古代遺跡キーラ②
翌朝、ネルが用意してくれた朝食を済ませて夜営の片付けをする。今日はこの階層を探索しながら最下層を目指す予定だ。
それにしても、【気配察知】が全く反応しないな。昨日のエビルシャーク達も何処か遠くへ行ったしまったようだ。
【エコー】の範囲内には下層への道は見つからない為、取り敢えず川沿いに歩いて下流を目指す事に。
「ご主人様、昨日から遺跡を見て思ったのですが、ここは研究目的に使われていたのかもしれません」
「研究目的?」
「はい。上層は確かに侵入者を追い返すような造りでしたが、水槽とこの階層の自然を見るに、魔物の生態や植物の研究をしていたのではないかと」
「なるほどな。それならば水槽に橋が無かったりするのも、研究員だけの道があったかもしれないと推測出来る」
それにネルが言った通りこの階層だ。
まるで地上の自然を再現したかのように広大で、人工物は見当たらない。
そこに住む魔物や植物の観察目的ならば納得出来よう。
「しかしそうなりますと、最下層の卵というのがより気になりますね」
「研究の成果か、あるいはそれこそが研究対象であったか。何れにせよ注意すべきかと」
「うむ。情報が無い以上、警戒はしておいた方が良さそうだ」
川沿いに森を探索する事20分程、森の木に魔物ではない動物達を見るようになってきた。
鳥やリスなどの小動物ばかりだが、こういうものたちが研究対象なのだろうか。
川にも魚が泳いでおり、とても心安らぐ景色だ。
「む、【エコー】に反応があったぞ。下層への階段はその木の根本だ」
「これは…地面に擬態させた隠し通路のようです。他の冒険者達はよく見つけられましたね」
「罠感知や地形操作が出来る人には見付けられるでしょうから、そういう人達が情報を広めていったのだと思います」
情報を広めると言っても、こんな広い森の中であの木の根本だったと言われても、実際見つけられるかは怪しいがな。
通路の入り口を開け、梯子を降りて行く。最下層の一つ前だが、ここは確か階層の番人のようなものがいるらしい。
「番人とはアレのことか」
「ゴーレムですね。ステータスを見る限り、防御に特化された作りのようです。今送りますね」
ソフィアからステータスが送られてきたが、まだ頭痛はしないな。自分より格下ならば支障なしと思って良いのだろうか。
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名前:ーー
種族:アイアンゴーレム
レベル:58
体力:6128/6128
攻撃:2544
防御:5820
速度:462
ランク:A
『所持スキル』
【鉄壁】【硬質化】【不動】【プロテクション】【オートリカバリー】【アイアンストンプ】【金属鎧】
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ふむ、確かに防御特化だな。似たような防御スキルを重ね掛けしているタイプのようだ。
「ご主人様、このゴーレムはAランクなので、私達は壁側で待機しております」
「うむ。敵の攻撃範囲によってはいつでも動けるようにしておけ」
ゴーレムに近付きながら黒薔薇と炎姫を出す。鏢に分け全て飛ばしてみるが、刺さりもしないか。
ゴーレムが攻撃に反応して起動したようだ。目の部分が赤く光り歩き出す。私は素早くゴーレムの懐に潜り込み、炎姫を一本握って叩き付けるが、これも効果が薄い。少し表面が削れるだけで終わった。
「ご主人様の攻撃力でも通らないなんて」
「ステータスの数値ではなくスキルによる防御でしょう。少し厄介な相手ですね」
スキルによる防御か。ならばこちらもスキルで攻撃してみよう。
【アースバイト】と【ダークファング】を同時に発動し、ゴーレムを挟み込む。剣による攻撃と違い腕に深い傷を付ける。
