カルーラは、かずさ
「旦那様方、私どもの前で取り繕いは無用でございます。
どうか、先程までの口調でお話ください。
このシルバー、腐っても家令という仕事に誇りを持っております。
他言等はいたしません」
そう言うと彼は、右の掌を心臓の上に当て頭を垂れた。
それをあっけに取られた家族が見つめると、メイドのアーミンも目を輝かせて、唐突に言い募る。
「私だって、メイドの仕事に誇りを持っております。
絶対にこんな優しい方達を裏切りませんし、お守りしますから!」
フンスッと息荒め。 大丈夫?
どうやら、お茶の支度でこちらに来ていた際に、声が大きすぎて全部聞こえてしまったらしい。
私達、気が緩み過ぎだった。
異世界だってこと、完全に忘れてたよ。
って、彼らのこの態度は、良い方に取って良いのかな?
「こんなことを言うのは、おこがましいですが」と、一言前置きをつけてシルバーが言う。
「旦那様の先程の計画、私も賛成にございます。
ですが旦那様の商売を掠め取ろうとする、商売敵も多数おります。
人を信じるのは美徳ですが、少し警戒した方がよろしいかと愚行致します」
その言葉にお父さんは「その通りだね。忠告ありがとう、シルバー」と真摯に頷いた。
「同意いただけて嬉しいです。
では、音声の遮断魔法を掛けておきましょう。
さすればこの家の中の会話は、一言たりと漏れませんので、
『ヌセマシラモハトオニトソ、はっ!』」
言葉と共に部屋の周囲が、一瞬光に溢れた。
彼は “これで大丈夫です” と、微笑んでお茶を入れて去って行った。
「何今の? パアッて光ったわ!」
ここに来て初めての、いや人生初の魔法である。
「すごいね、シルバー。しれっと遮断魔法だって!」
「防音効果が魔法の一言か。マジ半端ねえ!」
「きっと優秀な家令なのね。ちょっと、格好良いわぁ!」
「ちょっと、お母さん。俺よりシルバーが良いのかよ!」
「あらあら。いつだって、お父さんが一番ですよ」
「…………分かってるけどさぁ。はぁ」
デレデレなお父さんと、小悪魔なお母さん。
何を見せられているんだ! と、思う呆れ顔の私と弟。
まあ、いつものラブラブな光景である。
今の姿は激変してるけどね。
だって死ぬ前の私達は、千葉の賃貸マンションに住む一般市民だったから。
カルーラこと、私『二宮 かずさ』は、漫画家アシスタント。
作品応募はしているが、奨励賞止まり。
いつも女の子の心の機微が描けていない、絵のレベルは高いので残念ですと、コメントを貰っていた。
どうしてもパースに拘るあまり、一級建築士の試験も持ってる。
もう転職した方が良いと、何度言われたことか。
とほほ。
だって、漫画が好きなんだもん。
カルーラ父、ヴォクシアこと、お父さんの『二宮 秋男』。
大手の建築会社で建築士をしていたが、不況の煽りでリストラ。
その後、持ち前の話術を活かして家電会社に就職し、売り上げをメキメキ伸ばしたことで、優秀社員に選ばれ宣伝部長に昇格した。
嬉しいけど、本当はちょっと達成感が乏しい。
やっぱり自分の描いた図案やアイディアで、勝負したい派。
カルーラ母、ルラミーこと、お母さんの『二宮 華』。
結婚前は、サイ◯リアでアルバイトしていた。
人手不足で配膳、皿洗い、調理、盛り付け等を少人数で回すうち、バイトリーダーにもなっていた。
仕事は好きだが忙しいし(休みくれないの。17連勤って何、正気?)、セクハラ店長もいて結婚後辞めた。
残ってくれと懇願されたが、自分の方が大事。
その後サイ◯リアは、閉店して違う店になってた。
お母さんは学生時代からお父さんと付き合っていて、転勤が多いお父さんに付いていていく為に、就職しなかったみたい。
