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失恋の定義


 俺は右手で真鈴を抱き寄せ、左手で撫でるように指を動かしていた。


 沈む弾力と重み。


 詩にゃんとソプラの時とは違う背徳感で、俺の下半身が落ち着かない。


 息も荒くなり、心臓が加速する。


 腕を抱きしめられたことは多々あるけど、体を覆うくらいの面積で触れ合ったのは、水着で押し倒されたときくらいだったはずだ。


「奏から触られるのって……意外とないわよね?」

「そうだね……」


 触っても嫌そうにしない。

 詩にゃんもソプラも、そうだったけど、心を許されているという感覚は、普通に嬉しく思う。


「ねぇ……キスは?」

「あ……あぁ」


 お互いの吐息を交換する。

 今日一日で三人の女の子としてきたことだ。


 余裕と息巻きながらも、慣れることはない。

 真鈴が必死に求めているのが、その仕草でわかる。


「マリン、ソプラも手伝ってあげる」


「――んん……ふっ」


 真鈴の肩が跳ねる。

 ソプラが真鈴のおへそ周辺に顔を近づけていた。


「ソプラちゃん、何してるの?」

「詩ちゃんもする? マリン……ちょっと塩っぱいよ」

「ごくり……」


 詩にゃんは、ソプラノ真似をする。


「んん……やめっ……こそばゆい……か…はむ…んんぅ……」


 俺は全力で、口を押さえる。


 詩にゃんに対する恋心を伝えるのに、真鈴を愛することと定義された以上、手は抜けない。

 

 静寂とした部屋には、真鈴の必死に我慢する声が漏れ、衣擦れの音が鳴り、少女たちの息遣いが流れる。


 いたずら心が働いたソプラは、真鈴の服を捲しあげる。


「ソプラちゃん!?」

「詩ちゃん、マリンをもっと、いじめてみたくない?」

「それは……」


 詩にゃんがソプラの誘いに悩んでいた。


「詩ちゃん、マリンは愛人! ちゃんと愛してあげないと、でしょ!」

「そう……だね!」


 もう、理由さえあれば、好きにしていいと彼女たちの中でルールが出来上がりつつあった。


 ペロペロ、肌と唾液が擦れる音が鳴る。

 真鈴は身悶えながら、体を弱々しく動かしていた。


「おへそ……癖になりそう」


 詩にゃんは、へその魅力に気づき始めたみたいだ。

 

「ソプラは……」


 ソプラは躊躇いもせず、下着を上へとずらした。

 がら空きの胸部に、ソプラが口を開いて、舌を伸ばす。


「レロレロレロレロってするね。奏が好きなアニメのモノマネ! これなら、巨乳でも愛せると思う」


 エメラルド色の瞳で、ソプラがスプラシュするつもりだ。


 真鈴が必死に二人に抵抗している。

 力が入らず頭に手を添えているだけになっていた。

 

 ちょっと、やり過ぎ感が否めない。


 真鈴は少しずつ、抵抗力が薄れていく。

 我慢するように、受け入れ始めていた。

 

 だんだん真鈴のことが、可愛く思えてくる。

 心に一番星がいなければ、簡単に心を持っていかれていたことだろう。



 新しく提示された失恋の定義。


 「恋心を失い愛情へと変化させること」だと、詩にゃんは認識したのかもしれない。

 真鈴を愛人にしたい。

 恋心を失われている。

 捨てるのでなく、昇華させるという形で……


 俺は否定しない。

 詩にゃんが幸せだと思う失恋だから。


 俺は受け入れる。

 真鈴が幸せだと思う失恋だから。


 恋心の否定こそが、椿真鈴の証明だ。

 外箱ではなく、内面の評価。

 正当な評価として、拒絶こそ信用に値する。

 そんな歪んだ希望だったはずだ。


 否定するどころか、彼女の大親友はラベルを張り替えて受け入れてしまう。

 きっと、俺からそんな間抜けな提案をしても、怒らせただけだろう。


 詩にゃんだから、真鈴も新しい失恋を受け入れる。


 俺は、二人の関係を円滑に進める潤滑剤みたいな役割だ。


 真鈴に恋をしない。でも、愛する。

 そんな相反するようなスタンスでいなければ、この関係は成り立たない。


 俺の恋心は詩にゃんだけの物だ。

 恋が何なのか未だに理解できない。


 けど、他の女の子を愛撫しても、詩にゃんの恋心の証明だと本人からのお墨付き。


 真鈴に好感を抱いても、それは愛情である。

 恋い焦がれなければ愛してもいい。

 

 水面下で揺れていた天秤が固定された気がした。


 きっと、俺は真鈴のことが好きだったんだろう。でも、恋心は抱けなかった。  


 抑え込んで見ないようにしていた感情が、全て愛情にシフトされた気がした。

 

 匂い、熱、重み、全てが愛おしい。

 同時に、詩にゃんへのアプローチに繋がるという矛盾に思考がバグりそうになる。


 好きになりたい。

 好きになってもらいたい。


 そう思うことが恋心だとしたら、間違いではないんだろう。



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