モンスタータイム
少女と歩き始めて約3分、俺のスタミナは、限界を迎えていた。
「……申し訳ない。」
「いえいえ……大丈夫?です。」
今ちょっと間があった気がする。
動けなくなっている俺に向かって、少女はヒールを使ってくれた。
少しずつ、スタミナが回復していく。
全快すると、再び歩き出した。
ちまちました俺の歩幅に、彼女は合わせてくれている。
とてもありがたい。
等と考えていると、スタミナがもう1減った。
早すぎじゃね?
そう、俺は、世界最弱の魔物、たぬきになってしまったのだ。
改めて考えると、悲しい話である。
本来は、オーガになる予定だったのだから……。
少女に聞いてみたところ、俺はレベル1のたぬきの中でも
ステータスが低い方らしい。
それに、スタミナ効率というのも悪いと言っていた。
そのせいで、数値の減りが早いらしい。
……前世では運動できたのにな。
いや、運動しかできなかったとも言う。
そんな俺だが、今は少女と一緒に山の上の家を目指している。
そろそろモンスタータイムらしく、急いで向かっているのだが……。
「ごめんなさい。」
「いえいえ?ヒール!」
やっぱりちょっと間があった気がする。
すぐに、俺のスタミナは0になってしまう。
長く歩けるようになるには、スタミナの総量を上げる、
つまり、レベルアップが必須。
だが、俺は雑魚種族の雑魚個体。
モンスターと戦うことなんて、自殺行為だ。
話を聞く限りでは、レベルアップ方は他にもある。
だが、今すぐできるみたいな、都合の良いことはないだろう。
もしできるのならば、もうやっているはずだ。
申し訳ないが、今はスタミナがなくなったらヒール
してもらうしかない。
というか、ぽんぽこの世界では魔法はポンポン使えるものじゃない。
一定の魔力を消費しているはずだ。
しかも、ヒールと言ったら回復系魔法。
魔力消費は激しいはず……。
なのに、この少女は疲れを見せない。
……何者!?
聞いてみよう。
「あのー、毎度毎度すみません、魔力量は大丈夫ですか?」
ちょうど、全快したタイミングで聞いてみる。
「はい、大丈夫ですよ。
私、魔力量には自信があるんです。」
大丈夫らしい。
ひとまず安心し、先に進むことにした。
歩き出してから約1時間。
その間、俺は15回ほどヒールをかけてもらいながら進んだ。
そして、少しずつ少女の顔が険しくなっていっている。
「あのー、魔力量は大丈夫ですか?」
多分、魔力枯渇状態だと思う。
ぽんぽこも、かなり頻繁にその状態になっていた。
魔法を使いすぎて、魔力が残り2割を切ると体力を魔力に変換するという、
この世界の生命の常識。
たぶん、俺にヒールをかけすぎてこうなっているんだと思う。
とても申し訳ない……。
「お静かに、囲まれています。」
思っていた返しと違う。
囲まれている?
何に?
まさか、山賊!?
どうしよう!こっわ!
あわあわしている俺に対し、少女は周りを警戒している。
「間に合いませんでしたか……。」
何に!?
何かめっちゃ怖い!
「え!え!え!」
混乱していたせいか、思わず声を出してしまった。
その直後、周りの茂みからガサゴソと音がする。
「来ます!私から離れないで下さい!」
「は、はい!」
木の枝が茂みからいくつも飛んでくる。
「防御結界!」
俺と少女を囲む、青っぽい何かが出現する。
枝は弾かれ、地面に落ちた。
こっわ!
あれ当たってたら多分俺死んでたよ?
この子と一緒で良かったー!!
などと出会いに感謝していると、茂みの奥から無数の緑っぽい生物が出てきた。
目は黄色く、腰布を付けている。
手には弓や、石の剣等を持っていた。
間違いなく、ぽんぽこの世界のゴブリンだ。
やっば!
これ、多分モンスタータイムになっちゃったんじゃね?
そう考えると、少女の言葉にも納得がいく。
やばいやばい!!
この少女、強いっぽいけど度重なるヒールで魔力も
消費しているだろうし勝てるか怪しい。
それに、俺は戦力外、というか、足手まとい!
「どうするんですか!?」
思わず聞いてしまった。
「お静かに、もっと魔物が寄ってきますよ。」
っひ!
これ以上!?
それはやばい!
こんなに危機的状況なのに、少女は顔色一つ変えない。
顔に出ないタイプか?
いや、今はそんなこと考えてられない!
生き残ることを考えるんだ!
