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第50話 いざ古代迷宮へ②

 

 かつ、かつ、と階段を下りてゆくたび、光も音も消えてゆく。

 見上げれば地表への大穴はだいぶ遠い。ざあ、と砂が落ちてゆくのが見えた。


 じめりとした湿気は、きっと近くにあるオアシスから水が伝わっているからだろう。空気はひんやりとしたものへ変わり、この上に砂漠が広がっているとは想像しづらい。


「まって、明かりをつけるわ」


 少女の声に足を止め、光の精霊を生み出す様子を見つめる。

 一言二言ほど彼女はつぶやき、そして宙にぽわんと3つの光源が生まれた。


「はぐれないよう皆の頭の上へ明かりを固定するわね。そのままじっとしていて」

「あ、そんな事も出来るんだ。やあ、使役レイバー技能スキルが早々に役立ってるね」

「ええ、ついでに技能スキルレベルを上げておこうと思って」


 にこりと少女は笑い、それから精霊へそれぞれ杖を押し当てた。精霊魔術師という珍しい職業ジョブをした彼女は、こうして魔術を一つずつ精霊へ封じることができる。

 紋章に似たものが精霊へと刻まれたのは、いつでも魔術を放てるという意味がある。


「わ、魔法威力が上がってる。すごいわウリドラ、あなたの杖を使ったら今までと威力がまるで違うの」

「ふ、ふ、わしの補助があるのじゃから当然である。もう一つ補助技能枠セカンドスキルに空きはあるが、何を入れるかまだ決めておらぬようじゃな」

「ええ、困ったときにしようと思って。あのときアレを入れておけば、なんて悩むのは嫌でしょ?」


 それは確かにと僕らもうなずいた。

 いつでも設定できるなら、困ったときに決めたほうが良いだろう。


 さて、大穴を中心にぐるぐると通路は下へ伸びている。穴からは時折ゴオゴオと気流は鳴るものの、辺りを眺めながらひたすら降りてゆく。

 既に攻略チームの気配はまるでなく、おそらくずっと先を進んでいるのだろう。


「てっきり慌しいかと思っていたけど、いざ入ってみたらのんびりしているね。魔物も倒されているだろうし、しばらくは何もなさそうだ」

「人の気配が無くて、まるで私たちだけしか居ないみたい。これはこれで雰囲気を楽しめて良いわねぇ」


 マリーの言葉にこくりと僕らは頷いた。

 アレコレと周りから言われたくないし、どうせなら自分たちのやりたいように進めさせて欲しいからね。


 さて、そのまましばらく進むと光源は光の精霊だけになる。田舎にある自動販売機のように周囲だけがぼんやりと照らされ、そして記号じみた古代文字が壁に描かれ始めた。


「あ、まだ私にも読めるわ。ええと、古代の神話ね。ぐるりと歩いて進むと順に神話が分かるようになっているみたい」

「古代文字かあ。僕もだいぶ勉強したから懐かしいなあ」


 えっ、と意外そうな顔を二人から向けられる。


「あれ、僕の技能スキルはマリーも閲覧できてるよね?」

「というよりも、どうして魔法使いでもないあなたが古代文字を覚えているの? 何の利点も無いでしょう」

「古代語なんてロマンがあるし、もっと迷宮を楽しめると思ったからさ。たまには役立つんだよ、看板とかあるときに」


 感心するような不思議なものを見るような目を向けられてしまった。

 まあね、確かに僕は物好きだと思うよ。どうも戦闘ばかりだともったいないと感じ、釣りや語学などで遊んでしまう。


 さて、古代の神話を要約すると以下の内容になる。



 明けの明星から放たれた矢は魔を砕いた。

 恒星にまで届くその一撃は、世界にあるべき力ではない。

 一瞬で思考さえ失った魔なる者も、やがては世界へ還るだろう。

 明けの明星こそが彼を生んだのだから。



 マリーと一緒に読み上げながら下り回廊を進んでいると、最後には目覚めようとする魔の姿があった。


「うん、怖いけど綺麗な色を使っているね」

「ほんとうに吸い込まれそうな紺色……なぜか安心するわ」


 ぺたりと壁へ触れると、少女も同じように手を重ねる。互いに顔を合わせると、僕らはもう一度だけ壁画を見上げた。




 通路を進んでいた足は止まる。

 そこには見上げるほど大きな扉があり、回廊の終着地を示していた。

 金属製の扉には水滴が浮いており、幾何学的な模様を刻んでいる。

 振り返ると、わくわくとした表情の二人がいた。


「やあ、間違いなく古代の迷宮だ。これから攻略できると思うと堪らないね」

「んーっ、こんなのは初めてだわ! 見てちょうだい、このあたりの生物はみんな図鑑に載ってないの。ああ、もうこれだけでお金になるわ」

「うむ、空気が古代のものじゃ。ああ、懐かしい懐かしい、久方ぶりに前世代の空気を吸うたのう」


 ぐっふっふ、と皆で含み笑いをし、それから鉄扉をゆっくりと開く。

 ガゴンと音を響かせ、そこには見通せないほど真っ直ぐの通路が待っている。いかにもな迷宮としての雰囲気は、思わず皆でパチパチと拍手をしてしまうほどだ。


「おおー、ちゃんとしてる。僕もよく迷宮に行くけれど、これほどしっかりした造りは初めて見るよ。はあ、埃も無いなんて」

「うふふ、どれもこれも古代のものだなんて調べがいがあるわね。では、歩きながらでいいから今のうちに方針を決めておきましょ」


 横へ4人は並べるほど広い通路なのでゆったりと歩けそうだ。彼女からの提案に、僕とウリドラは「方針?」と振り返る。


「ええ、最速クリアを目指すか、レベルアップを優先するか、じっくり調べて楽しんで行くかよ」

「ふうむ、普通なら最初のやつを選ぶべきじゃが、わしは急ぐのは嫌じゃなあ」

「レベルアップはここで無くても出来るし、のんびりと見て回りながら行こうか」


 賛成、と二人は片手を突き上げた。

 まあ、これくらいちゃんとした迷宮なら急いで通り抜けるのはもったいないしね。140名の精鋭相手にしのぎを削るのも面倒だし、そもそも僕には日本での大事なお仕事もある。睡眠時間をしっかり確保しなければならないのだ。