だが削れた腕がすぐに再生し、元に戻った。これが【オートリカバリー】というやつか。
正直、倒すだけならば【グリムバイト】で一撃なのだが、戦いというものは毎回同じ手が通用するとは限らない。
故に、自分のスキルを上手く使う練習が必要と考え実践している。
今度は黒薔薇と炎姫に【呪い付与】を掛けて攻撃してみるが、私では効果が出たのか分からんな。
「ご主人様!ゴーレムにレベル3の呪いが掛かりました!」
「上手くいったようだな。ありがとうソフィア」
どうやら攻撃が通るのではなく、攻撃が当たる事が呪いの条件であるようだ。
レベル3ということはゴーレムのステータスは30%低下しているのだろう。
だがそれでも防御力4,000程というのは私が戦ってきた中で最大だ。どう攻略したものか。
その後も【暴風刃】や【エアクラッシュ】などを当ててみるが効果は薄い。
いつも使うスキルが効かないというのは、勝てると分かっていても不安にさせてくれるな。
いや、そうか。いつも使うスキルは斬撃と打撃系ばかり、敵はアイアンと名乗るのだから金属性、効果が薄いのも頷ける。
むしろ使い所が無かったスキルを使うべきなのか。
だが先に動いたのはゴーレムで、片足を大きく上げて勢いよく地面を踏み付けた。
その瞬間、グラグラと地面が大きく揺れてバランスが崩れそうになる。ソフィア達は然程影響が無いのを見ると、ゴーレムに近い程影響を受けやすいスキルのようだな。
揺れる地面を【地面操作】で抑えている間に、近くまで来たゴーレムが大きく振りかぶった腕で殴り掛かってくる。避けるのは容易いが、このレベルの魔物の攻撃を真正面から受け切れるか気になったので、片手で受け止めた。
ズンッという音が聞こえてきそうな重圧が右手に掛かるが、ゴーレムの腕も私の体もそれ以上は動かない。
攻撃力2,500程度ならば、スキルを使わずとも受け止められるのか。今まで【硬質化】や【鋼鉄化】していたが要らなかったようだな。
では今度こそ新しい戦い方を試そう。
【アシッドボール】と【溶解液】をゴーレムの全身に当てていく。
やはり思った通りだ。【アシッドボール】が当たった部分は錆びたように変色していき、【溶解液】が当たった所はドロドロに溶けていく。
相手の体の構造に合わせた戦い方が必要というわけだな。【オートリカバリー】でゴーレムが完全回復した後、もう十分だと判断して【グリムバイト】で即死させた。
「アイアンゴーレムの素材は何処が使えるか分かるか?」
「一応全身が金属なのでセッカの街では重宝しますが、捕食されるのでしたらゴーレムの核だけでも取り分けた方が良いかと」
「ゴーレムの核は頭の中にあります」
ゴーレムの頭の部分を、【鋼鉄化】を掛けて殴り割り、中にある赤い石のような物を取り出す。
ソフィアのリュックに石を収納してからゴーレムを捕食した。
〈アイアンゴーレムを捕食したことによりアイアンゴーレムへの変化が可能です〉
〈アイアンゴーレムに変化したことによりスキル【オートリカバリー】【不動】【アイアンストンプ(※)】を獲得しました〉
『【オートリカバリー】:毎秒体力の最大値の1%を回復する』
『【不動】:動いていない状態の時、防御力に補正(大)』
『【アイアンストンプ(※)】:地面を踏んだ衝撃で周囲の敵のバランスを崩す。近い程影響とダメージを受ける(※【鋼鉄化】【硬質化】発動時のみ使用可能)
ふむ、使用に制限が掛かるスキルは初めてだな。名前にアイアンと付くから相応の硬さでしか発動しないということか。
即死系などの攻撃手段ばかり最近手に入れてたからな、防御系のスキルが増えた事はありがたい。
「さて、確認も済んだ。いよいよ最下層へと向かうとしよう」
「はい、楽しみですねご主人様!」
「ご主人様ならばきっと卵も応えてくれるでしょう」
過度な期待をすると、何も無かった時に辛いぞ?
