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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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会議の日

 グレイは日の当たる庭で大欠伸をする。

 クルムが月に一度の話し合いをしている間、外で待機をしているのだ。

 はじめのうちは昔のことがばれては大変だからと、王宮で人が集まるような場所に行こうとは思わなかったが、少し前からクルムに『ここまで暴れておいて今更でしょう……』と言われている。

 周囲には同じく護衛で待機している者たちがいるが、その多くがグレイのことを直接でなくとも知っている。

 最近クルムの近くにいるでかい爺が、かなりやばい奴らしい、と。

 クルムの言う通り、あちこちで暴れていればこうなるに決まっている。


 グレイが退屈している間、部屋の中ではクルムたち王子、王女たち、王位継承争いに参加している者たちが、それぞれに与えられた役割の報告をしていた。自分たち個人のものだけではなく、それぞれが国のためにやるべき仕事をこなしているのだ。

 これは誰に何が与えられるというものではなく、持ち回りで別の仕事が回ってきており、提出後に出来を確認されることになっている。これも、王位継承を為してから滞りなく政務を執り行うことができるようにするためだ。


 実際のところは全員が全員自分で仕事をこなしているわけではなく、近しい者に仕事を預けているわけであるが、それもまた、その人物の力である。

 必ずしも自分で全てをこなす必要はないのだが、クルムに関してはその重要部分のほぼ全てを自らこなしている。ウェスカは近くでそれを見てきたことがあるので、ある程度代行することは可能だが、その場合はクルムが細かく指示を出した上でのことだ。

 いつもクルムが忙しくしているのにはそんな理由があった。

 能力が高いとも取れるが、それだけ頼るべき相手が少なかったと受け取ることができる。


 会議の席で最も奥の椅子に腰かけるのは、ハルシ王国の現国王、ルアーノ=ハルシである。

 年功序列で席についており、クルムの座る席は最も入り口に近い位置になる。

 ハルシ王国の歴史において、この位置に座っている王子王女が国王の地位に就いたことは未だかつてない。


 国王であるルアーノは、肘置きに腕を置いたまま表情を変えずに静かに話を聞いていた。クルムはこれまで、この男が感情を表に出したのを見たことはほとんどないし、親子らしい言葉を交わしたことすらない。

 確かに血のつながった父であるはずなのだが、関係性は酷く希薄で、家族と思ったことは一度もなかった。

 自分は数十人いるうちの一人。

 そのうち幾人もが命を落としても、いつもと変わらぬ涼しい表情をしていたこの男が、自分を娘と認識しているか、顔を覚えているかすらも怪しいと思っていた。


 ルアーノに最も近い席に座るのは、ヘグニ。

 細身で冷淡に見えるルアーノとは対照的に、ごつごつとした体つきと意志の強そうな眉をしている。よく似ているのはその琥珀色の瞳が収まった鋭い目つきくらいだ。

 むしろルアーノによく似ているのは、第二子であるセルルトであるが、こちらはヘグニに追従しており自分の意見を述べることなどまずない。

 王位継承争いに参加してはいるが、ヘグニに何かあった時のためのスペアでしかないと噂されている。


 そしてその次がジグラ。

 細身で柔和な表情をした優男であり、こちらもあまり目立った行動をすることはない。だが、両親を同じくする実の兄を追い落として殺したとも噂されており、油断できない人物であることは確かだ。

 

 そんな具合にずらりと王子王女が並ぶ中、ルアーノが口を開く。


「滞りないようだ。では、先月に話した通り貧民街についての意見を募ろう。意見のある者は挙手して発言せよ」


 ここまでは進行役が話を進めてきたが、ここからは国王や王子王女同士で直接やり取りをすることになる。ケルンなどは王位継承争いに名を連ねているくせに、すっかり俯いて黙り込んでしまっている。

 最初に手を挙げたのはヘグニであった。

 これはいつものことで、そして、大抵の場合はヘグニの発言のみで会議が終わることが多い。

 時折これに反対の意見を述べるのは、ジグラとハップスくらいなものであった。


「貧民街の人口は増え続けている。陛下の偉業以降、多少大人しくなっているようだが、奴らはいわば王都の血を吸う寄生虫のようなものだ。税を払わず、物をくすね、品位を下げる。軍を差し向け、王都に寄生することの意味を分からせるべきであろうと考える」


 ヘグニがじろりと王子王女たちに順番に視線を向けていく。

 流石に王位継承争いに参加しているだけあって、目をそらさぬ者も多いが、反対意見を述べるために手を上げる者もいなかった。

 クルムに味方をする王子王女たちにも、そうするように事前に頼んでいる。

 何せクルムは、今日をもってヘグニに対して宣戦布告するつもりであるのだから、他の者に先にされては印象が薄れてしまう。


 ヘグニの視線が自分まで回ってきたとき、クルムは頬を僅かに緩ませて、緊張を完全に隠し通し、ゆったりと手を挙げた。


「陛下の偉業により、貧民街の住人が大人しくなっていることには同意いたします」


 ヘグニと国王であるルアーノが、同じように、よく似た目を僅かに細める。


「しかし、軍を差し向けることに関しては異議がございます」


 クルムによる宣戦布告の始まりであった。

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いよいよ敵として認識かな
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