男のプライドは大切に。
「トトナは神様の代行者の賢者様なのね。通りでみたことのない建物だし、みたことがない魔法だと思った」
てっきり何もないところに話しかける怪しくて精神的におかしな人とか思われるかと思ったが、すんなりとレアは受け入れてくれた。
こんなじいさまの代行者とか願い下げではあるが、ヤバイ人だと思われなくてよかった。
「賢者様がこんな辺境に来てくれるとは思わなかったわ。というか、賢者様の降臨は何年ぶりかしら?」
降臨?
そういえば、最初にあのじいさまは「今回のヤツは」と言っていた。
ということは、異世界召喚は俺一人ではなく、過去にもいて、この世界ではわりと受け入れられている出来事のようだ。
「レア。実は俺は今日この世界に呼ばれたんだ。だからこの世界は何も知らないんだ。もしよかったらいろいろと教えてくれないかな?」
レアは悩んでいる様子で眉間にしわを寄せて、軽く目を閉じて首をかしげた。
迷惑だったかな?っと思ったが、どうやらそういうわけではないようで、ブツブツと「どこから何を話していいやら」と唸っていた。
そりゃーそうか、いきなりたずねるのにはすごく質問の内容が大きすぎる。
この世界ではわりと常識なことだから、当たり前すぎて教えることがわからないのもあるだろう。
「よし、トトナ。私はどうせアテのない狩人だし。貴方のそばで、貴方の聞きたいことをすぐに教えられるように、貴方のパートナーになるわ。貴方が私を必要としなくなる日まで、一生をかけて尽くすわ。名前をもらった対価もどのみち払えるようなものがないしね」
ん?
なんかすごく重要なことがさらっと一瞬で決断された気がする。
パートナーと言っているが、どういう意味合いの言葉なんだろうか。
旅仲間・・・的な?
でも一生付き従う覚悟とかなんか重たい台詞が。
「お、女の人がそんな軽く一生を決めてはいけないと思うんだけど。一生とか言うのは、やっぱり生涯を誓った相手というか、夫となるべき人というか」
「そうなの?私たちの国では自分が認めた人に尽くすのは当たり前だし。それに王族でもない限り、結婚なんてないから、いくらでも好きな人との間に好きなだけ子供を作るのも当たり前よ。あ、でもトトナがほしいと思わなければつくらなくてもいいのよ」
なんだか、すごい爆弾発言の嵐に頭が痛い。
つまり、この国には結婚という概念が王族とよばれる階級にしかなくて、あとは複数の男性との間につくりたい放題。
なんという好き放題な状況っ
・・・いかんいかん。乱れたこの秩序なき状況に流されるな自分。
やはりここはきちんと手順というか・・・なんというか・・・
「・・・トトナ。もしかして・・・その年で、経験ないとか?」
ピキッと自分の中で何かが壊れる音がした。
多分、俺の中の男としてのプライドである。
認めたくはないけれど、これ現実なのよね・・・
トトナ、35才。
まだ誰のものでもありません。
認めたくはないけれど・・・認めたくはないけれど・・・
現実に打ちひしがれて俺は頭を抱えて、その場でうずくまった。
俺悪くないモン・・・
世の中の女子というものが強すぎて、俺のような草陰の人間には気づいてくれないだけだもん。
床にのの字を書きながらいじける俺にぽんたが前足でぽんぽんと叩く。
「ご主人様ぁ。良い雌の落とし方、オラさがおしえてあげるだぁ」
ぽんたが誇らしげに鼻をあげた。
その姿がなんだかとても腹立たしい。
「豆ぽんのくせになまいきだっ!」
俺は立ち上がってぽんたの尻を蹴り上げた。
ぽんたは漫画のようにキャンといいながら飛び上がった。
ちくしょう、ざまぁみろっ!