こういったものを前にも洞窟の奥の祠で経験しているからな。
あまり期待せず、『何か起これば良いな』程度に考えておくのだ。
ゴーレムが立っていた奥の扉を開け、そこから下へ続く螺旋階段を降りていく。
段々と明るくなり、最下層へ続く入り口が見えてきた。
中に入ると地上部分と似たような構造で、階層が一つの部屋になっており、柱が等間隔で並んでいる。
情報によると最下層は罠も仕掛けも無いらしいが、地上部分を昨日経験したばかりだと警戒してしまうな。
入り口から真っ直ぐ進んだ最奥に、台に乗った卵を発見した。
真っ白で40cm程の卵だが、こうも何の特徴も無いと市場で売ってる卵が大きくなったようにしか見えんな。
「これが例の卵だろうが、やはり何も起きんな」
「他の人達では壊す事も持ち帰る事も出来なかったそうですが、ご主人様は持ち上がりますか?」
「やってみよう……むぅ、駄目だな。何かで固定されてるのかと思う程に全く動かん」
「あの、一種の賭けになるかと思いますが、【捕食】はどうなのでしょうか」
ネルが恐る恐る進言してきた案は、確かに賭けに近いな。
捕食出来なければまだ良いが、捕食出来てしまったら正体も分からずに私の力になってしまう。
しかし現状それ以外に何も調べようが無いか。
私はいつもの【捕食】のように影を操作して卵を包む。
その瞬間、卵が突然光り輝いたので慌てて捕食を中断した。
「ご、ご主人様!これは⁉︎」
「まさか、私の影に反応したのか?」
「本当にご主人様が孵化させてしまうなんて…凄いですご主人様!」
卵の輝きが徐々に収まり、今度は卵の殻に罅が広がり始めた。卵全面を罅が覆い、中の生き物が動いているのか、殻の一部が剥がれていく。
そして遂に、殻の上半分が中の生き物によって完全に剥がされた。
「ピィー!ピッピィー!ピッ!?ピピピィッピィ⁉︎」
「なんだこれは?白い四つ足の生き物に翼が生えているが」
「ご主人様、これはドラゴンです!大変希少で強力な生き物ですよ!私も初めて見ました!」
珍しくネルが興奮しているが、それ程の生き物なのだな、ドラゴンとは。
「ご、ご主人様…ネル…離れて…早くソレから離れて下さい!」
「ソフィア?」
「ソフィア様?どうされたのですか?」
ソフィアの顔から血の気が失せ、酷く怯えたように後退る。
それはまるで、初めて私に会った時のようであった。
「は、早く…ご主人様、ネル…そ、ソレはご主人様とは違う!魔物がこんな力を持っていたら危険すぎます!」
言葉より実際に見た方が早いと思ったのか、私とネルにステータスが【念話】で送られてきたが、流石の私もこれには驚きを隠せず素早く後退した。
それと、今回初めて軽い頭痛が起きたが、このステータスならば仕方ないと納得出来る。
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名前:ーーー
種族:天上より舞い降りし竜
レベル:205
体力:5,086/12,608
攻撃:12,816[8,544×1.5]
防御:11,135[7,423×1.5]
速度:5910[3,940×1.5]
ランク:S
『パッシブスキル』
【ホーリーヴェール】【自動浄化】【暗視】【状態異常無効】【聖属性強化】【魔法耐性】
『補助スキル』
【サンクチュアリ】【浄化】【鑑定上級】【気配遮断】【ステータス閲覧】【パワーアップⅡ】【ディフェンスアップⅡ】【スピードアップⅡ】【エリアプロテクション】【鬼神の陣】【番人の陣】【狩人の陣】【吸生】
『攻撃スキル』
【ホーリーアロー】【火竜のブレスⅡ】【水竜のブレスⅡ】【雷竜のブレスⅡ】【地竜のブレス】【風竜のブレスⅡ】【聖竜のブレスⅢ】【ヘブンズゲート】
『回復スキル』
【浄化】【キュア】【ヒール】【ハイヒール】【グランヒール】【細胞再生】【レストレーション(※)】
『特殊スキル』
【竜の鱗】【竜王の加護】
【光転写】【再現操作】
[称号]
『天上へ誘うもの』『竜王の子』『ひとりぼっち』
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なんとも強大な…
私程では無いにしろ今までの魔物とは比べ物にならん。
ソフィアが怯えていたのも、私のように心や性格が分かる人間ではなく、魔物がこれ程の強さを持っているからだろう。
気になるのが、私の称号にある『深淵』と対になる『天上』という言葉。
もしや此奴も私と同じような存在なのか?
