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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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粘り強い交渉

 ジグラはクルムの正面までやってくると、穏やかに微笑んで口を開く。


「少し、時間を貰えるかな」

「構いませんよ。中で話しますか?」

「うん、それがいいな」


 一見穏やかな兄と妹の会話のようにも聞こえるが、それにしてはあまりにも他人行儀でもあった。見る人が見れば、二人には普段から交流がないことはまるわかりだ。

 ジグラは一番上の兄であるヘグニ同様、クルムとは十三歳以上年が離れている。

 つまり、クルムが生まれた頃には既に王位継承争いを始めていたことになる。

 当然生まれてこの方、まともに喋ったことなど一度もなかった。


 部屋へ通す間も、互いに顔に笑顔を貼り付け、本音を見せる気などさらさらない。

 ウェスカが迎えに出てきていたが、ジグラの姿を見た瞬間に頭を下げて口も開かなかった。

 つい最近までのクルムとジグラの間には、ウェスカが僅かな無礼も許されぬと感じるほどの圧倒的な力の差があったのだ。


「ウェスカ、扉を開けてもらえる?」


 そんなウェスカにクルムが声をかける。

 ウェスカは一瞬躊躇したが、すぐに短く返事をして、クルムたちのために応接室の扉を開けた。

 もしクルムが未だにジグラを圧倒的な格上の存在と認めているのであれば、クルムは自身で扉を開けて部屋へ招き入れたはずだ。

 クルムはあえてそれをしなかった。

 もう誰が相手であっても、屈するつもりも、風下に立つつもりもない。


 ジグラも間違いなくその意図を察していただろうけれど、その行動に文句を言うことはなかった。

 わざわざ自分の足で赴いて話をしに来ているのだから、そんなクルムの内心も推察した上でやってきているはずだ。そうでなければ、クルムを呼び出せばいいだけの話なのだから。


 応接室に入ったのは、クルムとグレイ、それからジグラの三人だけ。

 グレイが当たり前のようにソファに腰を下ろすと、クルムも何も言わずその隣に座った。

 ジグラが対面に座ったところで、ウェスカは静かに扉を閉めて退室する。


「さて、話したいことは色々あるんだ。でもまず先に一つ。そちらの御老人の紹介をしてもらえないかな?」


 当然知っているであろうに、ジグラはわざわざグレイの身分を尋ねる。

 それは、王族同士の密談に当たり前のように参加して、しかも後ろに立っているのではなく、隣に腰かけているグレイに対する牽制でもあった。


「私の教育係を務めていただいています、グレイ先生です」


 クルムも名前を誤魔化すつもりはない。

 ただ、親切に情報を開示してやるつもりもなかった。

 聞かれたことしか答えるつもりはない。


「こんなことを言うとうるさく思うかもしれないけれど、王族同士の話し合いで、教育係が同席するのはおかしなことだと思うな。教育係がいないと何もできないと思われてしまうよ?」

「ご存じの通り、私はまだ王位継承争いに参加して半年と少し。先生と出会ってからもそれくらいの時間しか流れておりません。互いを理解するためにも、お兄様のことを理解していただくためにも、このたびは同席させていただきたく存じます」


 思うのならば勝手に思っていればいい。

 引き下がる気はない、というのがクルムの返答である。

 いちいち嫌味な物言いに引き下がってやるほど肝は小さくない。


「なるほど、僕は構わないけれどね。随分と頼りにしているようだ。いったいどこで知り合ったのかな」

「お兄様はグレイ先生のことをお話しするためにいらしたのですか?」

「……いや、そういうわけじゃないのだけれどね」


 再度余計な情報収集を試みるジグラに釘を刺すクルム。

 流石に不愉快だったのか、ジグラは一瞬表情を曇らせたが、すぐに立ち直って話を続けた。


「なぜ僕がここに来たのか、心当たりがあるんじゃないかな」

「いえ? ありませんね。察しが悪く申し訳ございませんが、ご教授いただけますか?」


 スコラの件か、隣国の冒険者の件か、はたまた貧民街開発の件か。

 思い当たる節は様々あるけれど、この話し合いにおいてクルムは、自分の思考の癖を読ませることすらもできる限り避けようと考えている。

 知っての通り、ジグラは積極的に兄弟を排除してきた王子の筆頭だ。

 場合によっては、クルムの兄たちが殺された件に、どこかで噛んでいた可能性だってある。

 どうしても倒さなければいけないヘグニと、そのスペアである第二子のセルルト。

 そして、このジグラに関しては、今のところ取り込むつもりも、仲良くするつもりもない。

 実のところクルムは、先日仲良くなったルミネに関しても、ジグラと同じくらいに警戒をしていた。ただ、あちらは事情がはっきりと分かった上で、その内容が特殊だったこともあったからこそ、手を取り合うことができた形である。


「随分と突っぱねるね。一応僕は仲良くなろうと思って、わざわざ足を運んだつもりなんだけどな。その気持ちくらい汲んでくれてもいいんじゃないかな?」


 ジグラもまためげない。

 粘り強い交渉は、一筋縄ではいかない性格を示しているようであった。


 グレイは背もたれに寄りかかって、鬚をしごきながら思う。

 もしこいつが最初に出ていけという話さえしなければ、とっとと出ていってやったのに、と。

 今から出ていくと、言うことを聞いたようで癪である。

 それと同時に、退屈を紛らわすためにジグラのことをじろじろと観察しながら思う。

 こ奴、多少は体を鍛えているようだな、と。

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― 新着の感想 ―
この後継者争いっていつどうやって終わるんだろう?一人が後継者として残るまで? クルムが生まれる前から始まってるようだし、王は後継者争いが始まってからも子作りに励んでいるってことは、クルムの下の世代もい…
やはりボス格キャラとなると多少は骨太展開になってくる感じがあるなぁ。
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