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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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印象操作

 大聖堂へ向かうと、騎士たちが慌ただしく出入りしているのが見えてきた。

 ジグを先頭に中へ入っていくと、不思議そうに挨拶をされることはあっても、止められることはなかった。

 中庭ではホワイトが地面から湧いてきた死体をきれいに並べ直しており、ジグを見つけるとそれを他の騎士に任せて近寄ってくる。


「……ルミネ王女が起きたのか。早かったな」

「はい。ルミネ様の記憶を頼りに、今晩のうちに協力者をできる限り捕縛した方がいいかと」


 ホワイトは難しい顔をしてジグをじっと見つめ、腕を組んでしばし考えていたが、じろりと遠慮なくルミネを睨んでからため息を吐いた。


「……【人形遣い】が戻るかもしれないことに備えて、私はここで残る。そちらはお前に任せる」

「承知しました」


 悩んだ結果、ホワイトはジグをぎりぎりまで副団長として働かせることを選んだようだ。

 ホワイトからすれば騎士団にはジグがいるのが当たり前で、信頼できる大事な相棒でもあったはずだ。できることならばこれまで通りに、一緒に働きたい。

 それを邪魔するのは、ただただ、ホワイトという人間の価値観の問題であった。


 短い時間で、『今はまだ罪が明るみになっていないため、ジグは罪人ではない』と自分に言い訳をしたのだろう。グレイとクルムの師弟は、そこにホワイトの心のほころびのようなものを見つけて、ちらりと互いに視線を交わすのであった。


 さて、捕縛に関してはさほど難しいことはない。

 ルミネが思い出せる限りの名前をリストアップすると、王都の事情に詳しいジグが、効率よく回れるように計画を立てる。

 物の数分でそれを済ませたジグは、縄を用意してグレイたちを引き連れ出発する。

 敵も強い手ごまが残っているわけではないだろうから、これはもはや消化試合である。


 グレイやホワイトとは違って、教会施設に通うことも多かったルミネやジグであれば、敵がどこに隠れているのかは一目瞭然だ。余計な敵を避けて本丸を襲撃し、襲ってくる薬物兵を斬り捨てて、すぐに次の襲撃へ向かうことができる。

 あまりにも効率の良い殲滅作業であった。

 これがジグの本領だとするならば、やはりホワイトにとってジグという右腕は必要なのだろう。


 都合十五件ほど回った頃には、空が白み始めていた。

 そろそろ街の働き者たちも起きて動き出す時間である。


「ジグ殿」


 大聖堂へ戻る前に、クルムが小声でジグに話しかける。

 近くでルミネも耳を傾けているのも分かっていながら、クルムは続ける。

 捕まえている者たちにさえ聞こえなければそれでいいのだ。


「人目につくときは胸を張って、堂々とお願いします。間違っても自分も罪人だ、というような顔はしないでください。あなたにはこれから、何も悪さをしていなかったようにふるまってもらわねばならないのです。特に、この件で犠牲になったバッハ侯爵家をはじめとした貴族家の方々に、ジグ殿が敵側にいたことを伝えるわけにはいきません」

「……そうですね」

「あとで、その辺りの詳細も聞かせてください。誤魔化すための話を考えます」


 根っこの部分が善人なのだろう。

 ジグ、そしてルミネまでもが申し訳なさそうに目を伏せる。


「……それをやめてくださいと言っているのです。あなた方がいたからこそ、人形遣いや教皇の野望をこの時点で止めることができた。そういった側面も確かにあるはずです。申し訳ないと思っても、起こってしまったことは変わりません。あなたが敵であったことを知られても、新たな恨みを掘り起こすだけです。互いの未来のためにも、胸を張り、顔を上げて歩くようにお願いします」


 このまま民衆の前に行って、その表情から妙な噂が流れるようになっても困る。

 それよりも、二人には堂々としてもらうことで、罪人を捕まえた高潔な人物であると印象付けたいのだ。

 クルムによる演技指導である。


 目立たぬように裏路地を通って帰ろうとしていたジグであったが、それもクルムに止められる。


「大通りから戻りましょう。いずれ知られることならば、ルミネお姉様とジグ殿が、民の味方であるという形で話を進めたいのです」

「……そうですね、わかりました」



 クルム陣営に入ると決めたのだから、その真剣な顔を見れば断るわけにはいかない。

 罪を償うことは諦めたのだ。

 ならば最も効率的に、罪をなかったことにできるように動くのが、ジグがやるべきことである。

 クルムの指示は厳しいようだが、そのためには実に有効なやり方であった。


 ジグが了承すればルミネは反対しない。

 流石に罪人を連れている中で微笑んでいるわけにはいかないので、真面目な顔をして、少しばかり目を伏せつつ、背筋はぴんと伸ばして大通りへ出ていく。


 縛られて大人しく歩いている者の中には、聖職者の衣をまとった者も混ざっている。街の人はざわつき、何があったのかと口々に噂し合った。

 しかし、その先頭に立っているのが治癒魔法で有名なルミネであり、騎士として清廉潔白であると有名なジグである。

 教会の一部が何かしら問題を起こしたから、ルミネやクルムが騎士団と協力して悪事を暴いたのだろう、と推測する者はいたが、その中核にルミネやジグが関わっていたと考えるものは誰一人としていなかった。


 そうして大通りを歩いて大聖堂へ戻ると、入り口には騎士たちが立っている。

 ジグが罪人たちを縛って連れてきたので、当然そこは素通りで、そのままホワイトたちがいる中庭まで移動することになる。


 そうして辿り着いた中庭は、死体安置所のようになっていた。

 穴だらけの地面に、筵をかけられた死体。

 捕縛されてきた者たちは、それを未来の自分の姿と重ねて悲鳴を上げたが、ホワイトがぎろりと睨みつけると、たちまち静かになるのだった。

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― 新着の感想 ―
罪を償いたいのに償う事が許されず、何も無かった事として振る舞わなければいけない。 ジグにとっては一番重い罰まであるなぁ。
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