ザカリー・オニキス、帰省する
書籍化です! 皆様のおかげです! ありがとうございます! ということで、感謝のSSです。
「父上、母上、お久しぶりです」
同じ王都に暮らしながら、何年も会っていなかった養父母に挨拶をする。
「よく来たねぇ、嬉しいよ。スティーナから様子は聞いていたけれど、やはり直接顔を見ないと心配で」
「ええ、ええ、本当に。ちゃんと食事はしている? ちゃんと眠っている?」
「宿舎暮らしですから、食事も出ますしちゃんと生活していますよ」
「それならいいけれど、ほら、旦那様は研究に没頭してしまうと寝食を忘れてしまうから」
「昔の話だよ。今はちゃんとしているでしょ? 君とスティーナに叱られるから」
いたずらっぽくウインクをし笑う養父のオニキス侯爵。
(あいかわらず、だな)
軽やかで朗らか。ザカリーはこの養父が好きである。優しい養母も好きだ。そして、
「お兄様、今日はお泊りになるのですよね? 夕食はお兄様の好きなシチューを作ります!」
張り切っている、可愛いクリスティーナのことも。
幼い頃に両親を亡くし、父親の友人だったオニキス侯爵の養子になって数年後に生まれたクリスティーナ。大切に思い守ってきたが「お前にはこのオニキス家の次期当主となり、クリスティーナを妻として娶ってほしい」と頼まれた時には、とんでもない、と思った。
(八歳も離れているし、自分は気難しく、面白味のない人間だと自覚している。こんな私と結婚させられては可哀想だと思い家を出たが……ルチア・ローズ、あの女子生徒……)
自分が侯爵家を出たのはクリスティーナのせいだとでたらめを言い、生徒会で仕事を押し付けていた。
(ある意味、スティーナのせいで家を出たとも言えるが、それは彼女の幸せを願ったからこそだ。こんなことなら疎遠になるのではなかったと後悔し、家に来てみたが……)
「それでね、最近作ったのがこれ! 対象を見せながら起動すると、その対象の後をずっとついてまわるんだ! ほら、ほら!」
ガタガタと音を立てながら、手に載るくらいの大きさの四角い物体が、侯爵の後ろを追いかけている。
「……なるほど……それで、父上はこれをどのような魔道具にするおつもりなのでしょう」
「え、どのような……えーっと……」
狼狽え、ピタリと立ち止った侯爵の足に、コツンと四角がぶつかる。
「えーと……まあ、これはちょっとした息抜きというか? 思いつきというか?」
「うふふ、旦那様ったら、こういう何にも役に立たないものばかり作って困っちゃうわ。でもなんだか可愛いわよね」
「だろう? なんだか可愛いんだよ!」
そんな二人の会話に、頭痛を覚える。
「さあ、わたくしも夕食の手伝いに行かなきゃ。ザカリーは旦那様とゆっくりお話ししていて」
「母上? 夕食の手伝いとは……」
「あ~、ええと……実はね、メイドが辞めてしまって、ちょっと人手不足なのよ。でもわたくしもスティーナも料理は好きだし。おほほほほ」
そう言って養母が部屋を出て行ってから、ザカリーは無言で養父を見つめ……、
「ごめん! 私の魔道具研究が上手くいかないから、メイドを雇い続ける事ができなくて!」
白状した養父に、ザカリーはにじり寄った。
「今、屋敷の使用人は」
「執事と、メイドが一人」
「それだけですか?」
「それだけです、はい……」
「借金は?」
「それは無いよ! ザカリーが仕送りしてくれているからね、どうにかこうにか」
「はーっ……」
失望と安堵、半々のため息をつき、ザカリーは言った。
「オニキス侯爵家を、早急に立て直さなければなりません。この、後をついてくるだけの物も、何か良い働きをする魔道具にできそうですし、少なくとも玩具くらいにはしましょう」
「ううっ、すまない、こんな頼りない父で。……ザカリー、こんな没落寸前の家門を押しつけるのは忍びないが、やはり当主となってくれないか? ザカリーの妻になりたいというスティーナの願いを叶えてやりたかったが、気が進まないのであれば、それは諦めさせる。このままじゃあ、スティーナが学園を卒業するまで家門がもつかどうか……」
「わかりました。時期をみて、教師は辞めて父上の下で魔道具研究と侯爵家の運営について学びたいと思います。スティーナの事は……本当に彼女がそれを望むのであれば……卒業まで考えが変わらなかったら、その時は」
「えっ! いいのかい? ありがとう! 本当にありがとう!」
こうしてザカリーは、オニキス侯爵家の次期当主とクリスティーナの婚約者になるという決断をしたのだった。
主人公達の話ではなく、すみません。このカップル、けっこうお気に入りです。楽しんでもらえたら嬉しいです。




