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第11話 レベリング開始

 ウジャーピーク遺跡は、山の中央をくりぬいた大穴の底にある。

 憩いの場ともいえるオアシスがあり、ここを中心に文化は発展していったようだ。しかし今は無人の廃墟であり、彼らの文化は長い年月のなかで砂へと変わりつつある。


 さて、その大穴にある高台へとマリーを招くと、ちょうどオアシスを見下ろすことができる。こうして見ると球場のように広く、周囲には遺跡跡を幾つも見ることができる。

 いずれも木々に飲み込まれてゆくようで、建物はほとんどが崩れ落ち、そして苔むしていた。


「はあ、周囲の壁にまで建物が広がっているなんて……。ねえ、どうやってあそこまで登っていたの? どこにも階段が見当たらないわ」

「当時は梯子があったんじゃないかって言われてる。ほら、木材の方がはやく劣化するから」


 汗をぬぐいつつ、エルフは「なるほど」とうなずいてきた。

 ここまでの道はかろうじて階段が残されていたが、だいぶもろくなっているので気をつけて登らないといけない。とはいえ高さは二階分ちょっとくらいだし下は砂地なので落ちても大きな問題は無いだろう。


「それで、オアシスの水辺に近づいてはいけないのはどうしてなのかしら? とても綺麗だったのに」

「うん、あそこに魔物が出るんだよ。レベリングに来たってこと、マリーはまだ覚えてる?」


 数秒経ってから、マリーはこくんとうなずいて来た。……うん、忘れていたね。

 いま言ったように水辺には魔物が沸くため、不用意に近づけば大変なことになる。とはいえ、ここへ訪れる者にとっては知っていて当然のことだ。経験値稼ぎにはぴったりの状況だからね。


「じゃあ、ここの高台にいて。合図をしたら魔法を放つんだよ」

「待って……肝心の所だけど、パーティーを組んでいないのに攻撃しても私の経験にはならないのは知っているわよね?」

「うん、他者の横取りは出来ないからね。だから合図をしたらなんだ。理由はすぐに分かるから」


 う、うん、とマリーは不思議そうに小首を傾げてくる。

 周囲には南国風の木も生えており、水辺から多少離れても木陰のおかげで過ごしやすそうだ。暑さに弱いエルフへと僕は笑いかけた。


「じゃあ行ってくるねー」

「き、気をつけるのよカズヒホ」


 少しだけ不安そうな顔をされたが、ここの魔物はレベル40前後ということで僕のレベル72からかけ離れている。問題ないよと手を振って、ぴょんと高台から飛び降りた。


 ざざあっと岩場を滑り降り、それからオアシスに向けて不用意に近づく。

 ここに潜んでいる魔物は、旅人を餌とするため潜んでいる……というのが一般的に言われていることだ。しかし僕の気のせいかもしれないけれど、その奥に何かを隠しているのではと思う時がある。

 もしも人が近づけば、餌を求めるというより防衛のために……。


 ざぼああっ!


 まあ、こういう風に悪名高いクッパーが現れる。

 水しぶきと共に身をさらけ出した相手は、恐竜じみた二足歩行をする奴だった。クッパーなどと名前は可愛らしいが、頭部は10センチにも達する分厚い骨に覆われており、クチバシは二股に分かれているというおぞましさだ。

 残念なことに彼には知性がほとんどないため、魔物との会話を楽しむことは出来ない。


 ――レベル42か。まあまあかなぁ。


 ぐこここ、と威嚇の声を上げ、それから体長2メートル、体重300キロ超の割には俊敏に駆け寄ってくる。おまけに硬く、そして顎の力がとても強いので頻繁に事故が発生してしまう敵だ。


 まあ、僕にとってはこの速度がとても助かる。高台で待つマリーの元へすぐにたどり着けるからね。あとは死なない程度に傷つけるとして……ええと、試し切りをしてみようか。


 砂を蹴り一気に側面へ回ると、そいつはぎょっと身をすくめた。一瞬でこちらが格上だと分かりつつも、食いつくために頭を僕へと向けて来る。

 クチバシの中には細かい牙がびっしりと生えており、もしも噛まれたら大変なことになるだろう。


「よいしょっ!」


 そうして腰だめの一刀を叩き込むと、ぐばんっと小気味よく切り裂くことが出来た。

 レベル差と相まってその一撃が致命傷となり、ふらふらと数歩ほど歩いて息絶える。あとにはどろりとした血肉が広がり、もう少し待てば魔物らしく蒸発して消えてしまうだろう。


「うーん……もうちょっと斜めかなぁ。心臓が見えるくらいにして……」


 ひゅんひゅんと剣の振りをイメージし、微調整を繰り返す。毎回のように絶妙な切りつけをするのは面倒なので、僕のファーストスキル【愚直ホーネスト】を起動することにした。20個ほどスロットがあり、いまは3つほど空きがある。これが何かと言うと……。


 ざぼああっ!


