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第44話 エルフさんとのお食事会②

 

 どうやら河川沿いの歩道を歩くことは、僕とエルフにとって習慣になりつつあるらしい。左右への三つ編みをした少女は地面へかがみこみ、子猫をうにゃうにゃと弄んでいる様子を眺めている。


 柵にもたれかかり、見上げれば空はまだ朝としての雰囲気を残していた。


「まあまあ、この子ったら。おなかを真ん丸にさせて。美味しいご飯がたくさん入っているのかしら」


 ぐふふ、ぐふふ、と言い出しそうなほど猫はだらしなくのたうち回り、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。やがて満足したらしく身体を起こすと「みゅう」とお礼のように鳴いてくる。


 マリーもバイバイと手を振り、休日を過ごすべくそれぞれ歩き始めた。

 猫は元のお散歩コースへ。そして少女はこちらへ近づき「可愛かったわねぇ」とわしわし腕を掻いてくる。手を差し出せばやんわりと握られ、鼻歌混じりのエルフと歩き始めた。


「やあ、ずいぶん仲良くなったね。それに髪型も似合ってるよ」

「んふっ、ありがとう。髪型なんて気にしなかったけれど、この国の人たちはみんな違うでしょう。試しに私もやってみたの」


 そう言い、左右の三つ編みを揺らして見せる。

 エルフの特徴である長い耳は、いまは魔導竜のくれた耳隠しのおかげで人目につくことはない。おかげで気兼ねなく少女も髪型を楽しめるらしい。


 ワイヤーのようなもので耳を覆い、そして「成れ」と命じれば同色の白い髪にすっぽりと包まれる。

 後ろ髪はそのままなので、周りの人からはまるで見えないだろう。


「ウリドラには感謝しないといけないわね。でも意外だったわ。てっきりまた日本に来たがると思っていたのに」

「うん、今夜はキャンプの様子を観察しておくんだって。集まっている人を見ておきたいって言ったかな」


 ふうん、と呟きながら少女は小首をかしげる。

 もう一つ、たぶんだけどウリドラは遠慮している気もする。


 そう口には出していないけど、眠りにつく時に見た横顔はどこか印象的だった。まるで僕らが仲良く過ごせるよう気を使っていると思えたのだ。

 そう考えると案外優しい女性なのかもしれない。


「意外といえば、マリーがセカンドスキルに使役LV2を選択したのも驚かされたよ」


 そう言うと、少女はぱちぱちと瞬きを返す。

 あの日、魔導竜と猫族の生み出した杖は、彼女へセカンドスキルを授けた。技能スキル枠は2つ追加され、マリーは迷うことなく「使役」を選んだのだ。


「当然よ。私は精霊魔術師であって、前にあなたと一緒に戦ったとき、精霊を活用することが大事だと痛感したもの」

「前に……ああ、賊と戦ったときか。そういえば精霊を操って魔法を撃っていたね」


 そう言うと、少女からこくりと頷かれる。

 あのとき少女は複数の精霊を操り、推定レベル200を超える魔物相手に翻弄していた。


「あなたとの連携を考えないといけないでしょう。そのためには、もっと精霊を使役できることが有効だと思うの」

「ふうン……うまく想像できないけど、マリーと連携できるのは楽しそうだね。ほら、他の人と違ってマリーは打てる手が多いじゃない」


 えへん、と少女は薄い胸を反らした。

 実際、彼女の打てる手は他の人の倍はあるだろう。魔術師として攻撃魔法を、そして精霊使いとして状況に応じた立ち回りができる。事前に準備さえしておけば、恐らく二人分以上の実力を発揮できるだろう。


「そう考えると僕が時間稼ぎをして、マリーが準備を整えるのは良いかもね」

「あら、私もそう考えていたのよ。あなたは無傷で立ち回るのが上手なようだし、きっとピッタリ息が合うと思うの」


 うん、それは楽しみだ。

 僕は立ち回りを工夫するのが好きで、放っておけば延々と考えてしまう性分だ。効率的に技能スキルを組んでゆくと、すぐにその結果が戦闘結果に現れて面白いからね。

 どうやら少女も同じ趣味をしていたらしく、宝石のように綺麗な目を爛々とさせている。


「あ、なんだかすごく楽しみになってきた。ねえ、ワクワクしない?」

「もちろんするわ! それにあなたとウリドラがいるならリスクがまったく無いでしょう。これはつまり、いくらでもトライアンドエラーができて、私たちのやりたい放題ということなの」


