爺孝行
三日ほどかけてリストに載っていたすべての貴族と面会をしたクルムは、彼らが極めて真面目に働いている貴族であることを再確認した。
そもそもケルンの近くにいた貴族の多くは、領地を持たず、王宮に役割を持つ貴族が多く、文官としてはさりげなく優秀な者が多いのだ。
ふらふらと派閥を渡り歩こうとしていた者たちは、そんな中でもここ数代まともな当主に恵まれておらず、結果を出せていない家の者たちだ。
彼らは王宮の中でも窓際族的な扱いをされているものだから、王の代替わりと共に、王宮から追放される恐れすらある。
逆にケルンの下に残っていた貴族のタイプは三つに分かれていた。
一つは、極めて真面目に働いており、王宮にしっかりと役割を持っているタイプの貴族。
彼らは先代ユゥバ子爵に近いタイプの貴族である。
先代ユゥバ子爵も、もしフルートが馬鹿なことをしていなければ、このタイミングで彼らとともにクルムの派閥につくことになっていたことだろう。
彼らはしっかりと王宮の歯車としての役割を担っており、どの派閥に属していようが、代替わりの際に身分を失わないという自負がある。
ではなぜケルンの派閥についていたのかと言えば、それは横のつながりの問題だ。
ケルンの母は、宰相や大臣を歴任している王都の法衣貴族の代表のような家柄の娘である。
いくらヘグニ王子や当代、先代の王の派閥が強まったとはいえ、伝統ある王都の貴族としては、逆らうわけにはいかない相手だ。
数人から事情を聴取したところ、ケルンはその絶大な権力を持った祖父に直談判し、貴族たちを切り離す許可まで取って来たらしい。
ちなみにあとの二つは、ケルンの祖父に強い恩義を感じていて、ケルンのことも遠くから見守っていた頑固タイプと、ただ能力がなく、何も考えずに気付けばこんなことになってしまった貴族たちに分かれている。
割合としては、六対一対三くらいなので、全体として見れば派閥に仕える貴族が増えたと喜ぶべきなのだろう。ちょっとおバカな貴族も抱え込むことになってしまったが、まぁ、ふらふらと足元がおぼつかないよりはずっとましだ。
優秀なモーリスはこの区分けが分かっていたのか、面会の順序は、ちゃんと重要な者から順番に組んでくれた。つまり見事なまでに最後の方に、打っても何も響かなさそうな貴族たちがやってきたわけである。
「見事にパッとしない奴らだったのう」
「……まぁ、数にはなるので」
「何が起こってるかもよく分かっておらんように見えたぞ」
「裏切る心配もないと思えば」
裏切るには裏切るなりに頭が必要だ。
なんだかとりあえずぺこぺこしていればそれで済むと思っていそうな彼らには、そんな能力すら期待できそうになかった。
クルムもそれに関してはちょっとあきらめ気味である。
最後に随分と無駄な時間を過ごしてしまったような気がしていたクルムは、しばし椅子の背もたれに寄りかかってぐったりとしていたが、やがて「よし」と気合を入れて立ち上がる。
「先生、バミ大臣の下へ行きましょう」
「そういえば昨日なんか言ってきおったな」
昨日やってきたのは若いバミの部下の一人だった。
ホープとクリネアはどうしたのだとグレイが尋ねると、忙しくて手が離せない、とのことであった。
ちなみに忙しい理由は、グレイとクルムが指名手配犯を大量に捕縛してきたせいである。ついでにあれ以降も貧民街では、ちらほらと指名手配犯が捕まっている。
貧民街四天王と、暇な〈要塞軍〉の兵士が協力して、貧民街区域の自浄に乗り出しているのだ。人を何人も殺していたり、口にできないような前科が多数あるような者たちは、立ち直るために頑張っている貧民街の住人にとっても害でしかない。
クルムはパパッと準備を終えると、ウェスカに声をかけてから、グレイを連れてバミの仕事場を目指す。
「そういえば……、ラウンド様とバミ大臣も同年代ですよね? お二人は会わないのですか?」
「知らん。会いたきゃ勝手に会うのではないか?」
「……そもそも、バミ大臣はラウンド様が王都へいらしていることをご存じなのでしょうか?」
「お主が勝手に招いたのだから知らぬのではないか? あ、いや、近頃の犯罪者共の検挙のことを考えると、知っておるやもしれんな」
グレイの返答はあまりにも適当である。
クルムが話に聞いている限り、どちらの友人たちとも、グレイはそれなりに濃い青春時代を共にしている。もう少し旧友たちに配慮があってしかるべきなのではないかと、クルムは思うわけである。
「三人で食事とかされないのですか?」
「うーむ、まぁしても良いがのう。この年になると、『おお、生きていたのか』てなもので、今更昔のことを語るために声をかけて集まるのも面倒でなぁ」
グレイが渋るのには少し理由がある。
三人で話をすると、どうしたってグレイが間に入って通訳をする必要が出てくるのだ。操る言語は当然一緒であるのだが、理屈っぽい奴と脊髄反射で行動している奴の会話は上手く通じない。
若い時も二人が一緒にいると、途中でバミの方がイライラし始めて大変だったのだ。
実は今となってはラウンドも、リゾルデの理屈っぽさに慣れているので多少ましになっているのだが、グレイのイメージは昔のままである。
「私の方からバミ大臣に話を振ってみます」
「別に余計なことせんでいい」
「いいえ、言っておきます。ラウンド様を招いたのも私ですから」
「じゃあ勝手にせい」
誘うのが面倒くさいだけで、別に嫌なわけではない、というのがツンデレ爺さんの面倒くさいところである。実際三人で集まれば、面倒だとか馬鹿だとか言いながらも、楽しい時間を過ごすのだろう。
それが想像つくからこそ、クルムは仕方なく自分が動いてやることにした。
世話になってばかりのクルムの、僅かばかりの恩返しのつもりである。
さて、二人がバミの仕事場付近へ来ると、何やら隣接している治癒室から声が聞こえてきた。
どうやら珍しく、スペルティアに来客がいるようであった。