 すぐ隣から砂柱を立て、先ほどよりもやや大きめな固体が姿を現す。そうだった、じっとしているとこのように地中から襲われるという野外フィールド特性があるのだった。

 油断していると地の底まで飲み込まれてしまうのだが……。


「ああ、ちょうど良かった。えーと、こんな感じかなあ。せいっ!」


 硬い骨を避けて筋肉を切断してみると、今度はなかなか良い感じに仕上げることが出来た。ばくりと肉は裂け、そして体内の弱点が丸見えという……うん、あんまり気持ちの良い光景じゃないね。


愚直ホーネスト】というのは特定の行動を繰り返すことのできる技能スキルだ。今のような攻撃パターンを記憶し、確実に精度の高い攻撃が出来る。


「まあ、初心者向けの技能スキルだけど、これがあると楽なんだよなぁ……」


 ボケっとしながらレベル上げが出来るからね。他にも……おっと、可哀想だからトドメを刺さないと。

 どすんと心臓を破壊すると、あっけなくクッパーは息絶えた。


「それじゃあ、【愚直ホーネスト】で記憶をしたから……うふふ、レベルアップ祭りの始まりだね」


 にっこりという笑みに誘われてか、ざぼっざぼっとクッパー達が姿を現す。ただそれは、ちょっとしたベルトコンベアーに運ばれる食材のようなものであり、あまり派手な戦闘を楽しめるものでは無いとは思う。



 高台の下へとおびきよせ、それから先ほどと同じように魔物を切り裂く。

 あまり戦闘に慣れていないらしくマリーは少しだけ怯え、そろそろとこちらを覗き込んできた。


「マリー、ここ狙ってー」

「ええっ、パーティーを組んでいないから、これじゃあ経験値が入らないわよ」

「大丈夫だからとりあえず撃ってみてー」

「よく分からないけど……もうっ、【火閃スピアー】!」


 高台の彼女が命じると、ようやく火とかげサラマンダーは口を開き、瀕死のクッパーへと線状の炎が疾る。

 その瞬間に別のファーストスキル、【道を越えて(オーバーロード】を僕は発動した。


 これは短距離移動をする技能スキルであり、一瞬で目的の場所へとたどり着ける物だ。加速度を感じることは無く、風を感じたりもしない事からワープに近しいと分かる。風景が一気に変わるから慣れるまでにちょっと気持ち悪くなる技だ。


「あ、やっぱり大丈夫そうだ。良かった」


 50メートル以上離れた途端に、クッパーの体表が少しだけ白く光った。これは距離が大きく開き、また僕を完全に見失ったことで戦闘状態が途絶えたということだ。

 以前にも逃げる際に使用した事があり、今回のレベルアップに活用してみたのだが問題は無さそうで良かった。

 この技能スキルの難点は制約がいくつかあること……例えば重量制限などが厳しい所かなぁ。


 きゅぼおっ!


 マリーの魔法が心臓へと突き刺さり、身体の内側は炎一色へと変わる。ぎゃああとクッパーの悲鳴が轟いて、これで経験値は丸々すべてマリーの物となった。

 そういうわけで戦線から離脱リーブした僕は、ぼごごーっと魔物の破裂する音を聞きながら、次の獲物を悠々と探せるわけだ。


 最初は緊張していたマリーも、しばらくするとベルトコンベアーの立派な一員になってくれ、割とダレた顔をするようになった。

 ひょい、ひょい、と指で精霊へと命じ、いつものようにいつものタイミングで心臓むき出しの魔物に止めを刺す。

 おかげで頻繁に彼女のレベルアップ音楽を楽しむことが出来た。


 1分弱で一匹を倒し、12分で1レベルアップ。

 その21分後にもう1レベル。36分後にもう1レベル。48分後、72分後……と続いたところで魔力切れとなり、遅まきながらお昼になった。


「やあ、ちょうど予定通り5レベルアップだね」


 そう明るく声をかけたのだが、苦いものを食べたように、なんとも複雑そうな顔をしたエルフが待っていた。あれぇ?


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