公爵家の騎士は令嬢の専属侍女に恋をする
またしても、主人公のエピソードではないのですが、楽しんでいただけたらうれしいです。
「ア、アメリアさん、明日、一緒に街に行ってくれませんか?」
コニー・グリーン。男爵家の三男坊でスピネル公爵家の騎士の彼が、公爵家の令嬢、エリザベートの専属侍女であるアメリアを決死の覚悟で誘う。
「えっと、明日休みですよね? 実は妹の誕生日に何を買ったらいいかわからなくて……」
「でもわたしは平民ですし、貴族の方の欲しい物がわかるとは……」
「貴族と言ってもうちは騎士あがりの男爵家で裕福でもありませんし、妹が欲しがるのは流行の物で、高級品というわけではないので……お願いしますっ!」
「そういうことであれば……はい」
「ありがとうございます!」
こうしてコニーは、なんとかアメリアをデート(?)に誘うことに成功したのだった。
「おはようございます、グリーンさん」
にっこりと挨拶をするアメリア。
襟と袖口の白いレースが可愛らしい水色のワンピースに白い帽子、白い小さなバッグ。いつも二つに分けてきっちり三つ編みにされている髪を、今日はおろしている。
「えっと……グリーンさん?」
「あっ! す、すみませんっ、おはようございます、今日はありがとうございます!」
見とれて何も反応できずにいたコニーは慌てて頭を下げた。
「えっと……その……とてもよくお似合いです」
「ありがとうございます。エリザベート様に買っていただいたんです。なかなか着る機会がないので、今日は嬉しくて」
そう言って少し恥ずかしそうに笑うアメリアが可愛らしくて、ドギマギしながらコニーは並んで歩いた。
「せっかくの休みに、買い物に付き合ってもらってすみません。食事して、その後買い物をと思っていますが、大丈夫でしょうか」
「はい。なかなか街に行く機会がないので楽しみです」
「良かった!」
そうしてふたりは、庶民的だがおいしいと評判の店で食事をし、あまり高くない宝飾店へ行って妹へのプレゼントとして髪留めを買った。
「おかげで素敵な物が買えました。お礼に、アメリアさんにもプレゼントしたいのですが」
「いいえ、お食事をごちそうしていただきましたから、それで十分です」
そう遠慮されたが、コニーは妹に買った物と同じ意匠で、違う石を使った髪留めを買い、帰る前に休憩を、と入ったティールームでアメリアに渡した。
「これ、やっぱりもらって欲しくて……」
「まあそんな! 本当に、そんなに気を遣わないで下さい」
「いや、気を遣ってるというわけではなく……すみません! 正直に言うと、妹のプレゼントは、結構どうでもよくて」
「えっ?」
「実は単純に、アメリアさんと出かけたくて……その、俺、アメリアさんの事が好きなんです! 交際してもらえないでしょうか」
「ええええっ? あっ!」
驚き声を上げてしまったアメリアは、慌てて口を押さえて辺りを見回し、他の客達に頭を下げた。
「グ、グリーンさん、それって……本気、ですか?」
「もちろん本気です!」
「どうしてわたしか、うかがっても?」
「それは……ええと、その……まずは、厳しくて、貴族令嬢でさえ次々と辞めていくエリザベート様の専属侍女として、平民の女性が頑張っている、ということに驚き、感心し、見るようになったのがきっかけでした。そしたらとても可愛らしくて……。ルークに対する接し方が、しっかり者の姉、という感じで素敵で、訓練場に来て皆にお茶やお菓子を配ってくれている姿とか見ているうちに好きに……なりました」
「あ、ありがとうございます……ですが……わたしはこれからも、エリザベート様にお仕えしたいと思っておりまして……」
「それは、アメリアさんのお好きなようにしていただければ!」
「わたしは平民の家の出です。グリーンさんは男爵家の方ですし……」
「男爵家といっても大した家門ではありませんし、俺は三男で家から出ています。引き継げるものは何もないかわりに、将来のことでどうこう言われることもないです」
「あー……ええと……エリザベート様に、相談しても……?」
「もちろんです! お願いします!」
『頼みます! エリザベート様! どうか!』と念じながら、コニーは深く頭を下げた。
「あら、それは素敵なお話ね」
アメリアから報告を受けたエリザベートは、あまり驚くことなくそう言った。
「前からあの人、アメリアを好きだろうと思っていたのよ。ねえルーク、コニー・グリーンはどういう人物かしら?」
「とても親切な方です。それにとても強いです。何度か手合わせをしてもらいましたが、学ぶべきところがたくさんあります!」
「そう、なかなか将来有望そうじゃない。まあ、慎重に見極めなければいけないと思うけれど、アメリアも嫌いではないのでしょう?」
「は、はい。籠を持ってくれたりして、前から感じの良い人だとは思っていたので……」
「それなら付き合ってみたらどう? わたくしもいずれは独立して公爵家から出ようと思っているから、その時まだお付き合いしていたら護衛として引き抜きやすいだろうし」
「え……」
「ああ、もちろんアメリアが良ければ、の話よ。できればあなたについてきて欲しいけれど、公爵家に残りたければ」
「いえ! わたしはずっとエリザベート様にお仕えしたいです!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。これからもよろしくね」
「はい!」
コニーからの交際申し込みよりも、エリザベートのこの言葉の方を嬉しく感じながらも、後日、アメリアはコニーと交際を始めるのだった。




