①
とある王国の貴族学園。 その中庭で、若い男女が肩を寄せ合い、親しげに微笑み合っていた。
そこへ、一人の少女が歩み寄る。
レイチェル・シセイテン侯爵令嬢。 彼女は冷ややかな眼差しで、目の前の二人を見下ろした。
「ひっ……」
怯えた声を漏らしたのは、カーラ・ヴィチェンツァ男爵令嬢。
その肩を抱き寄せながら、ルイモンド・カズノー公爵子息がレイチェルを睨みつける。
「貴様、今度はカーラに何をする気だ?」
「ルイモンド様。いい加減、ヴィチェンツァ男爵令嬢の伴侶探しを妨害なさるのはおやめください」
「……は?」
予想外の言葉に、ルイモンドとカーラは揃って固まった。
「ヴィチェンツァ男爵令嬢は、三ヶ月前に叙爵されたばかり。まだ婚約者もおりません。このままでは、同世代の貴族との縁を得られぬまま、年の離れた後妻か、問題を抱えた家へ嫁ぐことになります」
レイチェルは淡々と言葉を続ける。
「本来なら、教員や親族の紹介を通じ、身分の釣り合う令嬢たちと交流を築きます。そして、その繋がりから婚約相手を探していくのです。ですが婚約者持ちであり、なおかつ階級も大きく離れたルイモンド様は、最初から候補になりえません」
「俺が、候補外だと?」
「当然です。そもそも、この国で貴族女性を妾にするというのは、『その家は日陰者で構わない』と公言するに等しい侮辱ですので」
「カーラを侮辱するな!」 「侮辱しているのはあなたです」
立ち上がって怒鳴るルイモンドに、レイチェルは冷え切った声で返した。
「爵位を継げぬ次男である以上、あなたのお立場では、ヴィチェンツァ男爵令嬢の将来を潰すことしかできません」
ルイモンドが息を呑む。 レイチェルはそのままカーラへ視線を向けた。
「すでに、同格の家から縁談が届かぬことを、ヴィチェンツァ男爵が不審に思われている頃でしょう。学園への問い合わせも、間もなく行われるはずです」
「……っ」
カーラの顔が青ざめる。
「処分は軽くて転校。最悪の場合、籍を抹消された上で平民へ戻されます」
「なっ……!?」
さらにレイチェルは、ルイモンドへ向き直った。
「なお、ルイモンド様につきましては、すでに両家で話し合いが済んでおります。あなたからは、私との間に後継を成す役目以外、すべての権限が剥奪される予定です」
「そんな、馬鹿な……」
二人を見下ろしたまま、レイチェルは小さく息を吐く。
「身分制度とは、感情だけで動くものではありませんのよ」
それだけ告げると、彼女は踵を返し、呆然と立ち尽くす二人を背に去っていった。




