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星使い ティンクル・ライツ ~願いは流星とともに~  作者: 想兼 ヒロ
想いは氷雪のはてに

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第25話 活路に向かう

「鳥獣保護センター、ね。正式名称は少し違うとしても地名と一緒に検索をすれば……、あった。これだわ」


 優香は慣れた手付きで、手元の端末を操作している。その指の動きは、洋介から見れば異次元の領域だ。今、どういう動作をしているのかも洋介には予想がつかない。


変遷(へんせん)は、ここかな? 大学の研究機関として始まり……うん、大隅(おおすみ)さんの言った通り。ここで間違いないわね」

 専門外の知識のため、大隅の記憶は完全にうろ覚えだった。しかし、しっかりと頭に残っていたキーワードを聞き出し、その点を頼りに線を繋げて、目当ての建物を探し出す。優香は、かつて固有種の研究施設として建てられた、という情報を使って、彼女が欲しがっていたものを引き出した。


(こういう検索する力ってのも、鍛えないとできないんだろうなぁ)

 洋介はただただ感心するばかりだ。


「住所は、と。リィルくんは直線的に行って迷ってたけれど、方向は間違ってなかったわよ。ちょっと回り込めば、舗装された道があるし、十分徒歩で行けるわ」

 リィルは自分が歩いた過酷な山道を思い出して、身震いした後に安堵する。

「よかった。正直、オレ、あの道登り切る自信なかったから」


 優香は地図を見ながらリィルと話している。その地図を洋介が覗き込むと、推奨される道筋が赤い線で描かれていた。経路検索だ、辿り着くまでのおよその時間もかかれている。

 (おおむい)ね、歩いていっても問題のない距離である。


「へー、経路調べるとこうやって教えてくれるんだ」


 まるで子どものような反応を洋介は見せる。初めて見たものへの素直な感想が、口から出てしまっていた。


(澤田くんって、もしかしてこれを使ったことないのかしら)

 その洋介の一言を聞いた優香は信じられないものを見る目で洋介を見ている。


「澤田くん、ちょっと聞きたいんだけれど。どうやって、ここまで来たの?」

 確か、優香の記憶では洋介は自分で調べてくると言っていたはずだ。アナログな方法を使ったことも考えられるが、もしそうだとしたら、どうやればいいのか優香は知らない知識である。それを優香は教えてほしかった。


「えっと、それは、まぁ、色々と」

 洋介は言い淀んでいる。母親にやってもらったと、正直にいうのが恥ずかしいのだ。


「なぁ、ねぇさん達。道が分かったんなら早く行こうぜ」

 ()かすリィルの声に優香の意識が向く。

「そうね、日が高いうちに向かいましょう」

 同時に先行するためにリィルの前へと優香は歩き出した。


 優香の視線が外れたことで、洋介は胸を撫で下ろす。助かった、そう思って優香の後ろに洋介が着いていこうとすると頭の上のライツが話し出す。


「ねぇ、ユーカのもってるのってヨースケのと同じやつ?」

 ライツが言っているのは携帯電話のことであろう。

「似たようなものだよ」

 作った会社は違うが、同じくスマートフォンだから同系統の機械だ。ライツは洋介が使っているところを見ているのに、それが初めて見たものかのように目を輝かす。


「あれって、あんな風にたくさん触るんだね。ヨースケは見てた時間の方が長いのに」

 どうやら、同じものだとライツは認識していなかったようだ。


「……それ、井上さんの前で言うなよ」

 今のライツの言葉を聞かせてしまったら、かなり直接的に洋介は全く使いこなせないことが優香に伝わってしまう。そんな後ろ向きな気持ちで洋介が言っているというのに「うん、分かった」とライツは素直に(うなづ)いていた。


 優香の隣の位置まで追いついた洋介は、話を切り出すタイミングを優香を見ながら計っていた。意を決して、洋介は口を開く。


「それにしても、おば……お母さん、大丈夫だった?」

 洋介が聞きたかったのは静香のことだ。お母さんと言い直したのは、やはりおばさんと言いづらかったからである。

「いつものことよ。澤田くんは心配しないで」

 優香の口調は、確かにいつも通りだ。本心から言っていることが分かるから、洋介はそれ以上何も言えなくなる。


 それは少し前のこと。大隅の話を聞いて、すぐに行動に移そうとする娘に静香は自分も着いていこうとしていた。しかし、ソファーから立ち上がると同時に目が(くら)んだようで、すぐにその場に座り込んでしまう。

 その後は、まるで糸の切れた操り人形のように動きが鈍くなると、「気をつけてね」とだけ言い残して自室に引っ込んでしまった。


「お母さん、すぐに疲れてしまうから」


 そこで、静香の言う「体を壊した」というのが何を指しているのか、洋介にも少し理解できた。それは、体力の入っている壺のようなものが割れてしまっているということなのだと。

 普段は人並みに元気なのだが、体力の容量(キャパシティ)の管理が難しく、それを使い果たしてしまうと体が動きづらくなってしまうのだ。


「あれでも、良くなったほうなのよ。家にいる時はベッドの上で過ごしていたことの方が多かったし、長く入院してる時もあったから」

 優香の口調は静香をいたわるものであったが、寂しさの中に、どこか嬉しさが混じっていた。


 洋介にも何となく分かる。幼い頃のように、短時間ではあるが母と過ごせるのが優香には嬉しかったのだ。

(井上さん、けっこう感情的だったもんな)

 洋介は、優香と静香の言い争いの現場を思い出す。ああやって、母親とくだらないやり取りをするのも優香には楽しい出来事なのだろうと洋介は思う。


「全部終わったら、テナガエビでも獲ってくるよ。元気になるぞ」

 リィルが生き生きとした表情で優香に提案している。ロォルの消息がつかめそうになっているので気分が高揚(こうよう)しているようだ。


「リィルくん、エビも食べるの?」

「オレは食わない。でも、人間はエビ好きだろ?」


 冗談っぽくリィルが言うので優香も素直にのってくる。

「そうね、せっかくなら伊勢海老をお願いするわ」

 そんな本気なのか分からないことを言って、優香は微笑(ほほえ)んだ。

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