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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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嫌な来客

 ケルンはため息をつきながら自室へ戻る。

 護衛たちは皆表情を引き締めてついてきている。

 いつもは不意に表情を窺うと退屈そうに見える護衛たちが、今日は随分と疲れているはずなのに、妙に晴れやかな雰囲気を纏っている。

 この兵士たちにもまた、今日一日で何か心境の変化があったのは明らかだった。


 食事をしている間、クルムやハップスと政治的な話をすることもなければ、険悪な雰囲気になることもなかった。

 だからと言って仲良く話したわけではなく、ケルンはラウンドに肉を食え、もっと食えと言われながら張り付かれており、それどころではなかっただけだ。

 こんなにも腹がみちみちになるまで肉ばかりを食べたのは、生まれて初めてのことである。

 温かい食事を美味いと思って食べるのも、極めて珍しいことだった。


 元々ケルンがクルムに会うたびに文句を言っていたのは、クルムが何もせずにへらへらと過ごしているように見えたからだ。

 王族としての責務を果たさず、ただ毎日を生きているだけ。

 自分は毎日感情を押し殺し、訓練をし、必要なことを学び、貴族とのつまらないやり取りを当たり前のようにこなす。

 そんなことを何もしていないクルムをストレスのはけ口にしていただけだ。

 見た目が良いから、どうせ兄弟の誰かが王になったあかつきには、政略結婚の駒として利用されるだけだろうという、見下した考え方もあった。


 それでも、もし媚びてくるようなのであれば、自分が王になったら城の端で好きに遊ばせてやっておいてもいいとも思っていたりもした。

 これは誰にも言っていない話だが、ケルンは子供の頃、クルムの母に見惚れてしまったことがあるのだ。その雰囲気、奔放さや優しさ厳しさ、全てに心を奪われた。

 彼女が亡くなるまで、ほんの数回しか交流はなかったけれど、ケルンにとってそれは初恋の思い出でもある。

 もちろん父王の妻であるから、だから何だという話でもあるのだ。


 しかしそれだから余計に、顔立ちがよく似ている癖に、曖昧に笑ってばかりで、似ても似つかぬ性格をしているクルムのことが気に食わなかったのかもしれない。


 誰にも漏らすこともできぬ記憶のことを考えて、ケルンは馬鹿らしいと首を振った。

 今日は疲れすぎているのだ。

 だから余計なことを考える。

 ラウンドは食事をする中でこんなことも言っていた。


『ごちゃごちゃ余計なことを考えてる暇があったら、体を鍛えろ』


 ケルンは左右と後方を固める様に一緒に歩いている護衛たちに声をかける。


「おい、明日からもこい。今日のように体を鍛える時間を作る。共にやる者がいれば連れてきても良い」

「……承知いたしました」


 ケルンは思う。

 もしこうして共に訓練をしていけたら、そのうちの幾人かは自分の側近にしてもいいかもしれないと。

 貴族たちがそんなことを許すかどうかはさておき、ケルンが、自分がこれからどう生きたいのかを考え始めた瞬間であった。


 そんなケルンが自室へ戻ると、客人が来ていることが告げられた。

 正直なところ、関わりたくない相手であった。

 貴族たちからも悪い噂を吹き込まれているし、実際胡散臭い雰囲気が苦手でこれまでずっと避けてきた。

 しかし面会にまで来られて会わないというわけにはいかない。

 これまでほぼ会話をしたことすらないのに、どういう風の吹き回しかと思いつつ、ケルンは仕方なく、重たく感じるドアノブを捻って部屋へ入った。


「お待たせして申し訳ありません、ジグラ兄上」

「いや、それほど待っていないよ。精々、三時間くらいかな」


 本当に気にしていないような表情をしている癖に、わざわざ待った時間を伝えてくるあたりに性格の悪さを感じる。

 王位継承争い参加者の中で、他の候補者を排除しており、かつ、今も生き残っているのは三人。

 それがヘグニ、ジグラ、そしてハップスである。

 そのうちヘグニは向かってくる者を返り討ちにしているだけだと聞かされており、ハップスは明確に一部の者だけを狙っていた。

 つまり、一番冷静に、そして積極的に自分の障害になる者を排除しているのは、ジグラということになる。

 近付かないよう注意されてきたし、ケルン本人とて近付きたくはなかった。


 ただ、自身が王になるのならばいつかは向き合わなければならない相手であったことは確かだ。

 これまでは、堂々としていればいい。

 いつか計画を立てて貴族たちの方で何とかする、という言葉に甘えて目も合わせてこなかったが、そんなことでいいはずもなかった。

 今日ガツンとやられて頭の中のもやが晴れたケルンは、久々にジグラの顔を見て、もう一度謝罪をする。


「申し訳ございません」


 そうして対面のソファに腰を下ろして、ケルンはジグラと向き合った。


「いつも夕暮れ時には戻ると聞いていたのだけれどね。今日は何を?」


 あまり話したくない嫌なことを聞いてくる。

 ケルンに興味があるのではなく、ケルンとその周りの動向に興味があるのは分かり切っていた。しかし、随分と派手に動き回っていたから、調べれば何をしていたかくらいすぐにばれてしまう。


「近頃クルムが調子に乗っているようなので忠告をしに」


 ジグラは穏やかににっこりと笑った、ように見えた。

 しかしケルンにはそれが、『お前ごときが、私たちと向き合ったクルムに?』という、自分を馬鹿にした笑いにしか思えなかった。


「ケルンはこれまでもクルムと接触していたようですからね」


 その言葉でケルンは確信する。

 こいつは、今敵対し始めたばかりのクルムに対する情報が不足していて、それを自分から聞き出すためにわざわざやってきたのだろう、と。

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― 新着の感想 ―
見方によると少し死亡フラグが立ってる気もして…少し怖い
どっちに付くのかっていう試金石か。うまく躱す…のは難しいからはっきりと叩きつけてやれ。
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