる。


 指先は何にも触れなかった。母親らしき存在はその行動を見て愛おしそうに鼻先を指で撫でてきた。


 (幻覚...?)


【ステータスシステム】

名前:李清雪 年齢:0歳(新生児)

霊根:青霊根

修為:凡人 

功法:なし

神通: なし


(……マジか。)


(本当にあるのか。)


 転生ってやつか。無双ってやつか。


 ステータス。


 チート。


 ゲームのような能力。


 まさか自分が持つことになるとは思わなかった。


 しかも。


(青霊根?)


 その文字を見た瞬間、記憶が蘇る。


 天玄仙道では霊根の優劣がすべてだった。


 雑霊根は一生を費やしても修行者の真なる門入りの境界、築基できるかも怪しい。

上品霊根ならば宗門で期待される。そして。

 

 極品。それは宗門同士が奪い合う天才。

 数百万人に一人のレベル


 いや、それ以上に希少な存在だった。

(しかも青霊根とは....かなり上位の)

極品の位の上位に位置し、極品の5大霊根を除くもっとも素晴らしいもの。

“青霊根” “広辟霊根”白玉霊根”など属性の差こそあれど、どれも珍しく て、これら以外の15個の霊根合わせて、極品第6位に位置する。

後天を除き、リセマラでプレイヤーが到達できる頂点の一つだ。


(勝った。)


(これ、完全に勝ち組じゃないか。)


 思わず笑った


 母が頬を押さえて目を細める。


 「あらあら、この子笑ったわ。」


 父も嬉しそうに覗き込む。


 「俺に似て愛想がいいな。」


(いや、違うんだよ。俺はいま人生勝ったって思ってるんだ。)


 もちろん言葉にはならない。

赤子の喉から出るのは「あー」「うー」だけだった。

その日の夜、母が寝息を立て始めると、私は天井を見つめながらシステムを何度も開いた。

見ても内容は変わらない。

それでも、何度も確認してしまう。

だって、何かいいことあったら確認したくなるのは普通でしょ、例えば宝くじ当てたら、みるし。今回はそれ以上に素晴らしい

夢ではない。これが現実だ。

信じられない



月日は静かに流れた。


 普通の赤子なら、泣いて、眠って、乳を飲むだけの日々。大人の意思では地獄でしょう

しかしそこには退屈というものがなかった。

ステータスバーにサポーターがいて、それは色々とお話をしてくれる。

(なぁ、なんて呼べばいい..?)


 【該当システムはネーミング希望を検知】


(....お話だろうか...これは。)


そうして時ははゆっくりと過ぎていった。泣く代わりに青いウィンドウを眺め、ステータスを確認する毎日。

母親からはしばらく心配されたが、体は別に何もおかしなところがないから大人しい子と思われてことは済んだ。

妙な爺さんに1回黄色いお札を入れた水を飲ませられた事除いてだが。


まぁ、大人だったせいもあるか。一回だけだった。

だってこれまでにないほどに健康に育ったし。

首が据わるのが異様に早い。寝返りも早い。

這うのも早い、歩き出すのも早い。


 だから母親の反応はすぐに心配じゃなくなった


 なんなら言葉を覚える速度まで普通ではなかった。


1歳になる頃には、簡単な言葉を話せるようになった。「娘(お母さん)」「お父さん」

なんて話せるようになっていた。


 母は涙を流した。


 「この子、なんて聡明でしょうね。」


 父も豪快に笑いながら頭を撫でる。


 「俺たちの自慢の娘だ。」


 少しだけ胸が温かくなった。


 前世じゃ、こんな風に誰かへ頭を撫でられた記憶はほとんどない。親なんていなかった。


 だから、この二人を大切にしようと思った。

 だから毎日甘えて、一緒にいた。


 そんなある日のことだった。


 母の手を引かれ、村外れまで散歩へ出かけた俺は、不意に立ち止まる。


 目の前には、苔むした小さな泉があった。


 澄み切った水面。


 誰も気にも留めない山奥の湧き水。


 しかし。


 視界の青い幕が、初めて大きく輝いた。今までにない。


⸻


【霊脈反応を確認。】


【低級霊泉】


【霊気濃度:周囲の3・4倍】


【推奨:毎日20分の滞在】


⸻


 心臓の鼓動が速くなるのを感じた


(霊泉……!)


(こんな村にあったのか!)


 いや確かにゲームでは序盤に見逃しやすい隠し育成スポットとしていろいろあったが、まさか現実にも存在するとは。


 そうして見てる母が手を引いた。


 「帰るわよ、清雪。」

それもそうか、いくら聡明と思われていても小さくか弱き子供、落ちてしまうと危ないと...

 

 しかし俺はその場から動かなかった。

泉だけをじっと見つめる。

 それは一度も感じたことのない、不思議な感覚だった。

空気の中を漂う、何か。


 目には見えない。


 だが、確かに存在している。


 霊気


 俺は無意識に息を吸った。


 その瞬間、青い幕の文字が静かに書き換わる。


⸻


【初回修煉条件を満たしました。】


【最適な呼吸法を自動構築します。】


周囲に漂っていた見えない何かが、鼻や口からではなく、身体中の毛穴へゆっくりと染み込んでくる。

 暖かい。

 春の日差しを浴びているような心地よさだった。

 前世では感じたことのない感覚なんてレベルじゃない。体が勝手に反応してくる、まるで清らかになってくるようだった。

人間として生きていたなら、本来感じられないものなのかもしれない。筋肉の動きそれを貪欲に取り込むことをしてるんじゃないと言うレベルで体が不思議だった。

俺は夢中になって吸収を続ける。

すると、青い幕へ文字が流れ始めた。

 【霊気吸収成功。】

 【吸収転換効率:27%】

(えっ。)

 思わず目を丸くした。

 ゲームなら、初心者がこんな効率を出すことはあり得ない。本来なら功法を手に入れてから霊気を感じるだけで数日、吸収できるようになるまで数ヶ月かかってもおかしくない。

 それなのに息だけで成功してしまった。

 母はそんなことなど知る由もなく、苦笑しながら妙な顔をしながら息をすーはーすはーとしまくる俺を抱き上げる。


 「この子ったら、泉がそんなに気に入ったの?」

 

 慌てて表情を戻した。別に子供の行為だから特に問題ないと思う。

 赤ん坊が修練やら修行やらなど、普通は誰も思わない。

 ……いや、ありえる

プレイヤーの中には邪修と言って、新人プレイヤーを実験体や奴隷にする話が山ほどあった。NPCだって邪修がたくさんいた。なら今は、ましてや現実

(まだ隠そう、強くなるまでは。)

 そう決めた。

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