#69 「控えて欲しいラブコール」
(2026/03/09)
祖母から電話がかかってきた。
いつもなら流せる話も、今はつらい。
できることなら、やめてほしい。
そんな気持ちから、早々に会話を切って静かなワンルームに戻る。
溺愛し、溺愛されていた祖父と別れてから数年。
祖母は今、伯父と暮らしている。
でも伯父は寝る時になると自分の住処へ帰る。
実質、一人暮らしだ。
そんな祖母は、電話がだーいすき。
私が小学生の頃から、固定電話でのラブコールは毎日一時間以上続いていた。
今も人を変え、電話相手を変え、
空き時間という空き時間に電話をかけている。
数分前に残した留守電に気づいて折り返したら、
もう別の人と話していることもザラだ。
パケ・ホーダイ万歳。ありがたし。
そんな祖母の、私へのラブコールは主に二つ。
「愛媛に帰省しておいで」
「愛媛に帰っておいで」
同じように聞こえるかもしれないけど、意味は違う。
前者は一時的な帰省。
後者は、大阪から愛媛へ拠点を移せという話だ。
私も、できることなら愛媛に帰りたい。
でも帰ると、誰かとの共同生活になる。
母か、祖母か。
それが今の私には、とてもしんどい。
一人でいられる時間と空間がないと、
文字通り発狂する。
実際、祖父の葬式の時、
二週間祖母の家に住んでいた。
私は発狂しかけた。
限界は二週間。
身をもって体感している。
前日まで普通だった孫娘が、
突然わーぎゃー叫んで泣きわめき始める。
そんな姿を、祖母に見せたくない。
見せてしまったら、今よりもっと心配させてしまう。
だから愛媛には帰れない。
それに家賃の問題は大変ではあるけれど、
体調のいい時に稼ぎ先があるというのも大きい。
帰りたくても帰れない理由が、そこにある。
でも、この理由を話しても、
祖母には理解できない。
理解できる価値観がないのだ。
だから、ぼかして伝える。
ぼかして伝えるから、ラブコールは延々と続く。
……直接伝えたこともある。
でも忘れられている。
今回みたいに、しんどい時でも、
祖母は変わらず電話をかけてくる。
それを聞くたび、罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。
祖母だって、老い先は長くない。
あと何回会えるか分からない人だ。
断る自分が大嫌いになる。
泣きたくなるのを堪えて、
「じゃあ」と電話を切る。
うまく終われたかは分からない。
そんな余裕は、今の私にはないから。
祖母は、話せるターゲットを見つけると、
ずっとその人に電話をかける。
一週間くらい電話が来ないこともある。
でもターゲットがいない時は、
一日に四回以上電話がかかってくる。
今は、どうやらその時期らしい。
はっきり言って、最悪のパターン。
これ以上かけてくれるな、と願ってしまう自分を呪いたい。
せめて。
せめて、この落ちている時だけは避けておくれ。