「ピッ!?ピッピィ!ピィピィピピィ!」
「むぅ、何なら嘆いているような鳴き方だな」
「あの必死に翼を動かす感じ、それに称号の『ひとりぼっち』から察するに、もしや卵の中でも意識があったのでしょうか?」
「ご主人様、ど、どうなさるのですか?」
「まずは様子を見ようと思うが、危ないから二人はもっと離れていろ」
ソフィア達が入り口まで退避したのを確認した後、私は再びドラゴンへと近付く。
「お前、私の言葉が分かるか?」
「ピピィ!ピピピピィ!」
首を縦に振っているから理解は出来ているみたいだな。
「お前は、私達と敵対し戦うつもりか?」
「ピィ⁉︎ピピィ!ピピピィピピ!」
今度はブンブンと首を横に振っているな。敵対するつもりは無いと言うことか。
まだ完全に安心は出来んが、この必死な姿を見るとどうもな…戦意が削がれるというか、少し可哀想に思えてくるのだ。
「お前、これからどうしたい?いつからここにいるか知らんが、自由になれたのなら好きに出て行けるぞ」
「ピィー…ピピィ、ピピピピィ。ピィーピピィピピピピィ」
いかん。今までは首の動きで大体察することが出来たが、こういう質問は全く答えが分からん。
「すまん、何を言っているか全く分からん。分かりやすく伝えられないか?」
「ピピィ⁉︎ピィ…ピピ!」
ドラゴンが羽撃いて私の肩へと乗ってくる。
これは連れてってほしいという事か?
「一緒に来たいのか?」
「ピィ!」
どうやらそのようだ。
しかし私は兎も角、ソフィア達には少し怖いだろうな。私のように言葉での意思疎通も難しいなら余計にだ。
「先程の二人は私の使用人だが、こんな化け物である私を慕いよくしてくれている大事な仲間だ。言葉が通じているのなら、どうか二人を怖がらせないでくれると助かる」
「ピッピィ!ピピピィ!」
何度も頷いてくれているから、大丈夫と思って良いのだろうか。
こればかりは互いに信じるしか無さそうだな。
竜を肩に乗せたままソフィア達の下へ向かうが、やはりソフィアは怯え、ネルは警戒しているようだ。
「ピピィ!ピィピッピピピィ!」
私の肩から地面に降りた竜が必死に翼を動かしながら頭を下げる。
これは、挨拶か?それとも宜しくお願いしますということか?
「ご主人様、どうなったのですか?」
「どうやら此奴は私達と共に来たいようでな。敵対する意思は無さそうだが、暫くは様子見となりそうだ。お前達には不安だろうが、少し猶予を与えてやってくれないか」
「ご主人様が決めた事でしたら私達は異論ありません」
「はい。少し怖いのは確かですが、この様子を見るに恐らく大丈夫かと思いますし」
良かった。二人共何とか受け入れてくれたようだ。
しかしこうなると、あの問題が出てくるな。
「では次の話だが、此奴の名前はステータスを見るにまだ無い。連れて行く以上名前は必要だろうが、何が良いか」
「ピィと鳴くので『ピィ』では如何でしょうか」
「ピィピィ!」
「…嫌みたいだな」
「では、古代遺跡キーラから発見されたので、『キーラ』」
「ピィー…ピィピィ!」
「これもダメか。白いドラゴン…『シロナ』はどうだ?」
「ピッ、ピピピィ!」
「お、縦に振っているぞ。シロナが良いのか?では此奴の名前はこれからシロナに決定だ」
「「はい、ご主人様!」」
「ピィ!ピピピピィ!」
シロナは二人を真似しているのか?
何だか最初に見た時より可愛く見えてきたな。
「さて、無事に最下層まで来れた上に卵も孵化してシロナが仲間になった。これ以上は何も無さそうだから、地上へ戻ろう」
「「はい!」」
今度は一階層ずつ上がって魔物達を捕食して行かねばな。
折角初見の魔物が多いのだから、戦力増強をせねば勿体ない。
私はシロナを再び肩に乗せ、地上を目指して行った。




