街の噂
日は少し傾き、空を朱く染め、鳥が寝床に帰り出す頃。
それでも大通りから飛び交う声はまだ賑やかに街を活気づかせている。
ここは広大な世界に点在する街の中でも特に人が多く大規模な、センディールという名の街だ。
自然豊かなため資源も豊富にあり、近くにある少し小さめの町との交流もあるので、物資だけでなく人も情報もかなりの行き来がある所がこの街が繁栄している理由だろう。
そんな平和な街の住民達の密かな楽しみは一言で説明すると【情報を手に入れること】だ。
簡潔に言えば噂好きな住民が多いのである。
ただそこまで必死になるのではなく、ただ単に話のネタになるので逆に聞く方が好きな住民もいるようだ。
『隣町から珍しい果物が来たらしいよ』
『近くの森で魔物が目撃されたんだって』
『魔法の研究はまだ難航しているみたい』
そんな訳で大抵の事は伝聞で詳しく解るために、新聞などの伝達媒体をみるのはごく稀で、余程重大な事が起こらない限りは掲示板で事足りるというのもまたこの街の特色かもしれない。
翌日、いつものように一つの噂が流れた。
だがそれは平和に暮らす住民にとってはかなり珍しい事で、瞬く間にその話は広まっていった……
『どこからか来た少女が医療所に保護されたらしい』
噂は好きでも野次馬をしにいくような者はいなかったため詳細は不明だったが、
どうやら夜遅くに街の入り口にふらっと現れてそのまま倒れてしまったらしい。
最近は魔物の目撃情報も頻繁に話題に挙がっており、万が一の危険を考えて一般市民は極力街の外へ出て行くのを避けている事もあってか、少女、それにこの街や近くの町にも住んでいないのに独りで倒れるまで彷徨っていたとなると人々が興味を持つのは自然な事であった。
そして昼を少し過ぎた頃――
医療所では、未だ目を覚まさない少女がベッドの上で横になっていた。
医者が夜通しで魔法による治癒を試みた甲斐もあり、さして重傷ではなかった傷もすっかり消えているようだ。そのためかベッドの隣の椅子で医者がうたた寝をしている。
◇
この世界の魔法は所謂過去の遺産である。
太古の人類が文書として記していたものの、永い時を経るにつれその存在は風化していき、その殆どはいつしかおとぎ話の中にのみ存在する不思議な力として認識されていた。しかし再び文書が発見され、実在することが確認されてから幾つかの魔法が実用化されるに従って、魔法は身近な存在になりつつある……
◇
眠る彼女はまだ知る由もない。
自分に訪れる運命と、世界を変える物語に巻き込まれていく事を……
【加筆修正】
30,10/16 魔法に関しての説明を修正
31,2/8 文の間隔を修正
31,2/16 章設定に伴いサブタイの変更