 顔を見合わせ、ぐふふと二人して嫌な笑いを浮かべてしまった。


「いやいや、案外とエルフさんも腹黒いようで」

「むふんっ、あなたほどでは無いわ。人畜無害そうな顔をしているぶんタチが悪いもの」


 などと言いながら、お尻をぽすんと互いにぶつけ合う。そのようなやり取りをしているとき、近所にあるスーパーの自動ドアは開いた。


 さて、まだ午前中だというのにスーパーへ来たのには訳がある。

 本日はお休みであり、昨日の疲れもあるのでのんびり過ごしたい。そのような要望を受け、試しに「一緒に料理をしてみる?」と尋ねてみたところ、きらきらした瞳を返されたのだ。


 以前から良くレシピを聞かれていたし、きっと料理したいだろうなあと思っていたけれど予想以上の反応だった。

 そういうわけで、まずは簡単に作れるものからチャレンジしよう、という事になったわけだ。


 カートをしっかりと少女は握り、人参やじゃが芋などをカゴに入れてゆく。

 やはりまだ人は少ないものの、幻想的な雰囲気をまとう少女には多くの目が向けられている。だがそれは、どこか微笑ましいものを見る目だ。


「それで、カレーと言ったかしら。あなたが前に作ってくれたものと何が違うの?」

「うん、あの時のは本場のカレーで、こちらは和製カレーといったところかな。安く手軽に美味しく作れるよう改良しているんだ」


 ふうん、と少女は小首を傾げる。

 まあ日本というのは改良が大好きだからねぇ。

 食材は本場のものよりずっと美味しくし、逆輸入まで果たす場合もある。恐ろしく糖度の高いフルーツとかね。


「代表格はやっぱり牛肉かなぁ。和牛といってね、海外の人気が高まりすぎて種牛を持ち出してしまう外人もいるくらいなんだ」

「ええっ、それはひどいわ。あなた達の国で改良をして、日本に勝てば良いだけじゃないの」


 まあ、そうも言ってられないほど味の差がついてしまったんだろうね。

 お金の力で種牛を手に入れるのは仕方ないけど、和牛という名で売るのは僕にはよく分からないところがあるなぁ。


 などと話しながら食肉コーナーへ辿り着く。

 そして噂の和牛なるものの値段を見て、ビシリとマリーは凍りついた。


「うわっ……! たっかい……!」

「あれ、いつの間にか金銭価値もだいたい分かってるのかい。そうなんだ、和牛は特別なお肉でね、普段の食事にはなかなか取り入れられないんだ」


 そのうち特別な日にごちそうするよ、などと伝えたのだがプルプルと三つ編みを左右に揺すってこちらを見上げてくる。


「い、いいわ……味わえる気がまるでしないもの。それで、カレー用のお肉はどれが良いのかしら?」

「うん、どうせ煮込むから安いので良いよ。今日はこっちの挽肉にしようか」


 そう言って指差すと、少女はほっと胸を撫で下ろした。

 考えてみれば彼女も僕と同じくらいの金銭感覚をしているのだし、きっと庶民なんだろうねぇ。


 あとはカレー用のルウを手に取り、ついでにお弁当などの食材を適当に選ぶだけだ。

 清算レジに並ぶと、店員さんの表情は面白いほど変わる。前のお客さんには普通の顔をしていたのに、お人形のように可愛らしいマリーを見るなりとろんとした笑顔へと変えたのだ。


「まあ、いらっしゃいませ」


 くるりと少女が振り向いたのは「前にあめ玉をくれた人よ」という意味だろうね。

 バーコードを通し、次の商品に手をつける度に店員さんとマリーは目を合わせ、くすくすと笑い出しそうな表情だ。


 清算が終わると二人してバイバイと手を振り合っているのも微笑ましいね。まったく、歩いているだけで僕の頬を緩めようとするなんて。


 さて、それではエルフさんとお料理をしましょうか。

 手を繋ぎ、自動ドアをくぐると春らしい陽気に包まれた。


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