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オーラル・ヒストリー  作者: ケントス
0章:魔王降臨
3/3

始まり―オーラルヒストリー3

士気が急上昇したところで再び進軍を試みる。

「敵は我が主の館にやるぞ。皆の衆グロースター卿に続けぃ。」

 シェパードは寡兵で大軍へと突っ込んでいった。だが大軍に劣らぬ気概を見せ、早くも圧倒していた。

「御老体に負けられねぇ。」

 バサカも奮闘を見せていた。

「僕は見ているだけなのか。」

 ルグナスは悔しそうな顔を浮かべていた。しかし、今は指揮だけでも取らねばと考え、前を見据える。

「前進だ。しかし、数人後方に兵を残せ。」

 ルグナスの指示によりシェパードは百人程度を後方へ回す。

「よし、そのままだ。いや後方から接近している、殲滅してくれ。」

 先ほど配置した兵士が僧兵たちを薙ぎ払う。流石に敵は後方に配置しているとは思わずやられてしまった。

「やりますなぁ~御子息。わしも負けてられんわ。」

 シェパードは更に勢いを増し、剣を振るう。進行速度はみるみる早くなった。

 しかし、バサカは異変を感じていた。

―敵の将が一人もいねぇ。

 確かにこの数を仕留めておいて「敵将討取った」という声が一つもないのであった。だが、前に進む以外に道はなかった。

「もう少しですぞ、御子息。」

 館の屋根はすでに見えていた。更に幸運なことに接近するほどに敵の数は少数になってきている。ルグナスは当然希望を持った。

―家族はきっと生きている。

 確信も敵が減るたびに堅固なものとなっていった。

しかし、戦闘で戦っているバサカの違和感は加速した。

―まるで、ルグナスの家に向かわされているみたいだ。

そんな気がしてならなかった。しかも、時間稼ぎの為にルートを先延ばしにしていることも気が付き始めた。

「あまり、いい状況とは思えなくなってきましたな」

 ルグナスの希望とは裏腹にシェパードはバサカの近くでつぶやいた。

「やっぱりそう思うか。」

バサカは柳眉を釣り上げる。

「恐らく、」とだけ口にして続きは言わなかった。

「あいつが希望的観測を持ってなければいいが」

 親友の事を気にかけて槍を振るう。しかし、それとは逆の事をルグナスは考えていたのだった。

「しかし、寸暇を惜しまず進まねばならぬ。」

 髭面の老兵は慈悲が全くない一刀を僧兵の首に食らわせながらいった。

「わかってるつーの。」

 一方バサカはペースを乱すことなく次々と首をとり、赤き激流を浴びる。

「わかっておるならはよいわ!!」

 といってバサカの近くを離れ前進した。


 ついに家が見えてきた。しかし、それは希望していた世界と違うものが映っていた。

「母さん、グラニア!!」

 ルグナスの親愛なる母、妹は縄で縛られ、首元に薙刀の刃があった。ただ、気絶していた。

「ふははは、いい眺めだろう。」

 その真ん中には荘厳な鎧を身につけている僧兵が立っていた。その僧兵は笑っている、狂気に。

「貴様!!どうするつもりだ。」

 ルグナスは憤慨していた。体中が小刻みに震えており、目は真っ赤であった。

「どうしたんだ?子犬みたいな顔してよ。今からこのレンジュ様が紅い花火を見せてやるってのに、不満なのか。」

 レンジュはそういってケタケタと笑う。

「てめぇ、それをした暁には首無僧になると思えよ。」

 鋭い眼光をレンジュに向ける。それに対してレンジュはお道化た顔をして「怖い怖い」というばかりであった。

「交渉はできぬのか?」

 苦し紛れにシェパードは尋ねるが、大きく口を開けて笑い始めるだけであった。

「私を愚弄するのか?若造よ?」

 シェパードの怒気の含んだ声も全く響くことは無かった。

「交渉だ?愚弄だ?てめぇらそれ言える立場かよ。交渉なんかいらねぇーよ、俺が欲しいのは」

 レンジュは手を挙げる。

「やめてくれ!」

 ルグナスの悲痛な声が響く。しかし、その声も虚しく手は下げられる。

「てめぇらの新鮮な後悔なんだよ。」

 目の前にいたルグナスの親族は何も言わず「物」になった。最後の会話もままならず。

「どうだ、悔しいだろ。恐ろしいだろ。つらいだろ。泣けよ、自暴自棄になれよ、自分を痛めつけろよ。」

レンジュは依然として笑っている。大きな口を開けて下品に笑っている。

「貴様ぁ!!」

 バサカの目は怒り狂うに伴い充血していた。あたりをビリビリとしたオーラを味方は感じた。

「ああ、もう一つ報告があるぜ、ルグナス君。」

 そんなこともレンジュは意に返さず、饒舌に話す。

「君は今日から当主だ。おめでとう。」

 そこにいるすべてのものはその事すぐに察した。一人シェパードは冷静さを失い。前に出た。

「ご主人様を、我が親友レグナスをよくも!」

「ああ、こんなこといってたぜ。『お前達、後で後悔するなよ。我が息子が貴様らの首すべて刈り取りにくるぞ。我々は第六天の血を引く者なり。』って遺言残していったぜ。何が、息子が首を取りに来るだ、そんな腑抜けにやる首はない。」

