狸ライフスタート!
ピーヒョロピー
ん……鳥の鳴き声?
多分俺は今異世界にいるはず、なのにあの鳥の鳴き声は
トンビにそっくり。
……もしかして不審者のミスで地球に帰ってきた!?
そうだといいなー。
異世界に来たのなら、俺は狸になっているはず。
嫌だけど、仕方ない!
よし、心の準備はできた。
ゆっくり目を開けた直後、強風が吹く。
砂埃が目に入る。
痛い!
風が強すぎて、転がる俺。
ヘブシ!
崖に何回も打ち付けられる。
ヘブシ!グヘ!ヘブシ!
グヘ!!
木に打ち付けられる。
痛い!
めっちゃ痛い!
泣いちゃうよ?
ぽんぽこの世界では、ダメージを受けるとHPが減る。
その数値がゼロになると、その者は死ぬ。
そういうシステムだ。
なぜ今そんなことを考えたかというと、
嫌な予感がしたからだ。
頭の中でステータスと念じる。
お、出てきた出てきた。
えーと、種族たぬき、名前なし、HP2/30……
2/30!?
俺瀕死じゃん!
思ってたよりまずい状況だった。
どうしよう!!
そうだ、できることからしよう。
まず周りの状況を確認して……
えーと、俺、悪いことした?
なんかカラスみたいなのに囲まれてるんだけど!
もしかして、この木、巣だった?
「グアー!」
突然、カラスみたいなのが鳴く。
声がカラスじゃない!
うわ、周りから仲間が駆けつける。
速度もカラスじゃない!
結論、カラスじゃない!
大量のカラスもどきに囲まれて、
じっと見つめられる。
こっわ!
俺の狸ライフ、終わったかも……。
まだ、死にたくない!
「誰か助けてー!」
ダメ元で叫んでみる。
ステータスには種族・たぬきとあった。
俺は確実に異世界に来て、たぬきになっている。
ということは、他の個体が助けに来てくれるかもしれない!
「なぜ、我らの縄張りを犯したものを助けなければならん。
諦めよ。次は雑魚種族に転生しなければ良いな。」
誰の声!?
まさか、俺カラスもどきと会話できてるのか?
雑魚種族って……。
まあ、そうかもしれないけど!
今俺はさっそく危機的状況だ。
相手の言葉からして、逃がしてはもらえないだろう。
何とか、ならないのか……。
「フッ、諦めたようだな。」
策が思い浮かばない。
ここ、まで、なのか……。
「これより、我が縄張りを犯した忌々しいタヌキを処刑する、
異論はないな!」
逃がしてくれよ!
開始三分で終わるのか、俺のたぬきライフ。
ああ、散々だったな。
エレベーターに監禁されて、ポテチと間違えられて……
もう、諦めよう。
それが良い。
母さんゴメン、もう死ぬと思う……
不審者もゴメン……役目を果たせなくて……
カラスもどきが、くちばしで俺を刺そうとしたとき、
あることを思い出した。
それは、母さんが昔よく言っていたことだ。
「ピンチになった時、こう言えば大抵逃げられるは。
UFOって言えばね!」
短い手を思いっきり空へ向けて、大声で言う。
「UFO!!」
異世界でこれが通用するのかは、分からない。
しかし、母さんが言っていたからには通用するのだろう。
……多分。
「何!?UFOだと!こやつのことは後だ!
探すぞ!!」
一斉に飛び立つカラスもどき達。
よし、作戦成功だ!
やっぱり母さんは凄い。
異世界でも使える逃げ方を知っているなんて。
気付かれないうちに、早く逃げないと。
茂みの中を突っ切り、全速力で走る。
……おそくね?
人間だった記憶があるため、滅茶苦茶遅く感じる。
ぽんぽこの世界と変わりないのなら、スタミナがあるはずだ。
ステータスに表示されるそのゲージは、
なくなると一時的に動けなくなる。
またもや嫌な予感がし、ステータスと念じる。
恐る恐る、スタミナゲージを見てみる、
さっきは余裕が無くて確認していなかった。
俺のスタミナの総量は……。
3/10……ひっく!
HPの3分の1じゃん!
やっぱり雑魚種族って言われるだけはあるなー。
謎に感心しつつ、ひたすら前に進む。
早く、カラスもどき達から離れないと……。
だが、俺のスタミナがそれを許さない。
ただ歩いているだけなのに、息切れしてきた。
人間時代が恋しい。
確か、残りスタミナの2から、息切れが始まる。
ということは、今の一瞬で貴重なスタミナを1も消費したことになる。
雑魚すぎじゃね?