「僕の倍近いレベルの人もいるようだし、最速の座はゆずろうかなあ」

「あら、ゆずるだなんて。まるで急げば勝てるような口ぶりね」


 るんるんと足取りも軽く、すぐ隣からマリーは覗き込んでくる。

 うーん、本気で目指すなら出来ないことは無い。

 僕には高速移動スキルがあるし、マリーには地上最強の護衛がいる。だーっと駆け抜ければ誰よりも早くゴールへたどり着ける……かもしれない。


「却下よ! そんなの情緒がまったく無いじゃない。マラソンをしに来たわけじゃないもの」

「うん、もちろんさ。せっかく魔具を貰ったんだし地図を見ながら進もう。どうせなら先行隊がたどり着いていない所を見てみたいなあ」

「ならばこちらの東方面かのう。この光源が他チームを表すならば、他に比べて人が少ない方が良いじゃろ」


 いいなあ、この自動的に記録オートマッピングしてくれる道具。ここの攻略が終わったらぜひ持ち帰りたい。


 そのとき、シャアア!と声を上げて魔物が3体ほど駆け出してきた。

 こいつはオアシスでも見たことのある懐かしのクッパーだ。頭でっかちの二足歩行をする魔物で、大きくて丸々としたトカゲに近しい姿をしている。


 とはいえこの辺りの魔物はまだレベル40と低いらしい。こいつの弱点を記録した【愚直ホーネスト】もあるので、ばすんと急所ごと輪切りにした。


「……情緒が無いわ。戦闘音楽が一瞬で終わってしまったじゃないの」

「先にはもっと手ごわい奴がいるだろうし、今はまだ気にしなくて良いんじゃないかな」


 塵へと変わりゆく光景を眺めることなく、長い通路を歩きながらそう答える。

 と、僕の言葉を聞いたウリドラは、顎に手を当てて何やら考えごとをしているようだ。

 ぽんと手を叩き、こちらへキラリとした瞳を向けてくる……が、嫌な予感しかしない。


「ふ、ふ、ならば忙しくなるまでの間はわしが鍛えてやろう。ぬしの武器レベルの低さが気になって仕方ないからのう」

「ええー……嬉しいような面倒のような……。まだ入ったばかりなんだし、しばらくゆっくりと楽しまない?」


 返事はガシャンと響く装甲の音だった。

 それの一本を手に取るとまるで刀のような形状へと変わる。にこりと微笑むウリドラを、どうやら僕には止めることは出来なそうだ。


 だけど剣の師匠というのは僕にとってかなり貴重な存在でもある。

 片手剣レベル52となった今、それを遥かに上回る相手はほとんどいない。いや、それほどとなると誰もが実戦へ出ているので相手にしてもらえないのだ。


 ふむ、と諦めつつ僕も口元をほころばせ、しゃらりと剣を抜く。

 互いに一礼をすると、刀と剣を合わせた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――ザーッ……。


 こちらエメラルド。感度も視界も良好だ。中央口へ先行しているダイヤモンドをこのまま追従する。


 こちらサファイア。消息を絶った先行隊へのルートを進行中。こちらも感度良好。どうぞ。


 ――ザザッ、ザーッ……。


 こちらトパーズ、サファイアへ追従中。数匹のクッパーを撃退。しかしあの子達は何かの冗談か? うすっぺらい装備しか持っていなかったし、たったの3人だぞ。


 こちらブラッドストーン。おいおい、第一発見者なら仕方ないさ。それにこの通信ラインだって渡されてないんだ。温かい目で見てやろうぜぇ。