カルーラ弟、レノアこと、弟の『二宮 水樹』。
大学の法律学科で学んでいた。
フィギアサークルでアニメの魔改造にのめり込み、顧客を得てフィギア製作の売買に精を出していた。
時々私に下絵を起こさせて、顧客と相談する等、勉強いつしてるの? と思うが、成績はいつも上位に入っていた。
そして私は下絵代を貰っていた。
学生の弟の方が、お金を持っていた矛盾(泣)。
それが、
カルーラ(かずさ):茶色のオカッパ頭。
瞳も茶色の可愛い系。
凹凸のないスレンダーボディー。
背丈は160cmないくらい。
聖女の力を持っているらしい。
カルーラは15才で、学校に行っていたらしい。
大人しい性格で、いつも微笑んでいたらしい。
ヴォクシア(秋男):恰幅の良い普通のおじさん風。
髪は薄い金髪、瞳は薄黄で、優しそうな感じ。
背丈は180cmくらい。
ここでは、いろいろな品を売買する商人らしい。
35才。
ルラミー(華):黄緑の髪と緑の瞳。
すごい美人。
ボッキュボンのナイスバディー。
ちょっと猫目で気が強そう。
背丈は170cm近い。
ここでは、父と一緒に仕事をしていたらしい。
32才。
すんごくお母さん喜んでた。
若返って美女なんだもん。
前のお母さんも美人風だったけどね。
でも小皺を気にし出してた年頃だったから。
レノア(水樹):緑髪と金の瞳。
背丈は150cmくらい。
13才。
かっこ可愛い、アニメに出てきそうなイケメンだ。
家では、家庭教師の指導を受けていた(学園は15才からなので)。
こちらの彼は、ちょっと人見知りだったらしい。
アーミン情報では、これくらいが限界。
ちなみにアーミンは、14才。
両親が隠居夫人リンダ様の使用人で、自分もメイドの手伝いをしていたそう。
今回はリンダ様直々の依頼で、こちらのメイドになったらしい。
茶髪に灰色の瞳の可愛い少女である。
ツインテールにメイド姿は、眼福の一言。
素直でわりと声が大きい。
シルバーはここでは家令だが、リンダ夫人の元では直属の執事の1人。
シルバーも隠居夫人の依頼で来たらしい。
(転生前の)ヴォクシアさんには挨拶して依頼書も渡していたそうだけど、急に仕事が多忙となって混乱していたヴォクシアさんに、すっかり忘れられていたらしい。
すごく存在感あるのにね、彼。
でも傍でシルバーが手伝うのは、受け入れてくれてたそう。
ヴォクシアさんは、いろいろ大雑把な人みたいね。
シルバーはロマンスグレーで、モノクルの似合う銀髪を後ろになでつけている、黒タキシードのイケメン。
背丈は180cmを越えているようだ。
42才で初老と(彼が自分で)言うけど、全然若いよ。
この世界、平均寿命短いのかな?
全然私のストライクゾーンだけど。
あ、今の私15才か。そうか……残念。
どうやらドンマイン家族も、魔法を使えたらしい。
魔法を使うと多少疲労するようで、部屋の遮断魔法はずっとヴォクシアさんが掛けてくれていたそう。
なるほど、商談の話が漏れては不味いもんね。
今の所後遺症のせいとして、魔法関係のことは怪しまれてはいないが、いろいろ情報収集が必要のようだ。
アーミンに、もっと聞かなきゃ。
そして魔法の使い方を聞いて練習しなきゃ、いろいろ不味いことになりそう。
◇◇◇
「俺は、俺はカルーラと結婚するんだ!
きっと母上がいろいろ言ったから、あんなにあっさり去っていたはずだ。
俺は、ぜったいに諦めないぞ!
……カルーラだって、今頃泣いているはずだ」
そう言って、部屋でのたまわるサム。
伯爵令息のサムのことは、解決済みと思っているかずさ(カルーラ)だが、なんだかまだきな臭いようだ。