草凪ソプラはペットになる5
俺は急いで部屋に戻り、ソプラに駆け寄る。
母さんが言うにはボールギャグをつけると、唾液を飲むのが難しいらしい。
その状態で仰向けで居続けられるわけがなく。確実に顔を横にしているはすだ。
それでもキツイはずだろう。
布団をばっとめくる。
顔を横にして、ヨダレを垂れ流し、息を荒くしていた。
母さんが言うには、十五分くらいこの状態らしい。
このラインから唾液が溢れ出すと言っていた。
それを知って、あの二人はお茶をしていた。
ソプラの覚悟を知っていたから、動揺するのは侮辱だと考えたのだろう。クソ真面目か!
ソプラに跨り、脇下から腕を回して、体を起こす。ガムテで縛られたソプラの両腕が輪になって、抱きしめるように俺の肩をホールドする。
その状態で、俺はボールギャグを取り外し、横に置く。
「――んっ、はぁ、はぁ……カ、カナデ?」
じっとりと汗が肌を湿らしていた。
緩んだ口元からはヨダレが垂らして、俺の名前を呼ぶ。
ソプラの体温と匂いが、ゼロ距離で俺に襲いかかる。
水着ということもあり、女の子の感触がダイレクトに伝わる。
「そうだよ。その、よく頑張ったな?」
母さん直伝、とにかく褒めろ。
束縛プレイは、相手の思いやりが大事らしい。それだけで救われるとか……いや、俺にプレイしている意図はないからな。
「Канаде, я тебя очень люблю(カナデ、大好き)、うへへ」
耳元で何かを囁かれたが、ロシアが分からないため意味が理解できない。
とりあえず、抱きしめて、頭を撫でてやった。
これで少しは落ち着たらいいが……
頭を擦り付けるように動かしてくる。まるで甘えてくるみたいに。
ほっぺにヨダレが付くから止めて欲しい。てか、付いた。
「あんま、体を押しつけないで、色々……」
汚れちゃうとか言ったら可哀想だよな。
「色々、良くないから」
「カナデ、嬉しい?」
俺の精神衛生の話だと思われているみたいだ。
ソプラの呼吸も落ち着いてきたし、もう一度寝かせよう。この体勢のままは流石によろしくない。俺は紳士だが、それと同時に生物でもある。一番元気な時期といっもいい。
ゆっくりソプラの上体を寝かす。押し倒すみたいになってるけど、他意はない。
腕の輪っかから身体を抜こうとすると、ソプラが両腕で挟んできた。
「ソプラをベットにしていいよ」
積極的に攻めてきた。
止めて欲しい。
本当にね。
俺の本能を刺激しないでほしい。
「ほら、身体も濡れてるし、着替えないとね」
「もっとカナデとハグしたい!」
「それは……」
「ソプラ、頑張ったよ?」
完全に甘えるモードに突入している。
どうする、どうしようか。
まだ、ボールギャグを取り外しただけで、手首と足首は縛られたまま、水着で肌もさらしている。
息苦しさがなくなって、気分が高揚しているだけだろう。
ここで、全力拒否は流石に傷つくよな。
でも、甘えさせたら、余計に俺への好感度も上がるだろう。
「俺は……普段のソプラがお気に入りだからさ」
最低限譲歩した言い回しだ。
あくまでもお気に入り。
フェイバリットだ。
「嫌だった?」
悲しげに瞳がえるうると波打ち、震える声は弱々しい。
感じる必要のない罪悪感を植え付けられるような錯覚。
今すぐここから逃げ出したい。
今の気持ちを言語化することを、俺の理性が全力で拒んでいる。
恋愛はパッションだと、まりんは言っていた。
世のカップルの大半は、その時の雰囲気に流されて、結ばれているのかもしれない。
責任が生じれば、少なからず、関係は傷跡のように付きまとう。
それは貞操感が真面目な奴ほど馬鹿を見るということだ。
そして俺はそういう類いの馬鹿だ。
俺の一番は詩にゃんである。
「俺には他に好きな人がいるんだよ。だから、これ以上は理性が許さない」
「ソプラはペットだよ。奏は私を女の子として意識するの?」
するだろう、そりゃ。
何、概念、ペットだから、女の子として意識する俺が悪いのか。
「そ、そんなことは……ない」
見栄でも何でも、俺はソプラを異性としても見ない。
「じゃあ、問題ないね。うへへ」
ソプラは純粋な日本人じゃないから、日本語が正しく通じていないみたいだった。
今度、ちゃんとした日本語を教えてあげよう。
「問題大アリだ。布団が絶対湿ってる。ふかふかな布団で俺は寝たいんだよ」
ソプラの汗と唾液で、俺の布団かがベチョベチョだ。
今は問題をすり替えて、これが駄目なことだと諭していこう。
「だって、ソプラはペットだもん」
鎖のついた首輪を見せるように、ソプラは首を動かす。
「ちゃんと、躾けないとダメだよ」
手綱を握れと言ってきた。
まるで、俺にしっかり管理されたいと言ってきているようだ。
草凪ソプラは、愛し方が相当拗れてしまっている。
下手に拒絶なんてしてみろ、何をするか分からない。トラウマにでもなったら後味が悪い。
俺は深くため息を漏らし、その鎖を握る。
鎖は手のひら二つ分の長さであり、握った時に少し引いてしまった。
「――んっ」
ソプラが小さく声を溢す。
「Приятно познакомиться, мой хозяин」
ソプラは優しげに笑顔を浮かべ、頬を火照らせた。
本当に、言葉の意味がわからない。




