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(かなで)君、なろう小説で、私が投稿した作品が一話切りされるんだけど、これって私がつまらない奴って評価されてると言っても、いいかしら!」


 ラノベのタイトルみたいなセリフを、すごく嬉しそうに語りだした。


「私の作品が不必要だと認められた、言うなれば失恋の代名詞。なろう小説は失恋製造機だった!」


 そんな世紀の大発見みたいに言われても。


「そもそも、評価すらされてないから、空気圧扱いだろ」


 むしろ、検索の邪魔をする中身のない宝箱か。


「……別に、、知ってた、わよ。そうよね、普通は全部見た上で評価するものね。私、美少女だから、気に入られるために全部読まれるものだと思ってたわ。あらすじに、美少女が書きましたって入れたのは無駄骨だったみたいね」


 この自分のステータスに絶対的自信を持つ、頭のイカれた女の子の名前は椿真鈴(つばきまりん)

 自分の理想のために、恋を失う魔力に魅入られた美少女である。


「――それより、何かお悩み?美少女である私を目の前にして暗い顔してるわよ?」


 チラリと教室の一角に視線を移す。男子達の舌打ちする幻聴が聞こえた気がした。


「彼らがどうかしの?」

「いや、俺の敵になったんだなと……」

「敵……、何か被害があったのかしら」

「被害があった訳じゃないが、敵がいる、それだけで不安になるもんじゃないのか」


 突然背中にナイフが……みたいな? そんな物騒な展開がないとは限らない。


「敵視するなんて、許せないわね。奏君は私の失恋相手よ」


 頬を膨らませる姿は可愛らしい。彼女の名前は椿真鈴(つばきまりん)。一言に美少女だ。艶のある黒い髪、凛とした顔、豊満な二つの山……


 それらの誘惑に引き寄せられ、無残に散った男たちが、彼女の価値を更に高めたのかもしれない。市場で価値の変動を繰り返す仮想通貨の女王様だ。


「なぜ、私をジロジロ見てるのかしら?」

「いや、美少女って凄いなーって」

「私は凄いわ。けど、あなたも知っての通り、美少女には出来ないことがあるのよ」


 美少女には出来ないことってなーんだ? それは人間に出来ないことです。


「それは失恋よ!」


 ――君に決めた! 

 投げつけられたボールから出てきた中身は、理解に苦しむ毒だった。


「俺なんて失恋経験豊富なんだけどな……美少女は人間じゃないのか」

「馬鹿なのかしら?」


 椿真鈴は失恋がしたい。

 彼女にとって失恋することは恋を成就させることより難しい。


 群がる男共は、美少女という光に群がる虫と同じだ。彼らは発光体にしか興味がない。

 それが椿真鈴が自身に向けられる好意の認識である。


 体型が変わったり、手足が無くなったり、顔面が崩れたりしたなら、椿真鈴の美少女としての価値は損なわれ、誰も彼女のことを好きにならない。


 いつ無くなっても可笑しくない好意よりも、無くなってしまうと分かり切っている好意に彼女は惹かれてしまった。

 


「失恋は至高の恋。恋焦がれる相手がいて、その相手は別の人が好きであり、想い人が恋する姿に胸打たれ、自分に対する感情でない事に嫉妬して、嫉妬しただけ相手を好きになる。まさに、恋愛の全てが詰まっている!」


 椿の目が怖い。語りも鬼気迫っている。


「君が楽しければいいんじゃない?」


 俺、八木奏(やぎかなで)は、どこにでもいる『根暗なひとりぼっち』の一人だ。

 学校一の美少女と噂されるこの女の子と、疑似恋愛の真っ最中。

 平和主義者である俺は、いつナイフが飛んでくるか、怯える日々に足を踏み入れてしまった。


「ええ、今はとっても楽しいわよ。奏君は私を好きにならない。私は奏君を好きになるように努める。安心して恋をして失恋ができるのよ」 


「それには、失恋を最高な恋心に仕立てる、香辛料(ライバル)が必要だな」


「恋に好敵手は必須よ。だから、奏には恋人が必要……私は奏に青春を約束したわ。私が奏のキューピットになるから安心しなさい」


 俺はこの美少女のことを好きにならない。だから選ばれた。その対価として青春を約束した。


「お前と恋人だと囁かれてる俺を、好きになる奴なんていないだろ」


 そもそも好きになってくれる女の子がいない。

 

