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星使い ティンクル・ライツ ~願いは流星とともに~  作者: 想兼 ヒロ
祈りは夜天をこえて

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第46話 欺瞞の真実

(来たか)


 カーラの目が(あか)く輝く。その瞳には、ライツが回す(つえ)が生む軌跡が映っていた。圧倒的な力の流れ。ライツの全てが、その(つえ)へと注ぎ込まれていく。

 それを目視したカーラに動きはない。ただ、涼やかにそれを見つめている。阻止するつもりはない。カーラの目的はアレを()たせることだ。


 ライツの周囲に浮かんでいた星が、全てその先端へと集まっていく。ライツは、その矢を弓へとつがえた。


 バチン、と大きな音が鳴る。ライツの内から外へと表出された力が暴れ出している。その痛みに、ライツの顔が(ゆが)んだとき、カーラはほくそ笑んだ。


 そうだ、それでいい。これまで無かった表情の変化だ。カーラは内心で何度も(うなず)く。

 目前の輝きは、あの日、カーラの心を救ったものとはほど遠い。そこに混ざっている(まが)(もの)は、ライツには不要な力だ。そのまま、自分へと向けて解き放てば良い。

 腰をおとす。ここが正念場だ。うまくいくか、という不安は飲み込み、平静を装って、胸に手を置く。

 そして、ライツに向けて最後の一押し。


「目測を誤るなよ。私はここだ。その濁った瞳で、しかと見るがいい」


 その挑発に、ライツの目尻がキッと上がった。鋭い視線のまま、ライツは弓を引き絞った。


「『|運命を呪いし薄幸な射手サジタリウス』よ」


 解き放たれた暴力的な光は、()()ぐに。ライツを(むしば)んでいた悪意ごと、カーラを飲み込んだ。



「え、無策!?」


 慌てた大声の主は、地上で行く末を見守っていたリィルだ。カーラは何をするのだろう、と(かた)()()んで見守っていたら、彼女はそのままライツの矢が生む光の軌跡に貫かれた。

 反射的に立ち上がろうとして、めまいを起こす。くらくらと揺れる視界の先に、光の中で堪えているカーラの姿が見えた。


「おっと」


 倒れそうになったリィルの背を(よう)(すけ)が支えた。

「大丈夫か」

「う、うん。平気」

 洋介と視線の合ったリィルは、洋介の声に違和感を覚える。


 リィルの無事を確認して、再び空を見上げる横顔。その目に、揺らぎがない。リィルの推測が正しければ、(さわ)()洋介という人間はこういうとき一番に他者を案じると思うのだが。

(にぃさんらしくない気がする)

 洋介からそこまでの焦燥を感じない。どちらかといえば、冷ややかな態度に見える。いや、そうあろうと努めているのか。


「にぃさん、何でそんな冷静なのさ」

 思わず聞いてしまった。それだけ、洋介の表情が不思議だった。覚悟が決まっている、といえばいいのか。とにかく、彼はただ()()ぐに現状を見つめている。


「ああ、そうか」

 当の本人は、リィルに問われたことで自分が特殊なことを認識した。リィルの顔は緊張で引きつっている。おそらく、カーラがこのままライツの矢に倒れてしまう。そんな未来を予測している。

 そうだ、普通はそうなのだ。カーラの身を案じるべきなのだ。しかし、洋介はそうはいかない。


 ――そのあとは任せたぞ。


 なにせ、託されたのだ。自分の失態で、カーラのこれまでの努力を無下にするわけにはいかない。

 ただ、カーラと同じく体を張ってくれた友人が(おび)えているのなら、種明かしをする必要がある。


「大丈夫だよ、カーラは」

 下手くそな笑みを洋介は見せる。心配しているのは事実だし、鼓動が高鳴りは先ほどからえげつない。

 それでも、正気でいられる理由を、リィルに伝えなければいけない。洋介は無理に笑顔を作って、リィルに上空を見るように促す。


「あれ、きっとニセモノだから」

「……はい?」


 リィルが視線を再び夜空へと向けた瞬間。


「わっ」


 カーラの体は、まるでガラスが砕けたかのようにきらめきを残して夜空へと散らばった。



「なっ」

 ライツの喉から息がもれる。確実に、撃墜したはずのカーラの姿が眼の前からかき消えた。その、朱が混ざり紫に近くなった瑠璃色の瞳が、大きく見開かれた。


「ようやく聞けたな、貴様の声を」


 耳元で声がする。

 ライツは、反射的に(つえ)を作り出そうとして……その動作の途中で腕を強く引っ張られた。


 バランスを崩したライツの背後に黒き影。弱点の(はね)ごと、ライツの両腕は羽交い締めにされた。足をバタバタと動かすも、強く抱きしめられて身動きがとれない。

「ん~~~~」

 闇夜にもがくライツ。その背中で、確かに彼女の矢で打ち落としたはずの漆黒の羽が揺れていた。


「なかなか隙を見せてくれないから、難儀だったぞ。何度、貴様の(はね)をつかもうとして、手が空をきったか」

 闇に光る(あか)い目を輝かせながら、ライツの耳元でカーラは声をあげて笑った。


 そう、カーラは最初から最後までライツの背後にいたのだ。息を潜め、飛びかかる瞬間を狙いながら。

 ライツに対して爪を振るい、矢を放たせるために挑発し、そして『|運命を呪いし薄幸な射手サジタリウス』を受けて砕け散ったカーラは最初から存在しなかった。

 洋介は違和感を抱いたものの、この場にいる者、全てが(だま)された虚構の存在である。


貴方に欺瞞の真実を(ヴェーラ・インガンノ)』、その術に込められた意志は新たな真実の創造だ。


 カーラの他の術のように、対象者と意識を(つな)ぐ必要はない。まるで、この世界がスクリーンであるかのようにカーラは幻影を映し出す。

 カーラは世界に(うそ)をつく。それを見ている者には真実であり、触れることすらできる本物だ。


「やはり、これなら貴様にも返せなかったな。星の姫!」


 かつて、カーラがライツと(たい)()したとき、当時のカーラにとってはとっておきの術であった『貴方に奇怪な幻影をストラーナ・イツルジオーネ』でライツを幻影に閉じ込めようとした。本来であれば精神的に未熟であるライツが返すことなどできない呪いの術。

 しかし、ライツは真っ向から全力で、力業で跳ね返してきた。彼女の()()ぐな意志によって生み出された、伝説に書き記された強き者のイメージを、虹色の(はね)で具現化させて。


 それだけではない。ただの人間だと侮った洋介にも術を返された。カーラの術は呪いの類いだ。費用対効果に優れるものの、逆流の恐れがある。


 あの日、乾ききった心に水を与えてくれた二人は、同時にカーラに自身の弱点を自覚させた。

 もし、あの二人に再会できたなら。今度は、そんな失態を見せるわけにはいかない。カーラはそう決意した。


 今回も力尽くで脱出しようともがくライツに、必死にしがみつくカーラ。その顔は、どこか満ち足りていた。

(この命、永らえることができると分かってから、ずっと磨いてきた)

 その効果を予想通りに発揮することができた。カーラは喜びを覚えていた。


 しかし。


「くっ」


 予想以上にライツの抵抗が激しい。カーラは、その体ごと振り回されてしまう。星妖精の弱点である(はね)をつかんでいるというのに、これほどの力の差があるとは。


「しかたがない」


 カーラは、地面を見る。こちらをじっと見つめる洋介と視線が交錯した。


「ここは、貴様にならって力業でいこうじゃないか。星の姫よ」

 カーラは耳元でライツに(ささや)き、口元を(ゆが)めて笑った。

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