 シェパードとバサカは堪忍袋の緒が切れて飛び出そうとしたその時だった。

「フフフフフフフフ。」

 不敵な笑い声が聞こえた。ルグナスから発せられたものであった。

「アハハハハ、傑作だ。頭がおかしくなりやがった。」

 レンジュは指を指し笑う。しかし、ルグナスの笑いは更にエスカレートする。

「フハハハハハハハ。」

 流石にレンジュも奇妙なものを感じつつあった。

「なんで笑ってやがる。家族が死んだんだぞ?」

 今まで、笑うものも当然いたが目は死にそのまま自害を選択するものばかりだった。しかし、今回は違う。何やら殺気のようなもの、いや狂気だろうか。よくないものをレンジュは感じ取っていた。

「御子息?」

 シェパードの怒気は一気に冷却され、ルグナスの変化に憂いた目で見つめる。兵士たちも同じ反応であった。口々に「潰れてしまった」と言う声も聞こえた。

 バサカだけは違った。冷静な目で見ており、少し口角が上がっているようにも見えた。しかし、その目は新たな誕生を見届けるような眼であった。

「ぬるい。」

「えっなに…」

ルグナスが一言発すると同時にその場から消え失せ、レンジュの首を刈り取っていた。

部下はその状況を理解できなかった様子だった。ルグナスはその反応も無視して僧兵の首を刈り取り始めた。

 手に持っている武器は先ほどルグナスが使用していた剣ではなく。デイライズ産出のカタナという武器に似ていた。しかし、普通ではなく刀身には黒く波打つ光が蠢いていた。それを滅多矢鱈に振り回す。踊っているようにも見えなくはなかった。

「御子息様?」

 未だにシェパードは現状が理解できない。彼だけでなく兵士の大半が佇んでいる状況だった。

 先ほどまでの家族を救おうという愛他的・利他的なルグナスの姿はなく。まるで、虐殺の化身であるかのようであった。 

 あたり一帯は血で染まっていた。その中心にルグナスが立っていた。

 その姿を見て神国の僧兵は口ぐちに漏らした

「魔王が出た」と

 腰を抜かし、這いずりまわるものいれば、一生懸命逃げるものもいた。等しく共通していたことは、最後には絶命の道を辿ることのみであった。

 彼らには一縷の望みもなく、ルグナスには寸分の慈悲すらなかった。

ルグナスのカタナは刃毀れする様子もなく、むしろ血を吸い栄養としているようだった。斬るたびに黒光りしていた。

「根切だ。」

 ルグナスの顔は言葉に反して冷静な顔であった。喜怒哀楽浮かべることなく、淡々と切り刻んでいく。

 すでにバサカとシェパード達の周囲には敵一人いなかった。まるで、掃除の後の部屋のようだった。ただ、赤いじゅうたんが敷かれており、置物からは肉の乾いた臭いと鉄の臭いがした。それが鼻腔を狂わせていた。

「バサカ殿あれは。」

シェパードの頭は混乱しており、誰かに聞かなければ納得できなかった。

「彼の潜在的なものではないでしょうか?」

 先ほどの戦時の乱暴な口調ではなかった。

「潜在的なもの?バサカ殿は御子息にあのような面があると?」

 シェパードは憤慨していた。御子息が強靭な力を手に入れたことについては、経緯はどうあれ嬉しかったが、あれは異常だ。以前まで動物を斬るのも嫌な顔をしていた。一年超でやっと慣れたのだが、人を斬るのは初めてである。それを冷静に何も感じることなく人を切り刻んでいたのだ。そういった面があることは容認しがたかった。