「悲観的なのはだめよ。もしかしたら、危機感をもった奏ラバーがいるかもしれないじゃない」

「いるといいな」

「他人事みたいに言うわね」

「話の流れから、俺を好きになるのは他人だからね。まぁ、約束だし、少しは頑張ってみるよ」

「約束だからね」


 俺と椿は約束したのだ。

 俺は椿真鈴の失恋に協力すると。

 椿は八木奏の青春に協力すると。


 俺はまだまだ未熟な若者だ。

 青春の二文字に特別な意味を見出すお年頃である。高校生活に華を持たせたいと思っても不思議ではないだろう。



 時は流れて、放課後。

 俺は教室で椿真鈴を待っている。

 外から校庭をのぞき込み、青春謳歌している運動部の連中を観察していた。

 サッカー部だろうか、女子マネに鼻の下を伸ばしてるのが教室からでも分かる。


 季節は夏。もうすぐ高校初めての夏休みが幕を開ける。

 サッカー部の男子君は淡い期待をマネちゃんに抱いているのだろうか。


 俺は椿を恋愛対象として見ていない。

 恋愛に対して嫌気を抱いている彼女は、どこか退屈しているように見える。恋愛には興味があるけれど、理想通りに上手くは行かない。そんな感じに見て取れる。


 理想通りに青春を謳歌できない俺と、少し似ていると思ったのだ。


 最初に椿に抱いた感情は親近感だろうか?


 時を同じにして思い出を積んでいく過程で、俺が心変わりしないとも言いきれない。


「あの、八木くん」


 一人の女の子が俺に話しかけてきた。


「えーと、君は我がクラスの飼育委員長だ」

「学級委員長だよ。それに飼育委員長だとクラスのみんなが飼育員になっちゃうよ」

「人はみんな自分という生物を飼育してるんだから似たようなものだろ」

「それは違うと思うんだけど」

「で、何か用?」

「今週の土曜日ね。クラスのみんなで集まってどこかに遊びに行こうって話になってね。八木くんもどうかなって」


 なるほど遊びの誘いか。断る理由はあるだろうか。俺は青春を謳歌したい者だ。

 だから、迷わず俺は言った。


「だが断る」


 ここで行く行くなんて軽々しく言えるのなら椿に青春の協力なんて頼んでいない。


「椿さんがいるもんね。デートかな。熱いね」


 単純に行きたくないと思わないか普通。いや、行きたくないとかじゃないからな。

 学級委員長は色々と気の使える人なんだろう。俺が人付き合いができない人と思わせないための配慮だ。理由があるから行けない事にしてくれているに違いない。


「別に椿と俺は付き合ってないぞ」


 疑似カップルを付き合っていると定義されるものだろうか? 疑似と言うのなら、ここは付き合っているというべきか?

 今流れてるのはあくまでも噂だしな。そっちほうが俺の恋人作りに都合がいいだろう。


「そうなんだ!」

「友達だから接してて普通」

「友達なの!!」


 さっきより驚いてないか? まぁ、友達かどうかは俺もそこら辺は曖昧だから断定はできない。


「そんなに不思議なの?」

「うん、恋仲関係も驚いたけど、八木くんが友達を作ってるっていうのも驚いた」

「俺ってどんなイメージ持たれてるんだよ」

「孤高を愛する一匹狐かな?」

「そこは狼じゃないんだね」

「孤高のキツネさんと掛けてみて一匹狐だったんだけと、変だった」

「正直な所、上手くない」


 苦笑いを浮かべる学級委員長。名前は何だっただろうか。

 茶髪ポニーテール、スレンダーボディ、明るい笑顔。椿の次に可愛い女子だったはずだ。


「えっと、ポニーさん。さっきは断ったが、あれは条件反射だ。気が向いたら行ってもいい」

「ポニーさんって、もしかして私の名前覚えてないの?」

「あれだろ、ポニーさんだろ?」

「そんな外国の人みたいな名前じゃないよ。赤月詩子です」

「初耳だな」

「自己紹介の時、皆の前で言いましたけどね」


 赤月さんはため息を漏らす。俺に名前を覚えていないのが残念だったのだろうか。俺にまで覚えてもらいたいって、赤月さんの承認欲求は高すぎだと思う。

 

