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草凪ソプラはペットになる4


 湯船に浸かり、今日一日の疲れを溶かしていく。


 なぜか、ソプラが三週間近く、我が家に泊まるという展開になっていた。

 容易に予想ができるトラブルに、頭が痛くなる。


 女性陣を全員を先に風呂に入れるのにも苦労した。

 ソプラは一緒に入りたがり、天ネェも競争するように共謀して、母さんも悪乗りしてくる始末。


 父さんがいれば、もう少し慎みを持ってくれるよね。と最後の希望を、父親に託す。

 ムーンバリアがちゃんと機能してくれることを願うばかりだ。

 

 詩にゃん、まりん、ソプラ。


 今、一番の問題はソプラだ。


 まりんは俺のことを好きになったと言った。

 それは合図だ。

 詩にゃんと恋人になることで、まりんを失恋させてあげれる。その大前提、失うための恋心。それを用意できたという合図。

 

 あとは詩にゃんに好かれるだけ。


 そこに来て、新たな問題が生まれてしまった。


 ソプラは俺を愛したいだけ。

 それは俺の愛を期待していないことになる。

 気持ちが拗れた結果、今に至っている以上、ここで拒絶して更に拗れてしまっては予測がつかない。


 それに、最低三週間は家にいるのだ。

 家の中で心休まらない不安を息苦しさなんて味合いたくない。


 もう気持ちの問題だ。

 そう、俺にやましいことなど何もない。

 詩にゃんが大好きで、詩にゃんのことだけを推して、詩にゃんが世界の中心であればいい。

 

 詩にゃんのことを思い出そう。

 暖かいお湯に、閉ざされた浴室。

 忘れようとした手の感触を思い出してしまった。

 水着で洗っこなんてするもんだから、風呂に入るたび、思い出しそうになる。


 風呂場で詩にゃんのことを考えるのは止めておこう。


☆★


 風呂から上がり、自室へ戻る。

 布団が敷かれていた。

 明らかに誰が布団の中でスタンバっている。


 膨らみからして一人だ。


 わざわざ布団を敷いてまで隠れている。天ネェや母さんと考えづらい。二人なら、寝ている俺の横にこっそりと侵入してくる。


 寝ている時の俺は何も言わないからだ。


 天ネェと母さんが他の部屋にいるか確認すれば誰かは確定するけど、そんな事する必要があるだろうか。


 布団をそっと、めくる。


「ん……う……んん――」


 ソプラが水着姿で縛られていた。

 傷一つない白い肌に対照的な黒いビキニ。銀髪の髪が花を咲かせ、横たわっている。


 脇が見えるように頭の上で手首を縛り、股を開いて足首を向かい合うように重ね、足首あたりで縛っている。

 体全体で八の字ができていた。


 目隠しをして、鎖のついた首輪に、ボールギャグまでしていた。息を荒くして、顔を横にしていた。

 

 これは予想しろという方が無理だ。

 俺はそっと布団をかけてその場から離れた。


 悪ふざけにも程がある。

 どう考えても一人で準備できるわけがない。


 俺は急いで、天ネェと母さんの元へと足を運ぶ。


 二人はリビングで、お茶をしていた。

 

「お姉さん、いけない扉を開いちゃったかもしれないわ」

「そうね、本人の希望といえど、人様のお嬢様にあんな事してよかったのかしら?」


 プチ反省会するくらいなら最初からやらないでほしい。

 

「お二人さん、ソプラが大変なことになってるんだけど」


「か、かなで、ソプラちゃんの……水着姿可愛かった?」


「そこじゃない。色々脳の処理が追いつかない事態になってた」


 目隠し、拘束、水着、首輪、ボールギャグ。

 あまりの刺激に、エロというよりホラーだった。

 とてもじゃないが、水着姿が可愛いね、なんて感想は出てこない。


「今日、お姉さんは、ソプラちゃんと水着を買いに行ったのよ」

 

 ショッピングモールで別れた後、俺達を遠目で観察はしていなかったみたいだ。


「それで、水着姿のお披露目で、なんで、あんなマゾティックなんだよ」


 正確にはマゾヒスティックだが、言葉の響きはマゾティックの方がしっくりくる。


「かなで、ソプラちゃんは張って水着を選んだよ。お姉さんは隣で見てたんだ。かなでに可愛いって思われたいって……応援したくなちゃった」


 なっちゃったか、なら仕方ない。おねは優しいからな。


「なら、普通に見せればいいだろ?」


「今日一緒にお風呂に入ろうとしたら、奏が断ったでしょ。年頃の男の子が女の子からお風呂を誘われて断るのよ。普通に見せても心に刺さらないと思って、お母さんが助言したわ」


「どう助言したら、あんな事態になるんだよ!」


「私がお父さんを落としたやり方よ」


「「え?」」


 俺と天ネェがハモった。

 なんで天ネェまで驚いてんだよ。


「あの人警戒心強いでしょ。私の愛を証明するために仕方なかったのよ」

 

 頬を赤らめる母親の姿。

 親の馴れ初めというだけで、小っ恥ずかしいのに、内容がエグかった。


 え、我が家の希望皇は、そんな絡め手で突破されたの?


「まさか、あのボールギャグって……」


 母さんが、そっと目をそらし、お茶を一口。


 なんだろう、風呂上がりでスッキリしてるはずなのに、どっと心が重くなった気がした。


「そんなことより、ソプちゃんをいつまでも放置するつもり? 奏も束縛が好きなの?」


 も、の部分に誰の影を見たのか想像したくない。母親なのか、父親なのか、そのどちらか。


「いや、俺より、二人のうちどちらかが、解放してあげない?」

「いいこと、奏。あれは最終手段よ。女の子の尊厳を全ベットした賭け、勇気を出して、無防備かつ逃走不可能な孤独の中に入った。本気を知ってほしいから」


 熱く語り出す。


「それなのに、想い人にすら無視されたとしたら、それはとても悲しいことよ?」


 まるで、「奏はそんな酷いことをするつもり?」と訴えかけるように、母さんは俺を見る。


「お姉さんもね、頑張った子にはご褒美があるべきだと思うな」


 束縛ソプラを自由にするのは、俺なのだと遠回しに言われている。


 俺が反抗すればするほど、駄々っ子みたいになる気がする。

 本人が望み拘束されて、周りもそれを肯定していて、俺だけが状況がおかしいと諭す。


 ここの正論は、世の常識ではなく、ソプラの気持ちに対する向き合い方。


 俺は別にソプラを傷つけたいわけではない。

 なら、この茶番に付き合ってあげるべきか?


 もしここで俺が無視して、ソプラが女の子として自信を無くされる方が面倒無事になりそうだ。


 俺は観念して、自室に戻る。

 こんなに自分の部屋に戻るのに、気が進まないのは初めてだった。


 

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