認めよう、ぽんぽこの世界で、たぬきは雑魚い。
そして、現実を受け止めよう。
俺は、雑魚になってしまったのだと……。
悲し。
受け入れるしかない、そう分かっていても、どうしても人間に
戻りたいと思ってしまう。
そんなことを考え、憂鬱な気分になっていると、茂みを抜けた。
そして、すぐ目の前に人が立っていた……。
日に焼けた20代と思われる男性だ。
手には石の槍を持っている。
装備は……していない。
「獲物だ!!」
槍が、俺に向けて刺される。
それを、間一髪で回避した。
だが、次々とくる追撃。
何とかかわすが、息切れが激しくなる。
人間も、汗をかいていた。
「っく、たぬきの癖に……生意気な!」
たぬきなめられすぎじゃね?
……っ!
体が……動かない……。
スタミナが0になると、一時的に動けなくなる。
分かっていたのに……。
「っふ、これで終わりさ!」
まずい!
やばい!
どうしよう!!
槍が、動けない俺に振り落とされた。
「そこまでです!!
防御結界!」
俺の目の前に、青っぽい何かが現れる。
そして、槍が欠けた。
「っ!何をする!」
男が振り返り、後ろにいる女性を見る。
水色の髪と、緑の目。
白いロングスカートと、麦わら帽子の、
少女だ。
「あなた、たぬき狩りのタヌオですよね?
違法な程にたぬきを狩り、実力がありながら
中級者ゾーンには行かず初心者ゾーンで
ひたすらたぬきを狩っているという……。」
そんな奴いるの?この世界こっわ!
たぬき可哀そうでしょ!
というか、スタミナもちょっと回復したし
お取込み中に逃げよーっと!
ラッキー!
「そうだ、何か文句あんのか?」
逃げようと少しずつ茂みに向かって歩いていくと、俺の前にあった
結界が丸くなり俺を包む。
逃げられなくね?
ぐぬぬ……。
「そのたぬき様は、変神様の使いです!
危害を加えるのならば、私があなたを殺します。」
彼女は、タヌオを睨みつける。
変神?ああ、あの不審者のことか。
納得―!
というか、この少女結構物騒だな。
まあ、助けてもらえてラッキー!
ってことで、逃げたいんだけど?
俺は結界に包まれたまま。
ニガシテモラエナイ?
まさか、この少女も俺を狩りに!?
その可能性もある!
やっば!
どうしよう……。
等と考えていると、男は去って行った。
「お亡くなりになられる前にこれて本当に良かったです。」
少女が笑って言った。
「ありがとうございます。」
一応礼を言っておく、聞こえないだろうけど……。
ぽんぽこの世界では、人間は魔物の声が理解できない。
だから、言っても無駄なのだが……。
「どういたしまして。」
ん!?
聞こえてる!?
試しに一つ会話してみよう。
「今日は天気が良いですね。」
会話の定番と言ったらこれだろ!
「……そう……ですね。」
ん?間があったな。
空を見上げてみる。
くもりじゃないか!
それも滅茶苦茶どんよりしてる!
何で俺そんなこと言ったんだよ!間があって当然だ。
というか、やっぱり聞こえてるんだな!
よーし、分かった。
この少女に色々聞こう!
「この世界に来て、まだ約5分なんです。
HPも減っていて、どうしたら良いですか?」
俺が思う問題第1、HP問題。
今俺のHPは3、確か、この世界では休まないと普通HPが回復しない。
それに、3しかないのは不安でしかない。
この少女に助けてもらおう!
「失礼します、鑑定!」
その刹那、一瞬光で包まれる。
その後、光が彼女の手に集まり文字を形成する。
その文字に一通り目を通すと、少女は口を開いた。
「なるほど、HPもスタミナもないですね……。」
そうなんですよー。ひ弱ボーイ。
俺今、やばい状況なんですよー。
「ひとまず、回復しますね。
ヒール!」
緑色のオーラが、俺を囲む。
試しにステータスと念じてみると、少しずつHPとスタミナが回復していた。
少女ナイス!
これで、ひとまず安心だな。
ん?安心か?
また転がったら死ぬかもしれないし……。
ダメじゃん!
早くレベルアップしてHP総量上げないと!
それに、さっきまでちょっとした段差で死んでたかもしれないんだろ?
こっわ!生き残れたの奇跡だわ!
もう少し別のことを聞いておこう。
「あのー、レベルアップって、モンスターを倒す以外に
する方法ないんですか?」
俺の思う問題第2、レベルアップ問題。
今のままでは、到底別のモンスターに勝てる気がしない。
ぽんぽこは初めから強かったから良いが、俺は違う。
他にレベルアップ方法がないか、聞いてみよう!
「あるにはあるんですが……ここで説明するには難しいので、
山の上にある家に来てもらって良いですか?
そろそろモンスタータイムですし……」
そんなややこしいの?
理解できるかな……。
少し不安だ。
というか、モンスタータイムって何!?
「モンスタータイムって、なんですか?」
「ああ、月に一度夕暮れに魔物が活発化する
時間を言います。」
月に一度……夕暮れ……?
ん!?
あの不審者、こんな危ないときに俺を異世界に転生させたの!?
えー、ちょっとは雑魚種族のこと考えてよー!
「早く行きましょう。」
「は、はい。」
俺は、少女の後を追って、歩き出した。