「しかし、今まで親切にしてくれてた人の名前を忘れてたのは、心苦しいね。これからは親しみと敬意を込めて詩にゃんと呼ばせてもらう」


「今までの八木君とは思えないほど、距離の取り方が極端すぎますよ!」


「いや。だって人の名前を覚えるの苦手だし、詩にゃんなら、たぶん忘れないと思う」


 忘れないよな?


「八木君に名前を覚えてもらうためでも、詩にゃんは恥ずかしいです」


「じゃ、ポニーさんだね」


「それだと私がポニーテールやめたら認知されなくなりませんか?」

 「…………写真いい?」

「忘れる気、全開じゃないですか……なんか今日の八木君は沢山お喋りしてくれますね?」

「気のせいだよ」


 確かに椿と契約を結ぶ前なら、自己保身でこんな砕けた会話はしなかった。

 圧倒的美少女との契約が俺を変えたのだろうか。

 それとも椿を待つ間の暇つぶしとして、詩にゃんを、利用しているのだろうか。

 

 心のなかで自問自答していると、


「お待たせしました。さぁ帰りましょう」


 椿が戻ってきた。


「もう用事は済んだのか?」

「はい、きっぱりさっぱり振って参りましたわ」


 この口振りから、また一人、虫叩きされ、玉砕された奴がいたんだろうか。


「待ち人がきたから俺らは行くよ。暇つぶしに付き合ってくれてありがとうな、詩にゃん」

「さようなら、詩にゃんさん」

「はい、さようなら。詩にゃん呼びはできれば控えてほしいですけとね」


 こうして俺達は教室を去るのでした。めでたしめでたし。


「とても余裕な表情ですね。私との約束をする以前は自己保身の化身みたいだった人でしたのに」


「取り扱い注意の刃物があるから、そっちに思考のリソースを割いてるからね」


「あら、大変ですね。ちゃんと取り扱えるようにならないといけませんね」

 

 椿は俺の手を握って、私可愛いでしょアピールを始めた。

 確かに可愛いなうん、可愛い。演技じゃないって分かってたら、絶対に近づいてない。危険な美少女だ。


 綺麗な花には毒がある。彼女の毒は相当だからな。

 そんな毒に群がるハエ共の気持ちが本当に理解できない。

 

「俺らが恋人同士って噂が流れてる中、告白する奴らは何を考えてるだろうね」

「危機感というものです。私のような美少女が他の男性と交際をしていると知って、その人より自分の方が優れているといった理由から告白したようでした」


 危機感ね。俺にも告白してくる女子が……いるわけないか。 

 まずは友達だ。詩にゃんとなら友達になれるかもしれない。俺と話をしてくれたし。まぁ、俺が一方的にからかっただけだけど。


「それじゃ、私達の仲を見せつけながら帰りましょう」

「嫌だよ。敵をこれ以上刺激しないで」

「それじゃ、人目の少ない場所で親睦を深めましょうかしら」


「確認なんだが、親睦を深めるって、作戦会議の隠語だったり、しないよね?」


 椿は足を止めて、天真爛漫な、天使は小悪魔のように変貌して、ニヤリと笑う


「流石ね、奏君」


 俺の読みが冴えていたのか。どうやら考えていたことが一緒みた――


「奇遇ね。私も今、そう言おうと思ってたわよ」

 

 もじゃもじゃ頭の宇宙飛行士みたいな言い訳をする美少女様。


「じゃあ。カフェで、イチャイチャしながら決めましょうか」


 ぱっ、と笑顔を咲かせる。

 二転三転、コロコロと、感情を表現する姿は計算高いだけなのか。


 まだ俺には分からない。



次のエピーソードは、この話のより前のことになります

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