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失恋こそ至高の恋、学校一の美少女は失恋したい!振られるために【ぼっち】の俺の恋人作りに協力している――失恋青春計画  作者: アリティエ
1章・契約編 

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青春と失恋の契約・前半


 その日、俺は校舎裏の木陰で昼飯を食べていた。

 教室にいるとお節介焼きの学級委員が、『ぼっち撲滅運動』を始めるから居心地が悪い。

 逃げるようにして見つけたベストプレイスだ。


「あの、椿さん。あなたのことが好きです。お付き合いしてもらえませんか?」


 聞き慣れたフレーズを耳にして、声の方に視線を向ける。

 

 癖のない、手入れされた長い黒髪。

 まだ幼さが残る凛とした整った顔立ち。

 極めつけは健康的な体つきの中で一際目立つものが二つ。

 それらが彼女を絶対勝者だと周囲へ知らしめていた。


 学校一の美少女と噂される女の子、椿真鈴つばきまりんだ。


 これで何度目か分からないが、たぶん二桁入ってるだろう告白現場。


「前にも断りませんでしたか?」

「確かに断られた。でも、諦められないんだ!」


 力強く、真剣な顔つきで、男が美少女に言い寄っていた。


 振った相手からのリターンマッチ。怖い怖い。

 

「ごめんなさい。無理です」


 流石の美少女でも、同じ感性を持っていたらしく、即お断り。


「どうしてだい? これでも僕は君に釣り合う男だと自負してるよ」


 自負しちゃってんだ。すげぇ自信。確かに女ウケしそうな見た目をしている。

 野次馬根性が発揮されたのか、ちょっと身を乗り出すように覗き込んでいたら椿と目が合った。


 ほんの一瞬、目が合った。

 その瞳は獲物を見つけたような圧を感じた。何事もなかったかのように俺は視線をそらす。


 自分の時間に戻ろう。彼らには彼らの時間がある。


 流れる広告を見る感覚で、告白の現場を覗くことは何度かあった。目が合ったのは今回が初めてだ。


 彼らにとってここが告白の舞台であっても、俺にとっては昼飯を取るための居場所。テリトリーを犯さないのが『ぼっち』のマナーだ。

 

「私、この人とお付き合いしてますので、あなたとお付き合いすることはできません!」


 その言葉に世界の時が止まった錯覚を覚えた。

 恐る恐る、視線を告白の舞台へと戻すと美少女が俺を指差していた。

 

 静寂な校舎裏に風が吹き、草木が揺れる。


「え、そんな地味な人が……椿さんの恋人なんて無理があるよ」

 

 地味の何が悪いのか。見下す要素ではないだろう……

 

「当たり前ですよ。だって私と彼はプライベートな関係です。無関係な人が知っているわけないじゃないですか? ストーカーなら知っていてもおかしくないと思いますけどね」


 怯えるように俺の腕に隠れ、美少女は抱きついてくる。

 それを見て何かを悟ったのか、椿真鈴に告白した男子は頭を下げて来た。


「何度も告白していたのは本気で君が好きだったからだ。すまない、ストーカーと思われていたなんて。そうとは知らず君に迷惑をかけた」

 

 そう言って、落ち込みオーラを全身にまとい、この場から去っていく。

 諦めきれないから付きまとっているのに引き際が良すぎる。

 何、この茶番……

 そう思った俺は間違っているだろうか。


 校舎裏、密着した男女の一組。

 腕から感じる感触との仄かに香る甘い匂いが、一瞬、これが夢だと錯覚させる。

 

 この現場を他の誰かに見られたら、もう俺が何を言おうと事実になってしまう。


「えっと、僕はあなた方がここに来る前からここにいたので、決して覗いてたとかそんなんじゃないですよ。もちろん、今回のことは誰にも言いません。だから、腕をですね……」

 

 椿真鈴は目を丸くして、不思議そうに俺を見る。


「嬉しくないの? 一応お礼のつもりだったんだけど、そんなに私と話したくないんだね?」


 腕を組むのがお礼って、男なら美少女に抱きつかれたら嬉しいだろうと思ってんのか……悪くはないけど、お礼と言われると素直に喜べない。


「八木くん、いつもここにいるよね。友達いないの?」


 バレてたよ。

 名前知られてたよ。

 働け『ぼっち』の称号!


「……それは友達の定義によるよね」

「……それ、友達がいない人のセリフだよ」

「友達が沢山いそうな君がなぜそう言える?」

「私もいないから」


 しばらく沈黙が流れた。


 お互い友達がいない宣言をした後の気まずさ。

 俺は宣言してないけど、とにかく気まずい。


「ごめんなさい、変なことに巻き込んだね」


 やっと解放されたと安堵した矢先のこと。


「巻き込んだついでに相談に乗ってくれない?」


 謝罪の意味知ってるか、と心の中でツッコミを入れる。


「……そういう相談なら僕より適任がいるよ。ほら、うちのクラスの……えっと、クラス委員長のポニーテールをいつも揺らしてる子。お節介さんだから、快く引き受けてくれる」


 これで晴れて自由の身、とはいかなかった。

 氷点下まで冷え切った視線が、俺の良心を凍えさせて逃さない。


「……八木くん。君は、私が『誰でもいいから助けて』って言ってるように見えてるのかな?」


 無神経だったことを反省します、ごめんなさい。

 そんなことを言ってしまえば、この子の相談を受ける流れになる。

 だから、悪いと思いながらも断る口実を考えていると、椿真鈴が小悪魔的な笑顔を見せた。


「ポニーテールさんは、人が良いのよね? 君に相談がしたいと言えば、どうなるのかしら?」


 うん、あのお節介ポニーテール委員長なら俺も巻き込んで、椿真鈴の相談に俺を同席させかねない。

 それは人口密度が増える分、苦痛だね。


 今、物理的に距離を置くにも、昼休みが終わらないと不自然。

 

 スマホを取り出し時間を確認する。

 残り時間は十分。

 一般的な相談なら軽く聞ける範囲内。


 言い訳として、


『あたたた、お腹の調子が悪いみたいだ、もしかしたらさっき食べたチキンカツが腐っていたのかもしれない。すまない、私のお腹の調子が万全なら君の相談なんて、午後のティータイムを優雅に過ごすような穏やかな気持ちで、さっさと解決できただろうに、非常に残念だ』


 なんて言えば、どこかの世界チャンピオンのように逃げられただろうか。


 けど、真剣に俺を見つめる意思がそれを許さない。そう思わせる、実感がある。


「あの、相談って、何?」


 椿真鈴はやっと、核心を突いてくれた、そんな喜びを満面の笑顔で表現する。

 まるで好きな人を友達に宣言する前触れのような、その一歩手前といった様子で――。


「私、失恋がしたいの」


 大切なモノを盗まれたと錯覚するほど、

 惹きつけられる笑みを浮かべ、

 美少女様は、誰にも言えない秘密を告白した。


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