策……。
そんなの出てきたら良いよな!
ゴブリンたちが少しずつ寄ってくる。
左右にもいる……ってことは。
嫌な予感がし後ろを見ると、やはりゴブリンが寄ってきていた。
ひえー!!
結界があるとはいえ、限界があるだろうし……。
どうすんのこれ!?
……何か、ないのか?
見上げても、少女は顔色一つ変えていなかった。
やっぱり何か策があるのか!?
「たぬき様、私が魔物を撃退します。
絶対に、結界の外には出ないで下さい。」
「え……?」
危ない、そう言おうとしたときには、もう彼女は結界の中には
いなかった。
「グヘー!」
「グオー!」
「ギャー!」
血しぶきが上がると同時に、ゴブリンの悲鳴が聞こえる。
魔物は、体の中にあるコアを破壊されると一瞬で死亡する。
そして、目の前に倒れているゴブリンの死体は全て、コアが
破壊されていた。
白く小さい球体のようなものの破片が、
地面に転がっている。
生で見ると、少し感動する。
これこそ、ぽんぽこの世界のコアだ。
前世では、血を見るのが怖かったのだが、今は何とも思わない。
魔物になった影響だろうか?
というか、少女強すぎじゃね?
魔法使いだと思っていたんだけどな……。
目の前でゴブリンを蹂躙している彼女は、どこに
持っていたのか分からない短剣で、戦っていた。
ヒールは、回復系魔法。
全属性使える天才、ぽんぽこでさえ、発動しにくかった
超高難易度魔法。
魔力消費も大きいのだ。
ぽんぽこのパーティーの回復担当でさえ、
一日20回が限度。
それをこの少女は、既に15回も発動している。
魔王討伐で、即戦力級なのは、間違いないだろう。
結界の外では、ゴブリンの攻撃を華麗にかわし、
コアを破壊している少女がいる。
あの少女も、ポテチ少女くらい怖いっちゃ怖いな。
敵に回すと、確実一瞬でに殺される。
今のところ殺意はなさそうなので、一旦安心だ。
そんな事を考えていたら、目の前に突然影ができる。
「ひえ!」
「終わりましたよ、たぬき様。」
「は、はい……」
あの数のゴブリンを、この速さで皆殺しにするとは……。
この少女の実力は、俺の思っていた遥かに上だった。
ん?なんで少女の服に血がついてないんだ?
まあいっか!
助けてもらったしー、ラッキーってことで!
俺はなんて運が良いんだろう!
「はあー」
ん?なんでこの子がため息ついてるんだ?
危機は去ったのに……。
「やはり、面倒ですね。モンスタータイムは。」
まさか!?
再び飛んでくる木の枝。
ひー!
防御結界に弾かれて落ちたものの、迫力がある。
「このまま倒し続けても。きりがありません。
強行突破します。
……では、失礼します。」
首根っこを掴まれる俺。
ん?ん?どういうこと!?
この状態で家まで運んでくれるってことか。
ん?でも、最初からこうしてればもっと早かったんじゃね?
何か理由があるのか……?
「最初から、こうしたほうが早かったんじゃないですか?」
「…………」
少女が、黙ってしまった。
ん!?俺この子を怒らせたのか!?
なんだなんだ。何がダメだったんだ?
全く分からねー!
「あのー、そのー……」
少女が、俺と少し視線を離し、小声で言う。
「そのちまちました歩幅がかわいかったので……」
そうか!?今俺はたぬき!
可愛いと思ってもらえる姿なんだ!
なんだか嬉しい。
というか、怒らせてなかったみたいで良かったー。
安心安心。
逆に、怒らせたら俺の命は一瞬でなくなる。
なんと恐ろしい……。
気を付けよう。
そう、心に誓った。
「行きますよ、たぬき様。」
「は、はい……」
首根っこを掴まれた状態で、俺はうなずきながら
言葉を返す。
「変神よ、力を授けたまえ!」
少女が、マラカスをもって大声で言った。
このマラカス、どっかで見たような……。
あ!?不審者が持ってたのと同じだ!
というか、どこに持ってたんだ?
まあ、それは良い。
今一番気になるのは、変神 ―不審者と、この子が
どういう関係かだ。
ん?なぜ今俺は、この子に首根っこを掴まれているんだ?
「失礼します。死にはしないので、ご安心下さい。」
え?え?え?
「ちょっ!」
空高くに飛ばされる俺。
雲までとどいちゃってるよ?
