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草凪ソプラはペットになる3


 家路について、俺はリビングのソファに倒れ込む。


 遠出をして、疲れているのか無性に眠たい。

 バスはまりんが寝ていたから、乗り過ごさないために起きていて、電車では途中でまりんが下車したから、結局寝れず、駅からは徒歩だ。


 母さんが夕食の準備が終えるまで仮眠を取る。

 

 微睡みの中。

 クーラーの音や、母さんの話し声、ドアが開く音、天ネェの声、と色々と聞こえる。


 微睡む意識は次第に溶けていく。


「―今日はお鍋よ。準備するから二人とも起きなさい」


 母さんに揺らされて、意識が戻る。

 いつの間にか、毛布をかけられている。

 誰かが俺を抱き枕にしていた。それは毛布で隠されて見えない。


 天ネェにしては体格が小さい。

 胸元に小さい吐息。

 暖かい体温。


 そっと、毛布を返すと、そこにはソプラが寝ていた。


 回らない思考の中、これは夢か……と現実逃避する。


 夢ならと二度寝を強行。まだ眠い。


「はいはい、起きないと、お姉さんがハグしちゃうぞ」

 

 天ネェがソプラを押しのけ割り込んできた。


「Ой(いたっ)」


 ソファから落ちた。

 テーブルに頭をぶつけたようだ。

 

「あ、ソプラちゃん、ごめんね」

「アマネ、そこソプラの特等席」

「いいじゃない、かなでの横をさっきまで占領してたんだから」

「アマネのブラコン」

「それは、お姉さんにとって賛美の言葉よ」


 随分、楽しげに会話をしている。

 

「アマネのいじわる」


 可愛い子が可愛い声を出して、可愛く拗ねる。

 天ネェは起き上がり、ソプラを抱きしめた。


「そ、そんな顔しないでよ。まるでお姉さんが悪いみたいじゃない」


 天ネェは可愛いものが大好きだ。なんなら、八木家は皆、可愛ものが大好きだ。うちの母親なんて、ワンちゃんを散歩させている人には必ず挨拶をする。理由は言わずもながな。

 

 俺がソプラを許したから、天ネェは責める理由がなくなった。敵対心は残っていても、好きになる努力をしている。反省してる子を責めることのできない優しい姉だ。


 ソプラが今どこに住んでいるかは知らない。

 夕食の時間になってまで、我が家にいる。

 夕食を誘われたのだろう。


 時間を見れば、二十時を過ぎていた。


 ソプラも夕食を一緒にするとなると、帰るのは二十一時を過ぎるだろう。

 誰が、ソプラを家まで送るのだろうか? 

 

 疑問の眼差しを向けていたら、ソプラはにっこり笑う。


「カナデ、一緒に寝ようね」

「何を言ってるんだ?」

「かなで、実はね。ソプラちゃんを夏休みの間、家で預かることになっちゃったんだ」


 ……何でだよ。


「あれ、奏に伝えなかったかしら?」


 母さんが、鍋を乗せた卓上コンロに火をつける。


「何も聞いてないんだけど」

「ソプちゃんのお母さんロシアの人でしょ? 家族で実家に帰省して三週間くらい日本に戻ってこないみたいでね。その間、ソプちゃんを預かることになったの」


 いや、犬猫じゃないんだから、その動機はおかしいだろう。


「だから、今日はソプちゃんもいるから、お鍋にしたわ!」


 ドヤッ、と年甲斐もなく胸を張る。

 母さんは、実年齢よりかなり若々しい。

 女性の年齢を口にすることは八木家では禁忌だから明確な数字を思い出すのをやめた。


「ソプラが食べさせてあげるよ」

「待ちなさい。かなでに食べさせるのはお姉さんよ」

「あなた達、言い争う暇があるなら、少しは手伝いなさい」


 俺の知らぬところで、事態は勝手に進んでいた。


☆★


 ぐつぐつ煮えたる音、湯気を上げている。

 鍋を待つこの時間、香る食材の匂い。


 白いご飯を盛り、今か今かと、出来上がりを待つ。 


 右手側にに天ネェ。左手側にソプラ。  

 真正面に座る母さんは、俺の顔を見てニマニマしていた。


「父さんは?」

「今日は夜勤よ」

「そっか」


 父さんが夜勤で家にいないことは珍しくない。

 この場に父親がいれば、ソプラも萎縮して大人しくなったかもしれない。

 

「ソプちゃんからすれば、いなくて安心かしら?」

「カナデパパに早く挨拶したいです!」


 一体何の挨拶なのかは聞かないでおこう。

 この調子なら、父さんがいても萎縮しないかもしれないな。


「そうね、未来のお父さんかもしれないものね」


 目を輝かせて何を言ってんだが……


「それはないから、期待しないでね」

「なら、まりんちゃんと詩子ちゃんをお母さんに紹介してよ。早く孫を抱きたいわ」

「せめて、俺が結婚できる年になってから言ってくれない?」

「いいこと、大人になればなるほど、出会いは少なくなるものよ。ただでさえ奏は家から出ないんだから」

 

 母親には母親の悩みがあるのだろうか。


「天ネェが、きっと、孫の顔を見せてくれるよ」

「奏、姉弟で子供を作るつもり?」


 あれれ、天ネェの相手は俺に固定されてんの?


「お、お姉さんは、いいよ?」

「止めろ、生まれてくる子供が可哀想だろ」

「じゃあ、ソプラが生む?」

「前提が間違ってる」

「お母さんは、天音と奏が避妊するなら行為は許すわよ」


 おかしいな。食事って楽しくするものだよね。

 今から、美味しい鍋を食べ始めるんだよ。

 何で会話が闇に染まってんだよ。

 

「俺には、好きな子がいるから、その子と子供を作りたいです」


 まだ、交際していない女の子相手に、子供を作りたいと言わざるを得ないこの状況。

 俺は心の中で詩にゃんに謝る。本当にごめん。



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