 こちらダイヤモンド。いや、あの女はまずいだろ、色っぽすぎて「温かい目」どころか「熱い目」でボスが見つめていたぞ。うちのイブも嫉妬して……いてて、悪い悪い、言わない約束だったなぁ。おっと、レベル50に上昇した。いま上位クッパーを確認したところだ。


 こちらルビー。レベル50をこちらも確認。まだ一階層も下がっていないのに早いな……最終的にレベル100を越えるんじゃ? もしそうならかなりのデカブツになるぞ、この迷宮は。


 こちらアンダルサイト、中ボスの間らしき隠れた広間を発見。これより戦闘へ移行します。各自、私語はなるべくつつしむように。ハカム様もアジャ様も聞いていることを忘れないで。


(激しい戦闘音)


 あっ! 先制され……退路が……! ……ィダー!

 増強展開ブーストして! あッ、まだ来るッ、奥から多数接近ッ!

 増援ッ、増援要請、こちらは篭城へ移行!

 増援要請、増援要請……!




 ふうむ、と老人であるアジャは白い顎髭をかいた。

 伝わってくる信号は騒々しいものの、顔色をまったく変えない様子からも想定していた状況らしい。


「やはり中央は抵抗が薄いのう。まだ始まったばかりじゃが、本命は西か東か……」

「東はかなり通路が狭い。報告にあった推定レベル200もの怪物が通れるとは思えんぞ。手ごたえとしては西だろうが……どうも俺の勘にはピンと来ないな」


 薄暗いテントのなか、老人は地下迷宮を映し出している。

 先ほどの要請により2チームが合流しつつあるので、恐らく大した被害には繋がらないだろう。

 しかしこれでまだ半日も経っていない。おまけに最奥部は何階層あるかも予想はしづらい。……しづらいが、この司令の勘は恐ろしく鋭い。


 幾つもの戦場を駆け抜け、その肌で死線をかいくぐってきた者だ。部下は多数失いはしたものの、結果として国を勝利へ導いている。だからこそ、この未踏の迷宮へと送られているのだ。

 老人が目を向けると、司令のハカムは指を開いて見せた。


「まあ、長くても4から5階層……といった所だろう。そうでなければおかしい。そこから先は人の領域では無くなる」

「迷宮が広がれば在り方も変わるからのう。おっと、小僧どもも騒がしいが……うん? なにをしておるのじゃ、こやつらは」

「戦っている……わけでは無いな。遊んでるのか?」


 見れば通路の真ん中で、少年とウリドラなる女性は輝きを増している。しかし敵の存在は見当たらない。

 ひょっとして剣を合わせているのだろうか。まるで武者修行のように。


「……どうにも孫のように気になる奴らじゃのう。それでいて、わしらに無い決め手を持っておる気にさせられる」

「ああ、同感だ。何かが足りないような気がしていたが、彼らが来たおかげでピタリとハマった気がする。パズルのようにな」


 ちらりと互いに目線を合わせあう。

 彼らへ「役割」を与えるべきか否か……そのように考えたのだ。


 司令のハカムは首を横へ振ったのを見て、老人もまた頷いた。縛りのない遊撃こそ彼らの能力を引き出せると思ったらしい。


「まったく、子供に頼るとは英雄ハカムも老いたのう」

「……猫の手だって借りているんだぞ。子供のほうがまだマシだ」


 くつくつと互いに笑い、そして先程までのように瞳からは感情を失わせた。

 互いに失った部下をもう数え切れない生き方をしている。


 長い長い迷宮攻略はまだ始まったばかりだ。


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