「ええ、ご尤もな感想です。しかし、そういう面もあったと考えてみてはどうでしょう?人は少なからず残虐性というのは持ち合わせているものです。」

バサカは泰然と自分の意見を述べる。

 シェパードはそれを聴いても遣り切れなかった。そして、しばらく口を開けることはなかった。

一方ルグナスは敵と交戦中であった。レンジュの支援をするために後方に控えていたサンチュウと相対をしていた。

「貴様、どうやってあの大軍を越えることができたのだ。」

 サンチュウの目は珍しい生き物を発見したかのような顔だった。

 質問の問いも質問の追加もなかった。サンチュウはこの場から消失したためである。

 さらに後方にいる兵士たちは動揺していた。

 「レンジュ様だけでなく、サンチュウ様も」

 「化け物だ。」

 「魔王の噂は本当だったんだ。」

阿鼻叫喚、この場はすでに残虐な地獄絵図であった。必死にホケロスを唱えるものもおれば、母や娘の名を何度も叫んでいる奴もいた。

 ルグナスは何も言わず彼らの首を刈り取った。次に逃げまとうものに標的を当てた。しかし、

「限界か。」

 足を見ると青くにじんでいた。それもそうだ、実際の能力以上の力を酷使したのだ。この結果が伴うのは当然であった。

 ルグナスの進撃は停止した。


 神国の陣営は騒がしかった。

 それも当然である、自軍側の将が瞬く間に二人も討死となったからである。しかも、一人に悉く打ち負かされていたのだ。これは神国の尊厳にかかる問題であるのはいうまでもないだろう。

「貴様ら!何をしている。」

 プローブは重臣に対して叱咤する。頭を剃髪しているせいか、顔と一緒に赤くなっており、茹蛸のようだった。

「申し訳ありません。そのですね。」

 一番最初にまで謝罪をしているのはライリュウであった。しかし、次の言葉を発するかどうかを渋る。その姿に更に苛立ちを覚えたのか、プローブは傍にあった軍配を投げつけた。

「はっきりとしろ!!今すぐ打ち首にするぞ。」

 プローブは立ち上がり剣を抜く。

「申し訳ありません。魔王が現れたのです。」

 周囲の空気は非常に重苦しかった。しかし、プローブだけが瞬時に理解することができずに

「なんといった?」と聞き返した。

 少しばかり、逡巡した後「魔王です。」と短く言った。

「馬鹿を申せ!!我がインノケンティウス・ヒノ家の予言が当たったことがあるか?いや、ないわしも例外ではない。」

 神国の宗主は代々継承された予知能力というものを保有していた。だが、これは初代以来一度も当たったことが無いのである。例外をいうと、「矢が飛んでくる」と言う予言を見た当主がいた時は、矢にてその当主は絶命したというぐらいのものである。プローブの疑問も当然であった。

「確かに開祖様は予言を当てなされた。そして、以来開祖に近きものといわれる、プローブ様であれば不自然なことではありません。」

「ならば、あの予言通りに魔王が降臨したというのか!!馬鹿な話があるか。」

 プローブは憤怒のあまり椅子を蹴り飛ばす。それを一人の重臣こっそり取りに行き、プローブの近くへ戻した。

「留守職様よ~、現状を考えてみてくださいよ。」

 そこで陣中に入ってきたのは赤髪のものファースト=ソンダイクであった。プローブは肩で息をしながらファーストの方を振り向いた。

「貴様もそのような戯言で、俺を愚弄するか!!」

「しかし、被害数を計算して参りましたが、立った一人に将二人に兵が五百人弱の損害です。どう説明付けます?そのようなオカルトを信じなさった方が理解の度合いは向上します。」

 ファーストの言葉を聞いて、冷静さを失っているプローブも落ち着いた、というよりも絶望したかのように椅子に座った。

「つまり、わしに尻尾を巻いて逃げろと申すか?」

 言葉の調子はすでに落ち着いたいつもの様子であった。

「はい、それがよいかと思われます。」

「ふざけるな!!」

納得しかけていたプローブに変わり、ライリュウが怒鳴った。

「ふざけるな?とは」

ファーストはとぼけて見せた。

「デイライズにこの情報をいくら購入したと思っている。今しかないのだよ!!エグジストを征服するチャンスは!!」

「範疇外のことはいつもあるものと考えて行動するべきです。そもそも、今の宗主の目をご覧になられたか?」

「何?」

 ライリュウはファーストの言われるままにプローブの顔を覗き込んだ。

「プローブ様?」

 ライリュウは言葉がでなかった。少し目を離して、一人憤慨している間に幼子の様にガタガタ震えており、目も虚ろであった。

「ライリュウ様、我々は退却すべきではないでしょうか?」

 ライリュウと同じゲマ家のもの、タンゴが進言する。

「そうじゃ、ライリュウ。私も先代に申し訳が付かない。」

 プローブのもっとも信頼を置いている老僧―ジツジュも進言する。

ライリュウは逃げ道をなくしてしまい、ため息をつく。

「わかりました、ジツジュ殿。」

 納得の姿勢を見せた。心中ではファーストに丸め込まれたと悔恨していた。

「プローブ様、それでよろしいですか?」

 ジツジュが同意を取る。しかし、プローブは頷くだけで声は出さなかった。

「今すぐ、退却の対策本部を開く!!」

 ジツジュは宣言した。しかし、これは過ちへの道筋への第一歩であった。



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