ジェットコースターに乗った時の、あの変な感覚……。
「ひえー!!!!!!」
すごい勢いで落下していく俺。
死んじゃう、死んじゃう、死んじゃう!
助けてー!!
森の中、あの子の姿が見えてきた。
襲ってきたゴブリンたちは、皆殺しにされていた。
この短時間で……少女やっぱり強いな。
「たぬき様ー!」
こちらに向けて、手をふっている。
いや、まず助けてー!
手は振るんじゃなくて、受け取る体制で
お願いします!
俺、死んじゃうよ?
まさか、裏切ったのか!?
やっば!
油断してた。
でも、俺とは強さの次元が違うあの子に対して、
警戒していても結果は一緒な気が……。
なんてことを考えていたら、地面が目の前にあった。
「ひっ!」
やばい!やばい!
少女が、大きな声で言う。
「重力魔法!」
その刹那、俺はピタッと止まった。
何の反動もない。
助かった?のか?
生きている実感がない。
少しずつ下に降りていき、最終的には地面に足がついた。
怖かったー!
この子、見た目に反して馬鹿力だな。
すんごい細いのに……。
いや、今はそんなこと考えてられるか!
文句を言おう!!
「あのー……なぜ俺を上空に?死ぬかと思いました。」
「ああ、ごめんなさい。あれくらい上空に飛ばさないと、
戦闘に巻き込まれると思ったので……」
ねぇ、どんな戦い方してたの!?
まあ、悪気がないなら良いか。
「今の会話で、また集まってきたようですね……」
ん?まさか……。
俺たちの周りを囲むゴブリン……。
この展開、飽きたんだけど!?
これが小説なら、俺は読むのをやめてしまっただろう。
ワンパターンが、自分の中で一番つまらない。
これも、本になるのかなー?
母さんは、勇者ぽんぽこや、賢者信楽が実話だと言っていた。
ということは、俺の世界も本になってもおかしくはない。
……ポテチと間違えられる?
……カラスもどきに襲われ逃げる。
少女に助けてもらう……。
俺の活躍ねーじゃん!!
いや、読んでほしくない。
本にしないでくれ!
ちょっとは活躍したいじゃん!
チートしてるとこ見せたいじゃん!
決め台詞言ってみたいじゃん!
あー……チートしてー!!
勇者ぽんぽこのように最初から強ければな……。
まあ、俺は時が経っても雑魚のままなんだろうけどさ!
「たぬき様、失礼します。」
そうだ、忘れてた!
俺たち、今危機的状況なんじゃん。
今考えなくて良いことを考えてたわ!
少女が強すぎて、危機感をあまり感じていなかった。
ん?
またもや、首根っこを掴まれる俺。
また同じ感じ!?
ってことは……。
空を見上げる。
また飛ばされるのか……。
あれ、生きた心地がしないんだよな……。
というか、また同じパターン?
あと、これを何回繰り返すんだ!?
見た感じ、モンスタータイムは本当にモンスターが
大量に出現する。
今のところゴブリンにしか会っていないが、
他の魔物も出てくるかもしれない。
あとどれだけ俺は宙に飛ばされるのだろか……?
いやだよー!
少女が、俺を担ぐ。
あれ?思ってたのと違う。
てっきり上空に飛ばされるのだと……。
「では、行きます!」
片手で俺を担ぎ、もう片方の手で短剣を持っている。
まさか……。
ゴブリンが飛び掛かってくる。
少女は、短剣で襲い掛かってきた奴のコアを一撃で破壊した。
横から飛んできた石の矢も防御結界で防ぐ。
なんという戦闘力……。
強すぎだわ。
矢を飛ばしてきた個体は無視し、前に立ちはだかる個体のみを
始末していく。
前方にゴブリンがいなくなった。
えーと……キミ、足速すぎじゃね?
動体視力が追いつかない。
横から飛んでくる木の枝や矢は防御結界で防ぐ。
そして、直接斬りかかってきたモンスターは攻撃をかわし、
一撃で仕留める。
険しい山道を息切れせずに、猛スピードで走っている少女とか、
なんでもありだな、異世界。
やっぱり、このこの子やばいな。
敵に回せば命が終わる、それを、改めて感じた。
「家まであと何分くらいですか?」
「もう着きますよ。」
爆速で森林を突っ切ると、そこには小さな山小屋があった。
もしかして……あの山小屋?
でも、モンスターの攻撃防げなくね?
大丈夫!?
不安しかない。
「さて、家につきました。
早く中に入りましょう。」
少女に担がれたまま、俺は小さい山小屋の中に入って行った。




