チキン小鳥遊とは友達ではない1
クーラーによってキンキンに冷やされた部屋。
布団に包まって朝を迎える。
左にはソプラが寝息を立て、右には天ネェが豊満な抱擁をしていた。
チュンチュン。
鳥の鳴き声が聞こえる。
これが朝チュンか……
いや、作業用BGMだ。
近くに置いてあったパソコンの液晶には、森と川の動画が再生されている。
どうやら、昨日動画を見ながら寝落ちしたのだろう。
時々、よく知らない配信者の生配信が再生されてるんだよな。
ムニムニ、スヤスヤ。
美人な姉に抱き枕にされている。
銀髪の美少女が添い寝している。
もう、手慣れたものだ。
ああ、もう朝か……と欠伸するくらいには、俺の心は涼やかだった。
詩にゃんの録音ボイスによって、眠気覚ましをする。
あの日、俺たちの関係は最定義された。
裏切らない友達契約も、青春を対価に失恋させる契約も続行中のままだが、不思議と気の持ち方は楽になっている。
詩にゃんに感じていた後ろ暗さは無くなった。
真鈴に失恋させてあげるという道は別のルートが示された。
明日は、夏祭り。
詩にゃんとの初デート。
俺は詩にゃんが好きだ。
仮に、思い込みや自己洗脳の末、心に植え付けた気持ちだったとしても、大切にしたい。
育った気持ちは本物だ。
……本物だよな?
そこで疑問に持つあたり、俺は自分の気持ちを安々と肯定できない性分なんだろう。
天ネェの拘束から左腕を解放して、ソプラと向き合うように寝返りを打つ。
左手でソプラの体に触れてみる。
髪はサラサラ。
頰は柔らかい。
唇に指をつけると咥えられた。
首から胸元に指をなぞり、胸を掴む。
何回か感触を確かめた後、へそに指を入れる。
……いや、寝てる相手に何やってんだろ、俺。
例えソプラだとしても、勝手に触るのは不味かろう。
特に興奮はしなかった。
もし、寝ている詩にゃんに同じことをしていたら、もっと反応が欲しいと、起きる起きないのチキンレースが始まっていただろう。
さて、二度寝をするか。
休日の二度寝は至福だからね。
人間の三大欲求の一つ、睡眠欲に素直になれることは幸せな証拠だ。
横向きから仰向きに体を動かそうとした時、背後から迫るもう一人の仲間の気配に気付かなかった。
豊満なボディを背中に押し付けるように、天ネェから抱き枕にされる。
行き場を失った左腕はソプラの腹の上。
わざわざ自分の腰に添えて寝るのも体勢的に辛い。
横向きで楽な姿勢を模索していたら、ソプラの頭を抱き寄せるカタチが一番姿勢的に楽だった。
うん、安眠のためだ。許せ、ソプラ。
指で額をコツンとしたからセーフだな。
★☆
スマホの着信音で目を覚ます。
俺はソプラを抱きかかえていた。
俺を抱き枕にしていた天ネェは先に起きて隣にはいない。
「おはよう♪」
スンスンと鼻を鳴らし、俺の香りを堪能しているソプラ。
「ああ、おはよう」
ソプラに甘えられることに慣れてしまった。
目覚め際に、ソプラが有無で寝起き具合が変わる始末だ。いる方がもっと寝たくなる。
あれだな、寝具に横になると眠たくなるのと同じだ。人とのスキンシップはストレス解消に繋がるから、ソプラが横で寝てると、至福な安眠に誘われるのだろう。
……しかし、スマホの着信音は止まらない。
絶対に諦めない。そんな意志を感じさせるほどの執着を感じた。
着信相手は小鳥遊だ。
こんな小洒落た苗字の知り合いは一人しかいない。
「出ないの?」
ソプラは首を傾ける。
それ、可愛い仕草だとわかって、やってるよね?
「いや、面倒だなって……」
別に友達というわけではない。
だというのに、友達面で恋愛相談してくるんだよ。
赤月さんと仲良くなりたいって……
今まで適当に返答していた。
本人に聞け、当たって砕けろ、気が向いたら協力してやる……
実りのないアドバイスをしているにも関わらず、声をかけてくる。
「出ないならソプラが出るね!」
ソプラが俺のスマホを勢いよく掴み通話に出た。
「もしもし、ソプラだよ」
俺への着信だよ、その受け取り方は相手が困るはずだ。
「――そうなの? バイバイ」
そう言って通話が終わる。
「間違い電話だったよ」
きっと間違えてるのは通話に出た人の方だろう。
「そっか、間違い電話なら折り返し電話はしなくていいな」
そんな言い訳を並べてみる。
スマホがまたブルブル震え、着信を知らせる音が鳴る。
「今日、奏のスマホはよく鳴るね?」
ほんとにね、そんなに張り切らなくてもいいんだぜ。
ソプラがまた着信をとった。
「もしもし、ソプラだよ?」
また同じ対応。
「うん、奏のスマホだよ?」
さすがの小鳥遊も、二度同じ手は効かないみたい。
「はい、奏に用事だって」
それはそうだろうね。
俺のスマホに来た着信で、俺宛の電話じゃなかったら、それは間違いなく間違い電話だ。
「はいはい、小鳥遊ご指名の八木くんですよ」
「八木、さっきから電話に出てる女の子は誰だよ! 赤月さんに言いつけるぞ!」
「うるさい、騒ぐなよ。用がないなら切るぞ」
「クソ〜、俺は部活で必死に汗を流してるってのに、家に引きこもってる八木がモテるのはなんでなんだよ〜」
「人を引きこもり扱いするなんて失礼な奴だな。外に用事がないから家にいるだけで、明日は詩にゃんとお祭りデートなんだぞ」
「デートって……赤月さんと交際し始めたのか!」
交際し始めたか……それを判断するには関係性が難解だ。
「恋人までのシルクロード、を渡ってる最中だ……たぶん」
名探偵映画のサブタイみたいに言ってるけど、友達の延長線って意味だ。
「意味は分からないけど羨ましい」
「忙しいから切るぞ」
「待て待て、まだ要件言ってない」
「早くしろよ、ソシャゲの日課でスマホ使いたいんだから」
「電話の切る理由が酷すぎだろ!」
「じゃぁな……」
プツンと電話を切る。
ここまで対話を拒否したんだ。もう電話は掛かってこないでしょ。
スマホが二度あることは三度あると揺れ始めた。
「ねぇねぇ、奏の友達じゃないの?」
ソプラが不思議そうに俺を見る。
小鳥遊が俺のことを友達だと思っていたとしても、俺は小鳥遊から友達になろうと言われていない。
「だだのクラスメイトだ」
それ以外に答えようがないと思う。
まだ、1話分のストックしかありませんが、話の路線を決めた感じです。
更新がまだまだ遅れるかもしれません。




