#44 扉の向こうで鳴くまで
(2026/02/24)
無事に愛媛から大阪へ戻ってきた。
道中ずっと、自宅に残してきた小さな鳥のことばかり考えていた。
扉を開けて、何も声が聞こえなかったらどうしよう。
小さな命が、ひとり孤独に炎を絶やしていたらどうしよう。
そんな最悪を、つい想像してしまう。
直したい癖だ。
けれど最悪を思い描くことで、「そんなわけないだろ」と自分を安心させているのも事実だ。
困ったものだが、これも私なりの生存戦略なのだろう。
梅田に予定より四十分早く着いた。
祈りが通じたのかもしれない。
いや、運転手さんのおかげだ。
お土産と、実家の本棚から持ち帰った本を詰め込んだキャリーケースを引きずり、駅の階段をズイズイと上る。
今ならぶつかりおじさんが現れても吹き飛ばせる。
覇王色が出ていたと思う。
最寄り駅に着き、まっすぐ帰宅。
鳥よ。
鳥よ。
鳴いてくれ。
鍵を開ける。
キャリーケースの音で何も聞こえない。
もしも、がよぎる。
体温がすっと下がる。
部屋に入り、灯りをつけた。
――ゴソゴソ。
音がした。
マイスウィートバード。
帰ってきたよ。
帰省前と何ひとつ変わらぬ様子で、ケロッとしている。
ケージを開けると、不思議そうに私を覗き込み、羽をバタバタさせて
「ギャギャギャ」
と、可愛げのない声で鳴いた。
元気だ。
良かった。
いつも通りの、可愛くない声だ。
肩に乗り、手に乗り、顔を近づけると鼻の油を舐めようとする。
指を差し出せば、頭を取れそうなほど上下に振る。
爪と肉の間に嘴を差し込み、剥がそうとする。
変わらない。
「帰るまでが遠足」とはよく言ったものだ。
今になってやっと分かる。
帰省は楽しかった。
もっといたかった。
けれど、この小さな鳥との暮らしを再開できる喜びに、私は震えている。
いつか、母や祖母にも会わせてあげたい。




